備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

ホラー

立風書房『現代怪奇小説集』中島河太郎・紀田順一郎/編(1974年)目次

201907現代怪奇小説集

今月、創元推理文庫から東雅夫編「平成怪奇小説傑作集」が発売されました。



それにしても、改元されて一番嬉しいのはこの手の「時代を振り返る」企画ですね。
そこでふと、この手の怪奇小説アンソロジーの大御所である、中島河太郎・紀田順一郎の編纂による「現代怪奇小説集」を思い出したので、このブログの例によって目次をご紹介しておきます。

これは立風書房から出ていたアンソロジーで、筆者は1974年に刊行された3巻本を持っていますが、ネットで古書店など検索すると、2巻本、1巻本などいろいろなバージョンがあるようです。筆者の持っているものが初刊バージョンと思われるのですが、よくわかりません。立風書房は同じ内容の本を何度も装丁を変えて出し直すことがよくあり、これもその一つだったわけです。

というわけで、刊行形態はやや胡散臭い部分もあるのですが、収録作は非常にハイレベルです。ミステリ・SF・純文学と、いろいろな分野へ目配せしながら、戦前戦後を問わず、文句無しの恐怖小説を集めています。後年になって再評価されたとばかり思っていた作家・作品がすでにこのアンソロジーに収録されていたりして、その選球眼こそ恐ろしい、というべき内容です。

『現代怪奇小説集 1』

・人でなしの恋 江戸川乱歩
・蒲団 橘外男
・柘榴病 瀬下耽
・火焔つつじ 平山蘆江
・ウールの単衣を着た男 杉村顕道
・逆立ち幽霊 伊波南哲
・怪談 倉光俊夫
・奇妙な隊商 日影丈吉
・鬼火 吉屋信子
・博士の目 山川方夫
・風見鶏 都筑道夫
・薔薇の夜を旅するとき 中井英夫
・写真の女 小松左京
・白蟻 小栗虫太郎

『現代怪奇小説集 2』

・蔵の中 横溝正史
・十四人目の乗客 大下宇陀児
・角姫 三橋一夫
・怪談宋公館 火野葦平
・猫町 萩原朔太郎
・セメント樽の中の手紙 葉山嘉樹
・地獄へ行く門 伊藤松雄
・死霊 長田幹彦
・骨餓身峠死人葛 野坂昭如
・生きていた死者 遠藤周作
・箪笥 半村良
・怪異馬霊教 香山滋

『現代怪奇小説集 3』

・難船小僧 夢野久作
・予言 久生十蘭
・ココア山の話 稲垣足穂
・手術 小酒井不木
・ママゴト 城昌幸
・怪談 畑耕一
・アリア人の孤独 松永延造
・蝋人 山田風太郎
・兵隊と幽霊 柴田練三郎
・おーい でてこーい 星新一
・長い暗い冬 曾野綾子
・真夜中の檻 平井呈一

バージョンを問わなければ古本屋でいくらでも買えるようですが、ネット通販の場合はよく確認しないと「全1巻」バージョンを注文したつもりが「全3巻のうち第1巻」が届いたりすることがあるかと思いますので、ご注意を。

3月は、伊藤潤二ファンはお腹いっぱいの月でした

201904異形世界312

3月は伊藤潤二ファンには大忙しの月でした。
まずは、短編集「伊藤潤二短編集 BEST OF BEST」の刊行。



タイトルを見て、単に傑作選を大判で出す、というだけの企画かと思っていたら大間違い!
雑誌掲載後、これまで短編集に未収録だった作品を集めたものでした。
しかし、それを聞いても、そんな落ち穂拾いみたいな内容(しかも、掲載誌は小学館限定)では大した内容ではなかろうと思っていたら、これまた大間違い!
びっくりするくらい傑作揃い!
未収録作品ばかり、と言いながら「大黒柱悲話」「阿彌殻断層の怪」など、過去に読んだことのある作品も入っていますが、どれもものすごいハイレベル。
正直なところ、小学館で発表された作品は、朝日ソノラマで描かれたものに比べると、あまり筆者の好みではなかったのですが、今回の短編集は初期の傑作群に通じる雰囲気の作品がたくさんあり、大いに楽しめました。

さて、これだけでも大満足だったところへもう一発。

伊藤潤二画集 異形世界 (Nemuki+コミックス)
伊藤潤二
朝日新聞出版
2019-03-20


伊藤潤二、初の画集です。
画集、といっても絵画集というわけではありません。
これまでにカラーで描いた扉絵、表紙絵を中心に、さまざまなイラストを集めたものです。
A4版という迫力のある大きな判型で、伊藤潤二の緻密な描線を心ゆくまで堪能できる、ファンにはたまらない内容です。
筆者としては、一番嬉しかったのは短編「寒気」の1ページが再掲されていたことです。
というのは、この短編、ストーリーも好きなのですが、何よりも精密な作画に圧倒されるんですよね。体中にボコボコと穴が空くという、かなりぶっ飛んだ発想の物語にもかかわらず、絶妙なバランスで空いた穴は説得力抜群。しかも、どのコマを見ても、穴の位置がきっかり同じ!
偏執的な情熱で描かれていると言わざるを得ません。
巻末のインタビューも絵描きとしてのこだわりが伺われ、充実した興味深い内容です。

というわけで、伊藤潤二初の大型本が2冊もほぼ同時刊行。
平成最後のビッグプレゼントでした。

関連記事:
伊藤潤二の魅力とは? おすすめ・最高傑作の紹介

澤村伊智「ずうのめ人形」(角川ホラー文庫)怪談・ホラーネタ解説


201812ずうのめ人形297

12月7日から公開されている映画「来る」の原作「ぼぎわんが、来る」。
この映画化を機会に、初めて読みました。
日本ホラー小説大賞が始まった頃は受賞作はすべて読んでおり、角川ホラー文庫に収録される作品もめぼしいものはチェックしていたのですが、気がついたらいつの間にかホラーを全然読まなくなってしまっていました。なので、この不思議なタイトルが書店で視界の中に入ってはいたのですが、こんな大傑作とは知らず、完全にスルーしていました。
いつもは映画化というだけで興味をそそられることはあまりないのですが、今回はこのショッキングピンクに改装された表紙が目に刺さってきて、手に取ることになりました。
もともとはもっと上品な雰囲気の装丁の本でした。自分がすでに読んで気に入っている本が、映画化ということでこんな派手な表紙になってしまったとしたら、いつもなら「あーあ」と思うところなのですが、今回はこの表紙のおかげで手に取ることになり、感謝感謝、という気分になりました。現金なものです。

それはともかく、「ぼぎわんが、来る」があまりに面白かったため(特に比嘉琴子、最高!)、ただちにシリーズ第2作の「ずうのめ人形」も買ってきました。
比嘉琴子の活躍がなかった点はちょっとがっかりでしたが、前作以上に凝った構成で非常に楽しめました。
著者の澤村伊智氏は、プロフィールを見ると筆者より4つほどお若いようですが、その年齢であれば映画「リング」の公開とほぼ同時にスタートした怪談・ホラーブームはリアルタイムで体験されているはずですが、「ずうのめ人形」作中に登場する手記はその映画「リング」が公開された1998年頃に舞台を設定しており、懐かしいネタが大量にぶち込まれていました。
若い読者にはピンと来ない点もあるかな、と思いましたので、お節介ながら気づいた点を解説していきたいと思います。

鈴木光司の小説「リング」が刊行されたのは1991年のことでしたが、初刊本は「ずうのめ人形」作中に書かれている通り女性の手がビデオテープを持っているイラストが表紙の、地味な本でした。
ホラー小説なのかどうかすらわからない状態で刊行されたのですが、筆者の場合はその年の「このミス」で絶賛されている記事を読み、興味を持って読みました。そんなことでも無ければ、全く手に取らない雰囲気の本でしたが、これは前年の横溝正史賞で最終選考まで残ったもので、「ミステリではない」という理由で落選していました。このような経緯があったため、一部のミステリファンには注目され、「このミス」にも記事が出たのでした。
1993年に角川ホラー文庫が創刊されると初回のラインナップに「リング」が入り、ここから大ロングセラーへの道が始まりました。
つまり、「ずうのめ人形」の手記が書かれた時期には、すでに文庫化されて続編の「らせん」も含めて人気作品だったわけなので、作中に初刊本が出てきたときは「あれ?」と思いました。しかし、ホラーを読み始めたばかりの中学生が図書館で借りた、という設定なので特に無理があるものではありません。

ちなみに主人公が同時に図書館で借りた本について。
「怪奇クラブ」は創元推理文庫から出ていた怪奇小説短編集。

怪奇クラブ (創元推理文庫)
アーサー マッケン
東京創元社
1970-06


「魔女のかくれ家」はカーの長編でやはり創元推理文庫に収録されていますが、児童向けの翻訳を借りているようなので、おそらくポプラ社文庫版でしょう。(筆者の家の近所の図書館には未だに蔵書があります)
「もっと見たいぞ!ホラー映画祭」は架空の本と思われます。
「怪奇小説傑作集 1」は、創元推理文庫に収録。今は新装版が現役です。

怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版] (創元推理文庫)
アルジャーノン・ブラックウッド
東京創元社
2006-01-31


その後、里穂とゆかりとのやり取りの中で出てくる「消えるヒッチハイカー」はこの本です。



もともとはハードカバーで刊行されましたが、リンク先はソフトカバーで出た新装版です。
「都市伝説」という概念を初めてまとめた著作とされており、「リング」や「新耳袋」などで盛り上がっていた98年頃には再注目されていました。

さて、ずうのめ人形は、呪われた者へちょっとずつ近づいてきますが、この「ちょっとずつ近づく」というのは「メリーさん」からの発想ではないでしょうか。「私メリーさん」と電話がかかってくる、というアレです。これのバリエーションでいろいろなホラーが生まれています。
また、里穂とゆかりが「悪魔のいけにえごっこ」や「死霊のはらわたごっこ」で遊ぶというのは、おそらくは友成純一のハードコアスプラッター「獣儀式」からの発想と思われます。筆者は「悪魔のいけにえごっこ」というのを見て「おや?」と思ったのですが、結局、ラストまで読むとその「おや?」は正しかったことがわかります。
友成純一は80年代にスプラッターを書き散らしており、竹本健治の「ウロボロスの偽書」にも登場しますが、2000年ごろににわかに旧作が注目され、代表作と言われる「獣儀式」が幻冬舎アウトロー文庫から再刊されたりしました。もともとはマドンナメイトという二見書房の官能小説レーベルから刊行されていました。

獣儀式 (幻冬舎アウトロー文庫)
友成 純一
幻冬舎
2000-06


さて、そんなわけで筆者としては作者と同年代(ほぼ)という点でも堪能できましたが、ネタがわかってもわからなくても楽しめる、非常に良く出来た小説です。こっちも映画化されると良いなと思います。

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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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