備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

国内ミステリ

桂千穂✕掛札昌裕『本当に面白い怪奇&ミステリー 1945⇒2015』(メディアックス・2015年)

202009怪奇&ミステリー027

先月、脚本家の桂千穂氏が亡くなりました。
「HOUSE」「ふたり」などで組んだ盟友というべき大林宣彦監督と相前後してなくなったということになりますが、実は筆者は、氏の業績については数多くの名脚本より、晩年に立て続けにメディアックスからムックで刊行された「戦後映画の語り部」 という一面が強く印象に残っています。
ズラッと並べるとこんな状態。(かなり出ていたので、見落としがあるかもしれません)









新東宝は“映画の宝庫”だった
メディアックス
2015-03-02










いずれも、表紙にバンと「桂千穂」と出ていても、ムックなので一人で執筆しているわけではなく、また編者というわけでもなく、メインライターとして参加しているだけのものがほとんどですが、とはいえ読んでみると、やはり表紙にバンと名前を上げたくなるのも納得の活躍ぶりです。

このシリーズで、筆者が最も気に入っているのは2015年11月に出た「本当に面白い怪奇&ミステリー 1945⇒2015」ですね。
「恐怖奇形人間」の脚本家・掛札昌裕との共著という扱いになっていますが、この二人で戦後日本のミステリ映画を片端から語りまくってます。
表紙に「みんなが知っている怪奇映画から〝誰も知らない〟ミステリーまで」とありますが、実際のところ全然知らなかった映画ばかり!
神津恭介が登場しない「刺青殺人事件」とか、フィルポッツ「闇からの声」が原作の「悪魔の乾杯」とか、「そんな映画があったの!?」と驚くようなものがずらりと並びます。
なおかつ著者2人はそれらを劇場公開時に見ていて、「観客の反応はこんな風だった」というような思い出話を織り交ぜながら語るので、読み物としての興味も、資料価値も一級の仕上がり。
「犬神家の謎 悪魔は踊る」とか「獄門島・獄門島解明編」のように、有名ではあっても、もはやフィルムが失われている映画についても当時見た感想を述べているのですから、最強です。

というわけで、ともかく亡くなる前にこれだけのことを記録に残してくださいまして、本当にありがとうございました、という感想しかないのですが、筆者としてはこの本は死ぬまで手元に置いて、定期的に読み返すことになるだろうと考えています。
だって、今後、こんな本を書ける人はもう絶対に現れないから。
刊行から早くも5年も経っていることに、この記事を書きながら初めて思いが至りましたが、ムックで出したキリにしてないで、改めて単行本化してもよいのでは、と思っております。



結城昌治「軍旗はためく下に」復刊&深作欣二監督映画DVD発売!

202007軍旗はためく下に026

結城昌治の直木賞受賞作「軍旗はためく下に」。
それぞれに思惑を秘めた人物へのインタビューを繰り返し、じょじょに戦場で起きた真実が明らかになっていく……という、芥川龍之介の「藪の中」風の物語で、筆者としては見事なミステリだと思っていますが、社会派小説として人気があります。

これまで中公文庫が何度か再刊を繰り返していましたが、今月また「増補新版」と銘打って刊行されます。

軍旗はためく下に-増補新版 (中公文庫 ゆ 2-23)
結城 昌治
中央公論新社
2020-07-22


さて、この小説は深作欣二によって映画化もされています。
新星映画という、詳しいことはよく知らないのですが、東宝から独立した監督たちによるプロダクションで製作され、東宝が配給した映画です。
Amazon Primeでも配信されていて見るのは難しくないのですが、なぜかこれまで日本ではDVDが発売されていませんでした。
筆者は15年くらい前にアメリカで発売されたDVDを持っていたのですが、リージョン1のプレイヤーを捨ててしまってから(正確には、妻に捨てられてしまってから)、ずっと見られませんでした。
深作欣二ファンとして国内盤の発売を待ち望んでいたのですが、あまり「東宝映画」という印象がなかったため、不覚にもこちらが発売されたときには見逃していました。



気づいたときには売り切れたあとで、これは本当にガッカリしましたね(しかし、転売屋からは絶対に買わない)。
かくなる上は、東宝が正規にDVDを発売してくれるのを待つしかなかったわけですが、とうとう出ますよ!



しかも価格は2000円! デアゴスティーニのはむしろ買わなくてよかった!

原作を読んだのも20年くらい前、映画を見たのも10年以上前、という状態なので、果たしてどれくらい原作に忠実だったか、細かいことは正直、何も覚えていないのですが、けっこう原作通りだったよなあ、という気がしています(きわめて曖昧)。
結城昌治ファン、深作欣二ファンはこの機会を逃さず、文庫とDVD、両方を買っておかれることをおすすめします。

深作欣二の人気作で、まだDVDになっていないのはこれで残すところ「黒蜥蜴」くらいですね。

待望の一冊!「映画の匠 野村芳太郎」(ワイズ出版)

202006映画の匠025

待ちに待っていた本が出ました。「映画の匠 野村芳太郎」(ワイズ出版)。
「砂の器」や「八つ墓村」で有名な映画監督・野村芳太郎の評伝です。

映画の匠 野村芳太郎
野村芳太郎
ワイズ出版
2020-06-08


「待ちに待っていた」と言いつつ、実は刊行されてから2週間近くもこんな本が出ていることに気づいていませんでした。
今月発売の「映画秘宝」で紹介されている記事を読み、「やばい!!」と焦って、もう一回、本屋へ駆け戻りましたよ。こんな本すぐ売り切れちゃいますからね。
実際の話、筆者が買ったのはそのお店では最後の一冊で、店員さんの話では10冊くらい仕入れたのに売れちゃったとのこと。税込で4000円近くするのに、マジでやばい本なんですよ、これは。

 さて、何をそんなに興奮しているかといえば、これほどの大監督でありながら、これまで「野村芳太郎」をテーマにした本というのは全くなかったのです。
「砂の器」のほかに「張込み」「ゼロの焦点」「影の車」「鬼畜」「疑惑」等々、松本清張原作の映画を数多く撮っているため、「松本清張映画」という切り口の本では、必ず野村芳太郎作品も取り上げられていますが、野村芳太郎を主人公にした本というのは皆無でした。

野村芳太郎を厚めに取り上げている本としては、過去に2014年のムック「松本清張映像作品 サスペンスと感動の秘密」(メディアックス)がありました。
桂千穂が往年の日本映画を語る企画が同じ体裁で続々と刊行されていましたが、その中の一冊です。
冒頭に編集部の前書きがあり、「本屋に行って野村監督についての資料を探したが、ほとんどなかった。一冊で、野村監督だけでなく、松本清張の映画化作品が全部わかるムックを作ろうと思った」と書かれていますが、本当にその通りで、この本が出た際にも、筆者は「とうとう野村芳太郎本が!!」と興奮したもんです。
岩下志麻や撮影監督・川又昂のインタビューをたっぷり収録しており、ファンには楽しい内容で、またこのあとで川又氏は亡くなってしまいましたので、その点でも貴重な証言を収録することができたといえる本でした。



以前にそのようなものが刊行されているとはいえ、それでもやはりファンとしては「野村芳太郎をテーマにした一冊」を待ち望んでいました。「松本清張」とセットでは、「鬼畜」や「影の車」の裏話はしっかりわかるものの、「八つ墓村」「事件」「震える舌」「配達されない三通の手紙」あたりはスルーしてしまうしかないですからね。
そんなわけで、タイトルを見ただけで興奮はMAXに達してしまいました。

さらに!
内容は望んでもいなかったような豪華なものでした。
野村監督は晩年に自身の全作品を振り返るノートを書いていました。
存在すらほとんど知られていないものだったのですが、それを息子さんの野村芳樹氏が監修してまるまる収録しているのです。
「映画監督 深作欣二」や「遊撃の美学 映画監督中島貞夫」など、ワイズ出版からはこれまで、全作品インタビュー企画がいろいろ出ていますが、すでに故人である野村芳太郎についてそのような本を作るなんてことは、望んでも叶わない、不可能な話でした。
ところが、実は生前に本人がメモを残していたなんて!
監督本人の視線から見ると、例えば「映画秘宝」などでは、もはやホラー映画として扱われている「震える舌」なんかも、「儲からなくても異色の作品に取り組みたい」→「締まって強い映画ができた」→「全体的には批評も少なく、つまり、観る側でとまどいがあり、オカルト的に映ったのが非常に裏目に出たといえる」ということになります。

ほかに「鬼畜」をめぐる松本清張との対談、「砂の器」のシナリオ分析、「配達されない三通の手紙」公開時の「ミステリマガジン」でのインタビュー、新たに行われた岩下志麻や大竹しのぶへのインタビューなど、特に晩年の監督作を好む筆者には、たまらない内容がぎっしり詰まっています。

以前に出たメディアックスのムックと本書とを合わせると、これで野村芳太郎についてはほぼ語り尽くされたのでは?と思うくらい、満足度の高い一冊です。資料価値も高く、ファンは必ず手元に置いておいたほうがよいかと思います。

それにしても、出ていることに気づいていなかったのはやばかった。「映画秘宝」が復活してくれて本当によかった。これまで迂闊にも、Twitterでワイズ出版をフォローしていなかったのですが、今後、このような重要な情報を見逃すことが無いよう、ちゃんとフォローすることにしましたよ。

映画の匠 野村芳太郎
野村芳太郎
ワイズ出版
2020-06-08




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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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