備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

国内ミステリ

小学5年生の息子が読む「斜め屋敷の犯罪」

201908斜め屋敷の犯罪330

昨日、小学5年生の長男が取り組んでいる夏休みの工作を手伝っていたときのこと。
モーターで木の棒を回転させ、その動きを利用して模型を上下に動かそうとしていたのですが、そもそも設計の段階で恐るべき精密さを要求されるメカニズムで、これはムリだろうと思っていたところ、案の定、あちこちに引っかかって全くうまくいかない。
もうかれこれ半月くらい、この仕掛けを成功させようと頑張っていたわけですが、あきらめてガラリとやり方を変え、モーターで糸を巻き取り、模型を引っ張り上げるという形にすることにしました。

作業しながら、ふと「これは『本陣殺人事件』だなあ」とつぶやくと、ここ最近、すっかりミステリ好きになり、はやみねかおるばかり読んでいる息子がすごい勢いで「なにそれ、なにそれ」と食いついてきました。
そこで「本陣殺人事件」という、すごいトリックのミステリがあってね。そうそう金田一耕助のデビュー作だよ……という話をしていたわけですが、「その本持ってるの?読みたい読みたい!」と言い出したのには困りました。

筆者が「本陣殺人事件」を読んだのは小学6年生のときだったので、5年生の息子でも読めないことはないと思います。がしかし、この小説の動機は小学生には理解できないぜ?
かく言う、筆者も「初夜」だとか「処女」だとかいう概念は持ち合わせていないときにこの小説を読んだため、動機はいまいち理解できず。とはいえまあ、ミステリ的には動機は大きな問題ではないからまあいいか、ということで済ませてきましたが、しかし、よくわからんだろうということがわかっているのにオススメするのは、少々気が引けます(だったら、最初からタイトルを言わなければ良い話なんですが)。
とはいえ、せっかく息子が「面白いミステリに挑戦したい!」と意欲的になっているのを潰してしまうのももったいないので、おすすめのミステリを急いで考えましたよ。

まずは、「本陣殺人事件」から始まった話なので横溝正史で何か。
……うーん、全滅。
筆者が一番最初に読んだ横溝正史は、やはり小学6年生のときの「犬神家の一族」でしたが、子どもが生まれるメカニズムも知らず、いわんや「衆道の契り」なんてどんなことなのか皆目見当もつかない時期に読んだため、かなり面白く読んだ記憶はあるものの、事件の動機などを正確に理解できたのは、中学生になってからレンタルビデオで映画を借りてからでした。
他にも
「獄門島」……内容的に問題ないが、ミステリをあまり理解していない時期に読んでしまうともったいない、というのが筆者の持論。
「八つ墓村」……血の気が多い小説は苦手な様子なのでパス。
「悪魔が来りて笛を吹く」……「犬神家の一族」以上に小学生には難解。
……という感じで、ひとまず横溝正史をおすすめするのはやめました。

では、島田荘司ならどうか。
筆者が読んだのは中学2年生のときだったため、小学生よりは遥かに読解力があり、いま読み返してみても、初読時にほぼ完璧に楽しめていました。しかし、小学5年生にはどうか。
「占星術殺人事件」……冒頭の手記でつまづきそう。
「斜め屋敷の犯罪」……えーっと、これは……特に問題なし! これだ!

というわけで、息子には「本陣殺人事件」から全力で話をそらし、「斜め屋敷の犯罪」が驚天動地の大トリックを駆使したすごい小説であることを熱く語ると、まんまと「読みたい読みたい」と言い始めたため、工作はさっさと終わらせ、中学生の頃にあまりに読み返しすぎて小口が真っ黒になった「斜め屋敷の犯罪」(光文社文庫版)を貸し与えたのでした。
無事に最後まで読み通し、トリックはもちろん、ゴーレムを前にした御手洗の悪ふざけや、図書室での戦争シーンにも喜んでいたので、この作品の魅力はしっかりと読み取ってくれたようです。

さて、そうなると、今後は青い鳥文庫だけでなく、大人向けのミステリにも興味を示しそうですが、何を薦めたらいいんでしょうね。
自分の経験から言って、中学生になった何を読んでも理解できると思いますが、小学生となるとやはり作中で性愛が描かれていると(なおかつそれが事件の重要なポイントだったりすると)、今の時期に読んでしまうと理解できなくてもったいないな、と思ってしまいます。
まあ、そういう小説から男女の秘め事を学んでも別に構わないのですが、ストーリーがうまく理解できなくて作品の魅力が減じられるのは問題だなあ、と。

というわけでしばらくは、「小学生に本格ミステリを読ませる順番」について悩む日々を送ることになりそうです。

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 島田荘司を読んだことがない方へ、読む順番のおすすめを指南

平成の復刊ミステリ・その2 国書刊行会・探偵クラブ

201906とむらい機関車324

平成の復刊ブームをおさらいするシリーズ。第2回に紹介するのは1992~94年(平成4~6年)にかけて国書刊行会が出版した「探偵クラブ」です。
大阪圭吉がミステリファンのあいだで再評価されるようになったのは、このシリーズの第1回配本「とむらい機関車」がきっかけだったのではないかと記憶します。

鮎川哲也がライフワークのように続けていた企画に「幻の探偵作家を求めて」があります。
70年代の後半に雑誌「幻影城」で始まったシリーズで、その後、媒体を変えながら90年代まで続きましたが、消息不明となっている戦前の探偵作家を訪ね歩く内容でした。
同題の単行本は探訪記のみ収録されましたが、雑誌掲載時には、その作家の代表作も併録され、今にして思えば、今日の復刊ブームに対してこの企画が与えた影響は非常に大きなものがあったと感じられます。
今回紹介する「探偵クラブ」も、この流れから生まれた企画ではないかと思われる雰囲気があり、第1回配本には「幻の探偵作家を求めて」でも取り上げられた大阪圭吉が登場し、解説は鮎川哲也でした。
あとに続く巻でも、それぞれの作家の代表作をガッチリと抑え、今に至る復刊ブームの先駆けになったものと言えます。

刊行からすでに25年が経っていますが、さすが国書刊行会と言うべきか、一部の巻は未だに在庫が残っていて、新刊書店の棚に並んでいたりします(別に重版しているわけではなく、単に売れ残っている。しかし、裁断処分などにはしていない)。品切れになっている巻も、古本での入手は比較的容易です。
「幻の探偵作家を求めて」自体はすでに幻になりつつあり、近い内に復刊されるという話も目にしましたが、合わせてこのシリーズもおすすめです。

大阪圭吉 「とむらい機関車
三橋一夫 「勇士カリガッチ博士
葛山二郎 「股から覗く
渡辺啓助 「聖悪魔
蒼井雄 「瀬戸内海の惨劇
山田風太郎 「虚像淫楽
大坪砂男 「天狗
岡田鯱彦 「薫大将と匂の宮
蘭郁二郎 「火星の魔術師
城昌幸 「怪奇製造人
大下宇陀児 「烙印
甲賀三郎 「緑色の犯罪
角田喜久雄 「奇蹟のボレロ
井上良夫 「探偵小説のプロフィル
小酒井不木 「人工心臓

「ミステリー文学資料館」訪問

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出張で東京へ行ったついでに要町にある「ミステリー文学資料館」を覗いてきました。
訪問したのは今回が初めてです。
東京へは頻繁に出張しているのですが、いつも分刻みに近いスケジュールで動いているため遊んでいるヒマなど全くありません。ところが今回、予定が一つキャンセルになり、池袋近辺で1時間半ほど時間が空くという僥倖に恵まれたため、ちょうど開催中の「綾辻行人の世界展」を覗いてみたいと思っていたこともあり、行ってみたわけです。

筆者は15年ほど前に池袋近辺で勤務していたことがあり、実はその頃、このミステリー文学資料館の前を毎日のように自転車で通り過ぎていました。ちょうど開館したばかりの時期です。
しかし、東京に暮らしていたときに強く実感したのですが、「いつでも行ける」と思っている場所って絶対に行かないんですよね。
上京前には、東京へ行く機会があると必ず覗いていた神保町の古書店街も、東京に暮らしていたあいだには数える程度の回数しか行きませんでした。
ミステリー文学資料館も、通勤で前を通りかかる時間帯は常に開館時間外ということもあり、休日にわざわざ池袋方面へ出かけるのも億劫だなあ、という感じで一度も訪れることなく過ごしてしまっていました。そして東京を離れてからは、池袋から1駅離れているという微妙な立地のためますます機会を失っていたわけです。

今回は綾辻行人展が動機となり、初めて300円払って中へ入ってみました。
……これはやはり、東京に住んでいた頃に休日にわざわざ出かけるべき場所でしたね。

肝心の「綾辻行人の世界展」自体は、資料館の一角を衝立で囲ってこじんまりと行われており、興味深い展示物といえば乱歩賞に応募したという「追悼の島」(「十角館の殺人」の原型作品)や、小野不由美による「霧越邸殺人事件」図面などの生原稿くらいですね。綾辻さんの若い頃の写真がたくさんが飾ってありましたが、なるほど半年くらい前にTwitterで盛んに昔の写真を投稿されていたのはこのためだったのか、と今更気づいたり。
この辺、おみやげ用に図録でもあれば買いたかったところですが、そういったものはありませんでした。資料館が定期刊行している「ミステリー文学資料館ニュース」にはインタビューが掲載されていますが、これも雑誌「ジャーロ」に掲載されたロングインタビューのダイジェスト版ということです(電子雑誌は買わないので、これはこれで楽しい内容でしたが)。

さて、それよりもやはり収蔵図書は目を瞠る内容でした。
横溝正史「呪ひの塔」、甲賀三郎「姿なき怪盗」、浜尾四郎「鉄鎖殺人事件」に、乱歩名義の「蠢く触手」を収録し、戦前の探偵小説叢書としては知名度の高い「新作探偵小説全集」がなかなかの美本で手に取れる状態で置いてあり、これはちょっと感動しました。古本屋でたまに端本を見かけますし、検索してみると今もヤフオクで「60万円」などという価格で揃いが出品されたりしているので、モノ自体はそれほど極端に珍しいわけでも無いようですが、手にとって閲覧できるのは日本中でここだけでしょう。実は学生の頃、「蠢く触手」を読んでみたくて(やはり東京旅行の際に時間を作って)国会図書館へ行ったことがあるのですが、収蔵されている本は途中のページが脱落しているものでした。その後、春陽文庫から復刊されたのでまともに読めるようになりはしましたが、国会図書館ですら読めなかったものが普通に並んでいるというのはなかなかすごいことですね。

雑誌も膨大に並んでいますが、1時間しか滞在時間がなかったということもあり、特にチェックすべき号のリストを作っていたわけでもないため、何も見ないで出てきましたが、次に機会があればしっかり準備をしていったほうがよいでしょう。

当然、閲覧できるだろうと思っていたのに見当たらなかったのは「推理作家協会会報」ですね。
以前に柏書房が探偵作家クラブ会報を復刻していたことがあり、当時中学生だった筆者は本屋で「へえー」と思いながら立ち読みしていましたが、さすがに価格が価格なので買いませんでした。(今も当時とあまり変わらない価格でAmazonなどに出品はされていますが、今は価格より置き場所の問題が……)
ミステリー文学資料館なら復刻されていない時期のものも含めて見られるかな、と思っていましたが見かけませんでした。探し方が悪い、あるいは閉架になっている可能性もありますが。
探偵作家クラブ会報、推理作家協会会報は、単行本未収録のエッセイや評論などもちょこちょこあるという噂で、これまたチェックすべき号を押さえてから閲覧しないとなかなか厳しいものがあるとは思いますが、一度手にとって読んでみたいものです。



というわけで、今回は約1時間の滞在で、棚を眺めただけで堪能できるレベルには程遠かったのですが、まあいずれまた何か機会があれば、しっかりと準備した上で覗きに行きたいものだと思いました。

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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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