備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

映画本

「A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る」(立東舎)は映画秘宝の忘れ形見?

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書店の映画本コーナーへ行って、のけぞりました。
こんな本が出ていたの、全然気づいていなかった……
10月末に刊行された「A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る」(立東舎)です。
750ページもある大著。
全監督作について、詳細なインタビューに答えています。

この手の、映画人に対する全作品インタビューという企画が私は大好きで、これまでにも笠原和夫、深作欣二、中島貞夫、小林正樹、佐藤純彌、野村芳太郎(インタビューじゃないけど)、といろいろ読んできましたが、それらと比較しても1作品に対するページ数や掘り下げなど、群を抜いている仕上がりと感じました。
私が最も好きな大林映画は高校一年生のとき、なんとなく一人で見に行ってとんでもない衝撃をくらって帰ってきた「ふたり」ですが、石田ひかりのエピソードはもちろん、製作のきっかけや技術面など詳細に語っていて、堪能しました。
さらに素敵なのが、大林宣彦映画と縁の深かった人やファンを公言している著名人から「一番好きな作品」についてアンケートを取り、その中で寄せられた大林監督への質問一つ一つ、丁寧に回答しているコーナー。監督の真摯な人柄を感じます。
「ふたり」の脚本は、大林監督の盟友・桂千穂ですが、桂氏は最も好きな大林映画として「ふたり」を挙げていて、それもとてもうれしく感じました。

真摯な、といえば本書を開いて真っ先に注目したのは問題作「漂流教室」について。
予想外の内容に驚きました。
ドタバタしていた舞台裏を打ち明け、真摯な反省を口にしています。
以前、「映画秘宝」に楳図かずおのインタビューが載ったとき、「漂流教室」から20年近く経っていたにも関わらず、未だに仕上がりに激怒していたので、監督の方はどんな風に思っているのかな、と気になっていたのですが、本書のインタビューを読んでなんだかホッとするような気持ちになりました。大森一樹による「漂流教室」評も、大林監督に対する愛を感じました。

ところで本書ですが、立東舎からこんなに分厚い映画本が出るとは意外な、と思ったのですが、インタビュアーを務めた馬飼野元宏氏による序文を読むと「出版を予定した版元の消失」とあり、なるほど、これは洋泉社から映画秘宝コレクションか何かの形で刊行される予定だったようです。
映画秘宝バージョンの装丁だったらどんな本になっていたのか、それも見てみたかった気がしますが、実際に刊行された本書の装丁はとてもいい感じで、永久保存版として書棚を飾るのにふさわしい一冊です。


「仁義の墓場」裏話もたっぷり収録された「文藝別冊 渡哲也」

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河出書房新社のムックシリーズ「文藝別冊」から渡哲也特集号が刊行されました。

渡哲也といえば、「西部警察」大門軍団のイメージが強いのですが、個人的にはあまりそこには思い入れがありません。中学生のころ(平成元年ごろ)は、夕方に帰ってくるとほぼ毎日「西部警察」が再放送されていて、当然熱心に見ていたわけですが、当時はこの世で一番カッコいい男は舘ひろしだと思い込んでいて、ポッポこと鳩村刑事目当てで見ていたわけです。
同じ時間帯に裏で「あぶない刑事」の再放送をやっていると、そっちを見ていたりして、特に渡哲也には注目をしておりませんでした。
では、渡哲也といえば何が真っ先にあがるかといえば、深作欣二監督の名作「仁義の墓場」です。
渡哲也が亡くなったことで大門軍団にフォーカスした書籍や雑誌特集などが色々出ているものの、それらはすべてスルーしていました。
文藝別冊もそれほど期待はしていなかったのですが、書店でパラパラと眺めると前半を春日太一氏が責任編集ということで「仁義の墓場」についてもかなりページが割かれていました(なんと多岐川裕美のインタビューまで!)。
一気にテンションが上って買ってきたわけです。

「仁義の墓場」は私が生まれた年に公開された映画なので、見たのは大人になってDVDが発売されてから。実録シリーズの一つとして、特に予備知識もなく見たのですが、これは強烈でした。
以降、何度も見直しています。
鴨井達比古によるシナリオが深作欣二のお気に召さず、松田寛夫、神波史男によって改稿(というレベルではなくイチから作り直した)シナリオを元に撮影されています。
それを含めた製作過程については、これまでに
・深作欣二へのインタビュー(ワイズ出版「映画監督 深作欣二」に収録)
・鴨井達比古による第四稿とエッセイ(月刊「シナリオ」1975年5月号に収録)
・神波史男による鴨井達比古への反論エッセイ(「映画芸術」2012年12月増刊「ぼうふら脚本家神波史男の光芒」に収録)
などで読んでいました。
それぞれ比較すると話に若干の食い違いがあるように感じるものの、総じて「大変だった」ということになるのですが、今回の「文藝別冊 渡哲也」に収録された助監督・梶間俊一氏へのインタビューはこれまで読んだ中で最も面白い内容でした。
シナリオを巡るトラブルはサラッとしか触れていませんが、タイトルバックのエピソードからして抱腹絶倒。深作欣二がどんな風にすごい監督だったかということが、非常によくわかります。
余談ですが、私が「仁義の墓場」で一番好きなのはこのタイトルバックで、自分の結婚式のとき、恒例の「生い立ちビデオ」はこのタイトルバックのパロディにしようと思っていたくらいなのですが、音源が手に入らず、うまくまとめるセンスもないため諦めました。

渡哲也や田中邦衛の怪演についても壮絶な話ばかりで、いやこれはほんと、シナリオ云々を超越して「深作欣二と渡哲也の映画」だったんだなあ、と思いました。
梶間俊一、多岐川裕美のインタビューを合わせて、「仁義の墓場」については20ページも語られています。ファンはお見逃しなく。

渡哲也 (文藝別冊)
河出書房新社
2020-11-25


春日太一『黙示録――映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』(文藝春秋)

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春日太一氏の新刊「黙示録――映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄」を読みました。
これは本当に読んで良かった本ですね。好きな映画の裏話が聞ける、というレベルではなく、80~90年代の邦画に対する認識がガラリと改まりました。

そもそも、奥山和由というプロデューサーに対してはあまりよい印象を持っていませんでした。
親のコネで松竹へ入社すると「ハチ公物語」の大ヒットで調子に乗り、「RAMPO」では監督をないがしろにする横暴ぶり。「226」で笠原和夫の顰蹙を買い、ついには親子で松竹を追放される。
もちろん北野武監督を誕生させたり、「丑三つの村」「GONIN」など、筆者の大好きな映画をたくさんプロデュースしているということは知っていました。
しかし、それらの成果はすべて監督のおかげ、と思っており、プロデューサーの存在はほとんど意識していなかったわけです。
「いつかギラギラする日」なんかは、深作欣二と笠原和夫の秘蔵の企画からタイトルだけ持っていきやがって、とほとんど言い掛かりに近いことまで思っていました。

しかし、本書を読むと、これらはすべて全くの誤解。勘違い。
奥山和由が熱い思いとアイデアとを持って取り組んだことで生まれた作品であったということがよくわかります。
華々しい活躍ぶりは、筆者のごとき世間一般の素人からは胡散臭い目で見られ、松竹を追い出されたときにはマスコミからバッシングを受けます。しかし、このときに深作欣二や菅原文太という文句なしに信頼できる人たちから送られた直筆の手紙には泣きました。
映画プロデューサーというのは、角川春樹にしても奥山和由にしても、会社を追い出されてなんぼ、っていうものなんでしょうかね。

改めてプロデュース作を見直していこうという気になりました。
さっそく「いつかギラギラする日」のDVDを我が家のコレクションから取り出して見ていたわけですが、ラストシーン、ショーケンがパトカーの屋根の上を四駆で走り抜けるシーンは、本書の裏話を知ってから見ると爆笑です。

80~90年代の映画史として秀逸であり、奥山和由というプロデューサーの業績を記録したものとして貴重であり、名作の裏話として興味深い。
本当に読んで良かった本です。



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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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