備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

海外文学

「レ・ミゼラブル」ディーン・フジオカ主演でドラマ化!原作との違いは?

2019年1月6日に「レ・ミゼラブル」のドラマが放映されます。
ディーン・フジオカ主演で、舞台を現代へ移して……というと、昨春に放映された連続ドラマ「モンテ・クリスト伯」を思い出しますが、同じフジテレビでプロデューサーも同じ方のようなので、同じようなものを狙っているのでしょう。

筆者は以前にこんな記事も書いたくらい、「レ・ミゼラブル」は好きな小説です。
「レ・ミゼラブル」原作を読むなら、おすすめの文庫はどれ? 各社版徹底比較!
そんなわけで、割と期待して放映を待っているのですが、公式サイトで予告編を見ると、あまりにも原作とかけ離れていてちょっと驚きますね。間違って別のドラマの予告を見ているんだろうかと、何度も確認してしまいましたよ。
https://www.fujitv.co.jp/lesmiserables/

とりあえず、原作とドラマ、それぞれの登場人物をつないでみましょう。

ジャン・バルジャン……馬場純(ディーン・フジオカ)
ジャベール……斎藤涼介(井浦新)
ミリエル神父?……徳田浩章(奥田瑛二)
ファンティーヌ……不破唯(山本美月)
コゼット……不破梢(清原伽耶)
マリユス……碓氷慎(松下洸平)
テナルディエ夫妻……田辺夫妻(金子ノブアキ・長谷川京子)
エポニーヌ……田辺瑛里華(福田麻由子)

予告と公式サイトから推測できるのはこのくらいです。
ドラマでは、馬場純が少年時代に斎藤涼介の父親を殺してしまう、という設定が用意されているようですが、原作にはこのようなエピソードは全くありません。
ジャン・バルジャンはもともとは貧しさ故に無知な荒くれ者となり、20年近くも牢につながれますが、ミリエル神父と出会ったことで改心し、真人間として再出発し、マドレーヌ氏と改名して市長にまで上り詰めます。
ところが、ジャベール警部によってマドレーヌの正体がジャン・バルジャンだと暴かれ、再び牢へ入れられます。ここから再び脱獄。困窮のどん底にいるファンティーヌ、コゼットの母娘を救い、その後はコゼットを自分の娘として育て上げていく……という物語です。
ジャン・バルジャンが要所要所で、荒くれ者だったころの超人的な怪力を披露し、危機を切り抜けていくというアクションシーンが読みどころ(本当に)。

しかし、ドラマではずいぶんと違いますね。
ジャベールがジャン・バルジャンに執着する理由は、長大な原作を読むとそれはそれで納得できるのですが、2時間ドラマに収めるためには過去に因縁があり、復讐のため、とする方がわかりやすいのでしょうか。
他の登場人物では、マリユスはコゼットと愛し合い、最後には結ばれます。原作では終盤はこの2人の恋愛がメインのテーマとなってきます。
テナルディエはかつてのコゼットの雇い主で、ひどく虐待していたため、ジャン・バルジャンがコゼットを買い取ります。エポニーヌはその娘で、やはり性格が悪く、この一家が常にジャン・バルジャン、コゼットの敵として立ちはだかり続けるのですが、最後には少女らしい、愛らしさを隠し持っていたことがわかります。

というわけで、予想外に原作に忠実だった「モンテ・クリスト伯」とは違って、人間関係の大枠は原作を維持しているでしょうけれど、エピソードは自由に作り変えているものと思われます。
原作ファンとしては、それはそれでちょっと楽しみです。

手っ取り早く原作を読むなら、原作を半分くらいのボリュームにダイジェストした角川文庫版がおすすめです。





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ギリシア神話を知るには、おすすめの本はどれ? 大人から子どもまで各種紹介

201812ギリシア神話294

ギリシア神話は星座の伝説にも絡めて語られており、日本でも馴染みがあるのですが、プロメテウスだとかアポロンだとかイカロスだとか、登場する神々、人々の名前はなんとなく知っていても、体系的な物語としてはあまり深くは理解されていないのではないでしょうか。
しかし、ヨーロッパの文学、絵画、映画を鑑賞する際には聖書と並んで必須の知識となってきます。
今回は、ギリシア神話をコンパクトに理解するための本をいくつかご紹介します。

そもそも、ギリシア神話というのはベースになる本があるわけではありません。
古代ギリシアにおいて、口承されてきた伝説が詩や劇の形でじょじょに体系化されていったものであり、同じエピソードでも出典によって内容にゆらぎがあります。つまり、「この1冊を読めばギリシア神話のことはバッチリ!」という本は存在しないのです。

とはいえ、専門的に研究しようというのでなければ、有名なエピソードだけつまみ食いすれば充分です。
日本でおそらく一番よく読まれているギリシア神話の本は、阿刀田高のこの本ではないでしょうか。



全く初心者でも有名なエピソードを理解できるよう、興味深く平易な文章で書かれた入門書です。
一般的な教養としては、この本に書かれているレベルのことを知っていれば充分でしょう。
ただし、紹介されていないエピソードも多く、事典的な読み方には向いていません。
阿刀田高は本書以外にも聖書やコーラン、あるいは古事記や源氏物語、シェイクスピアなど、世界各国の文化の基礎になっている書物をやさしく紹介するシリーズを書いており、いずれもよく読まれています。

同じく初心者向け入門書でありながら、世に知られているエピソードをほぼもれなく収録しているのがトマス・ブルフィンチの著書です。日本での翻訳は現在、2種類が入手可能です。



完訳 ギリシア・ローマ神話〈上〉 (角川文庫)
トマス ブルフィンチ
角川書店
2004-05-01

完訳 ギリシア・ローマ神話〈下〉 (角川文庫)
トマス ブルフィンチ
角川書店
2004-05-01


ブルフィンチは19世紀のアメリカの作家で、アメリカの読者のためにヨーロッパの神話や伝承をまとめた著作を残しました。本書もその一つです。
非常に読みやすく、ギリシア神話の全体像を手軽に読むにはおすすめです。
角川文庫版に「完訳」と書かれていますが、岩波文庫版も完訳です。野上弥生子は戦前にこの作品を日本で最初に訳したことで知られていますが、本書は1978年に改訳されたものなので、それほど古臭い訳文ではありません。角川文庫版のほうが圧倒的に新しい訳ではありますが、ですます調の優しい文体で書かれた野上訳の方が筆者は好きです。

もう少し突っ込んで、ギリシア神話の深いところまで分け入っていくのであれば、こちらの本が決定版でしょう。




新潮文庫で長年、版を重ねているロングセラーなので、手軽な入門書かと思ったら大間違い。神話のエピソードはもちろん、その出典に至るまで非常に詳しく書かれた本で初心者が最初に読むには骨が折れるでしょう。
とはいえ、ギリシア神話について一通り理解した上で手に取れば、文庫本でありながら事典代わりにも使える充実した内容です。映画や小説で「?」と気になったことがあっても、本書が手元にあればすぐに調べられます。

というわけで、ギリシア神話についての一通りの知識は上記の本が揃っていれば充分です。
さらに深く、「原典」と呼ばれるものに触れてみたい、という方には以下のようなものがあります。

ギリシア神話 (岩波文庫)
アポロドーロス
岩波書店
1978-06-16


神統記 (岩波文庫 赤 107-1)
ヘシオドス
岩波書店
1984-01-17


ヘーシオドス 仕事と日 (岩波文庫)
ヘーシオドス
岩波書店
1986-05-16


ギリシア悲劇〈1〉アイスキュロス (ちくま文庫)
アイスキュロス
筑摩書房
1985-12-01


いずれも古代ギリシアの書物を翻訳したものです。
とはいえ、これが「原典」というわけではありません。冒頭に書いたとおり、ギリシア神話はさまざまな口承伝説の集合体だからです。これらの書物が表された時点ですでに、昔々から伝えられている物語を記述した、というものなのです。
ただし、ギリシア神話はその後、ローマ神話と混同され、エピソードや神々の性格づけがずいぶんと変質したと言われています。現代のヨーロッパで流布しているのはその変質後の神話なので実際のところ、教養としては変質後の物語を知っていればよいわけですが、岩波文庫などから出ている「原典」は変質前に記述されたものであり、そういった点では興味深いものがあります。

最後に、子ども向けにはこちらを。

ギリシア神話
石井桃子
のら書店
2000-11-30


石井桃子が書いた、児童向けギリシア神話の決定版。
読みやすく、とっつきやすいエピソードが集められており、星座から神話に興味を持った子どもにはおすすめの一冊です。
 

リンドグレーン「長くつ下のピッピ」新訳刊行

201809ピッピ262

先月、岩波書店から「長くつ下のピッピ」の新訳が刊行されました。
これはちょっと衝撃でしたね。
「長くつ下のピッピ」は今さら紹介するまでもない、児童向けの名作として知られており、各社から翻訳が出ています。
その中で筆者は、自分が子どもの頃に読んだということもあって、岩波書店から出ている大塚勇三訳こそが最高の訳だと信じていました。
それなのに、その岩波版「ピッピ」が新訳に更新されてしまうなんて!

大塚訳のどこがそんなに良いのか?
例えば、「ピッピ、学校にいく」のエピソード。
ピッピは「竹さんの靴」を習うために学校へ行きますが、これは「かけ算の九九」の聞き間違いです。
もちろん、原文ではぜんぜん違うことが書いてあるのでしょうけれど、小学生にも面白さがわかる絶妙な言い回しに変換しています。
さらにピッピの本名は「ピッピロッタ・タベルシナジナ・カーテンアケタ・ヤマノハッカ・エフライムノムスメ・ナガクツシタ」となっていますが、これも原文の意味をそのまま日本語の置き換えることで、あまりに異常な名前だということがよく分かるようになっています。

他社の訳を見ると、「竹さんの靴」の部分についてはトンチ合戦の様相を繰り広げており、それぞれに工夫を凝らしていますが、やはり先行者利益というべきなのか、「竹さんの靴」を超えるパンチ力を持ったものは見当たりません。
そして、ピッピの本名については、原文の発音をそのままカタカナにしただけで、どこが面白いのかさっぱり伝わらないものもあったりして、やはり大塚訳が一番笑えます。

というわけで、本書は子どもの頃から大のお気に入りで、大学へ入って一人暮らしを始めるときにも、その他の大量のミステリと一緒に下宿へ持っていったものでした。

ところが、数年前、幼稚園へ通っていた長男に読み聞かせたとき(しかも全文を!)、今回の新訳刊行につながる懸念は感じたのでした。
というのは、初刊からすでに50年以上。さすがに相当古い訳だと感じたのです。
これは、文章を目で追うだけでなく、声に出して子どもへ聞かせていたことで気づいたようにも思います。
いまの子どもには意味の取りづらい単語や言い回しが頻出。あちこちで、わかりやすい表現に手直ししながら読む必要がありました。
こんな名訳なのに、古びてしまうとはもったいないな、と思ったものです。

そんなところへ、今回の新訳刊行。
とうとう来たか!という衝撃だったわけです。
挿絵はスウェーデンでの初刊に添えられたものが収録されています。この挿絵は徳間書店からも絵本としてすでに刊行されています。

こんにちは、長くつ下のピッピ
アストリッド・リンドグレーン
徳間書店
2004-02-17


世界的にはこのイラストがスタンダードなピッピ像となっているようです。
では、岩波新訳版で肝心の「竹さんの靴」とピッピの本名はどうなっているのか?
これは実際に読んでいただいてのお楽しみですが、「竹さんの靴」については、やはり大塚訳は手強いですね。同じ岩波から出すんだから、この部分だけは旧訳からいただいてしまえばいいのに、と思いました(ハヤカワ文庫の「幻の女」新訳が、冒頭の一文だけ旧訳からいただいたように)。
本名については、かなり工夫を凝らした訳になっていました。大塚訳の明らかに異常な雰囲気はなくなっていますが、いかにも北欧の名前っぽい、しかしよく見るとおかしな名前で、何度か読み返すうちに面白さに気づいてくる仕掛けと感じました。

さて、筆者が個人的にむちゃくちゃな思い入れを持っている上記2点を除けば、新訳版の圧勝です。声に出して読んだわけではありませんが、今どきの子どもに通じない表現はありません。
やはり児童文学なのですから、子どもにとって読みやすいことが最も重要でしょう。

というわけで、筆者と同じく旧訳版に思い入れのある方、しばらくは並行して販売される様子なので、絶版になる前にさっさと買っておきましょう。
これから初めて「ピッピ」を読むというお子さんは、もちろん新訳の方で良いと思います。それぞれに、かつての子どもたちと同じ衝撃的な読書を体験できることと信じています。

こちらが新訳版
長くつ下のピッピ (リンドグレーン・コレクション)
アストリッド・リンドグレーン
岩波書店
2018-08-04


こちら旧訳版(岩波少年文庫)
長くつ下のピッピ (岩波少年文庫 (014))
アストリッド・リンドグレーン
岩波書店
2000-06-16



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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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