201907ベストセラー全史328

筑摩選書から先月刊行された「ベストセラー全史【現代篇】」。個人的は非常に興味深い内容で、あっという間に読んでしまいました。

1975年生まれの筆者の母はかなり本好きで、家には大量の本がありました。
文学少女の延長のような読書傾向で、島崎藤村やら志賀直哉、現代作家では遠藤周作や有吉佐和子などを愛読していましたが、かなりのミーハーでもあり、世間で売れている言われる本はいちいち、買ってきていました。
そんなわけで、実家の本棚には70年代から80年代のベストセラーがズラッと並んでいたわけですが、子どもの頃はそんなことは全然知りません。単純に母はそういう本が好きなんだろうと思って眺めていました。
「窓ぎわのトットちゃん」はもちろん(というか、この本は筆者も大好きですが)、「ちょっとキザですが」「気くばりのすすめ」「積木くずし」「複合汚染」、さらには「サラダ記念日」まで。母と祖母とが「サラダ記念日」の話で盛り上がっていたのも懐かしい思い出です。
タイトルを眺めながら、ずっと「母の好みがよくわからない」と思っていたのですが、答えは明確。「ベストセラーが好き」だったんですね(もしかすると、遠藤周作や有吉佐和子も、売れているから、というので読んでいたのかもしれません)。

一方で書店へ行くと、当時はまだカッパ・ブックス、ワニ・ブックス、ノン・ブックス、プレイブックスなどの「ブックス」ものが大きく棚を占めていました。「冠婚葬祭入門」「算命占星学入門」「ノストラダムスの大予言」なんかのシリーズがズラッと並んでおり、「こんな本がそんなに読まれているのかなあ」と不思議に思いながら眺めていたわけですが、それらも実はかつての大ベストセラーだったわけです。

本書「ベストセラー全史」を読むと、これら戦後の歴史に残るベストセラーについて、出版に至る経緯やどういった販売戦略を取ったのか、どのような読者に受けたのか、と言ったことが紹介されており、残像のみだった子どもの頃の記憶が鮮明に蘇ってくる気分になりました。

さらに、著者が狙っていたのかどうかわかりませんが、実は物語としても面白い仕上がりです。
カッパ・ブックスを率いた神吉晴夫の遺伝子が、光文社の労働争議により拡散。これによって各社でブックスブームが巻き起こり、それが近年の新書ブームの遠因となる……という壮大なストーリーが流れています。

一方で気になった点としては、ごく一部を例外として「文庫」を対象外としているため、角川春樹がほとんど登場しません。索引を見ると、名前が出てくるのは1回だけ。「サラダ記念日」の企画が河出書房新社より先に角川書店内で上がったものの、角川春樹が却下した、というエピソードのみです。
角川文庫のメディアミックスは、出版社の営業戦略を根底から変え、現在に至るもこれを超えるものは現れていない、というくらい歴史的なものだったと思いますが、そのあたりには全く触れていません。
まあ、文庫の話を抜きでもこれだけ大部の本になっているので、そこまで話を広げると収拾がつかなくなると言うことだったのかもしれませんが、著者が角川春樹のことをどのように評価しているのかは気になるところです。

それはともかく、戦後の出版史に興味のある方であれば、いろいろ興味深い読み物です。
今月、【近代篇】も刊行されていますので、引き続きそちらも読んでみようと思います。







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