201906今宵は誰と325

かなり久しぶりに喜国雅彦の新刊が出ました。
「小説推理」に連載されていたものですが、そもそも漫画なのかエッセイなのか、扱っているのはミステリなのか純文学なのか、とりあえずこのタイトルの喜国作品だからエロがテーマになっているのは間違いなかろうということ以外、何も見当がつかない状態で買ってきました。

漫画だとしても、おそらくエッセイ漫画だろうという予想は大外れ。
文学をテーマにしたギャグ漫画でした。
一人暮らしを始めた青年が、ヒマつぶしに読書を始め、夜な夜な、夢の中で作品のヒロインたちと交流(交情?)を繰り広げるという展開で、1話ごとに文学作品が取り上げられています。
「砂の女」「潮騒」などの純文学からスタートするものの、そのうちに蘭郁二郎、夢野久作、江戸川乱歩など、戦前の探偵小説もポツポツと混じってくるようになります。
喜国雅彦は単著ではここ最近、エッセイの刊行が続いており、文学ネタの漫画は「メフィストの漫画」以来でしょうか。妄想に満ちつつも、ずっこける展開の喜国節を堪能できました。

筆者は名作と言われているような日本の純文学作品はほとんど読んでいないので、この漫画で取り上げられている作品も、タイトルは知っていても読んだことの無いものが大半でしたが、「エロ」の一点突破で内容紹介をしてもらうと、俄然、読んでみようかという気になってきますね。

以下、気づいた点をいくつか。

乱歩の「芋虫」を取り上げた章。最後のコマで喜国さん本人が登場し「検閲による伏字バージョン」で収録している本もある、とコメントしていますが、筆者が知る限りでは沖積舎から出ていた「江戸川乱歩ワンダーランド」がありますね。「悪夢」というタイトルで雑誌掲載されたときの挿絵・伏字をそのまま収録しています。
アニメ「ポリアンナ物語」の原作となった「少女パレアナ」も収録されていますが、このタイトルは村岡花子訳です。直近では角川文庫に収録され、本書でもこの文庫が紹介されていますが、角川文庫はすでに「少女ポリアンナ」のタイトルで新訳を刊行しているため、村岡訳は古本でしか買えません。

吉行淳之介「夕暮れまで」を扱った章では、夢の中の妄想が山上たつひこ「喜劇新思想大系」の名シーンを彷彿する展開となり、個人的にはぐっと来ました。
夢野久作「瓶詰地獄」は、あの陰惨としか思えない展開をあっけらかんとしたギャグに変換しており、喜国雅彦らしい一編です。

「小説推理」では今も連載継続中ということなので、続巻にも期待したいです。 

今宵は誰と─小説の中の女たち─
喜国 雅彦
双葉社
2019-06-19






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