201808北の夕鶴249

島田荘司の最高傑作の一つに数えられる「北の夕鶴2/3の殺人」。10年ほど前にドラマ化されたことがあります。
TBSで「警視庁三係・吉敷竹史シリーズ」と題して「寝台特急『はやぶさ』1/60秒の壁」、「灰の迷宮」、「北の夕鶴2/3の殺人」、「幽体離脱殺人事件」が順に放映されました。

島田荘司はあまりドラマ化されない作家と思われていますが、実は80年代にはちょこちょこと映像化されています。(テレビドラマデータベース参照
89年の「火刑都市」を最後にしばらくドラマ化が途絶えたたため、その間に「ドラマ化されない作家」というイメージが固まったように思われます。
2004年に鹿賀丈史主演で「寝台特急『はやぶさ』1/60秒の壁」が放映されたときは、筆者を含めてファンの間に衝撃が走ったものです。

とはいえ、「いかにも島田荘司」と言いたくなるような物理トリックはやはり映像化とは無縁でした。
筆者は80年代のドラマはリアルタイムでは一つも見ておらず(子どもだったので)、再放送で見たことがあるのは「高山殺人行1/2の女」のみですが、ラインナップを見るとどちらかといえば小粒なネタが並んでいます。
そんななか、ついに登場した「北の夕鶴2/3の殺人」。
「北の夕鶴」といえば、島田荘司で屈指の大トリックで知られており、また謎の設定も奇想天外極まる怪奇趣味濃厚なもの。
いよいよドラマ化されるとわかったとき、ファンの注目は、このトリックが再現されているかどうかという点に集まりました。

実はこれ、トリックに関してはちゃんとやっているんですよね。
以下、ネタバレします。





この小説のメイントリックは、向かい合ったマンションの部屋から部屋へ、振り子を使って死体を飛ばすというものでした。
舞台となったのはスターハウスと呼ばれるタイプの団地で、以前の記事でも紹介しました。
島田荘司「北の夕鶴2/3の殺人」とスターハウス
ドラマではもっと大規模なマンションということになっており、より無理のある設定ではないかと思うのですが、ともかく鎧武者姿の死体がちゃんと飛んでいます。

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原作では、この飛んでいる最中の鎧武者が、たまたま、写真に収まってしまうのですが(しかも往復とも!)、そこまでは再現していませんでした。

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マンションは実在のものを使ったのかCGなのか、いまいちよくわかりませんが、死体が飛んでいるところは間違いなくCGです。なるほど、島田荘司の大トリックを映像を表現するには、CG技術の発達を待つ必要があったようです。

このドラマは、登場人物の関係やキャラ設定にも原作へのリスペクトが感じられ、好印象でした。

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ラーメン大好きの吉敷竹史。原作通りの設定です。

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後輩の小谷。

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先輩である中村刑事は夏八木勲。こんなじいちゃんの刑事、大丈夫かよ、と思っていたらドマラ放映の5年後に亡くなってしまいました。本作ではゲスト出演のような形で登場です。

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北海道警の牛越。吉敷シリーズのレギュラーですが、「斜め屋敷の犯罪」では屋敷へ駆けつける刑事として登場し、御手洗シリーズと吉敷シリーズとを結びつける重要キャラです。「死者が飲む水」では主役を務めます。

という形で、原作のレギュラー陣が登場していますが、肝心の加納通子は?
これは余貴美子が演じます。

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うーん、主演の鹿賀丈史もそうなのですが、全体的にこのドラマは高年齢ですね。
原作の加納通子は30代前半と思われます。余貴美子も原作が書かれた頃はそのくらいの年齢だったでしょう。つまり、同年代。
ドラマ化にあたっては、年齢よりも年代をあわせることに重点を置いたようです。その結果、加納通子は50過ぎになってしまいました。
まあ、ミステリ的にはヒロインの年齢は関係ないのですが、加納通子ファンとしては若干、複雑な気分になる配役でした。

というわけでこのドラマ、DVDにはなっていませんが、BSなどではたまに再放送もしているようなので、原作ファンの方はチェックしてみてください。



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