201809笠原和夫263

前回に続き、国書刊行会「笠原和夫傑作選」について。
今回からの記事では各巻に収録された作品を紹介していきたいと思います。

まずは第1回配本である「第二巻 仁義なき戦い――実録映画篇」。
笠原和夫といえばやはり実録路線が最も有名ですが、「仁義なき戦い」全作+「県警対組織暴力」という最高傑作がこの巻に揃って収録されています。
傑作選のシリーズを全部買うのは高いな……とお考えの方は、ひとまずこの一冊だけでも手元に置いておく価値があります。

「仁義なき戦い」(1973年 深作欣二・監督 菅原文太・主演)
「仁義なき戦い 広島死闘篇」(1973年 深作欣二・監督 菅原文太・主演)
「仁義なき戦い 代理戦争」(1973年 深作欣二・監督 菅原文太・主演)
「仁義なき戦い 頂上作戦」(1974年 深作欣二・監督 菅原文太・主演)
言わずとしれた、笠原和夫の代表作です。
幻冬舎アウトロー文庫に収録されたりなど、これまで何度か公刊されています。
「仁義なき戦い」シリーズは広島抗争を扱った菅原文太主演のものが5作ありますが、笠原和夫が執筆したのは4作目「頂上作戦」までです。笠原としてはここで完結のつもりだったのですが、会社が続編制作を強行し、高田宏治の脚本で「完結篇」が公開されることになります。これはこれで筆者は好きな映画ですが、笠原作品ではないため今回のようなシナリオ集ではなかなか収録されません。「完結篇」を読みたい方は、雑誌「シナリオ」1974年8月号を古本屋で探してください。




「県警対組織暴力」(1975年 深作欣二・監督 菅原文太・主演)
東映実録路線の最高傑作と評され、「映画シナリオの教科書」とも言われる名作です。笠原和夫は「昭和の劇」のなかで、「仁義なき戦い」取材中に仕入れたものの使いきれなかったエピソードを盛り込んだと語っています。タイトルは当時の東映社長だった岡田茂が思いついたもの。
悪徳刑事とやくざとの友情・癒着がテーマとなっています。
今年、映画が公開され話題となった「孤狼の血」は、この作品を下敷きにしています。
このシナリオは、これまで「笠原和夫 人とシナリオ」に収録されるなど、何度か公刊されています。

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2018-05-09



「やくざの墓場 くちなしの花」(1976年 深作欣二・監督 渡哲也・主演)
「県警対組織暴力」に続き、この作品でもやくざと警察との癒着を描いています。実録路線の一編ではあるのですが、任侠映画のような味わいがあるドラマです。
戦後の暴力団は、在日朝鮮人を組織的に取り込んでいったと言われていますが、この作品ではそういった問題にも触れており、現実の闇と切り結ぶ笠原和夫の姿勢も見られます。「昭和の劇」では映画化にあたってシナリオから改変された部分も詳細に語られています。
このシナリオは、雑誌「シナリオ」1976年11月号に掲載されたことがありますが、書籍へ収録されるのは初めてのことと思われます。




「沖縄進撃作戦」(未映画化)
沖縄のやくざ抗争を描いた作品ですが、存命する関係者との調整が難航し、結局映画化されずにお蔵入りになってしまった作品です。企画はいったん流れた後、再始動し、神波史男・高田宏治の脚本、中島貞夫・監督によって、「沖縄やくざ戦争」として完成しました。笠原和夫の書いたシナリオから設定や人物関係をおおむね踏襲しています。
このシナリオは、笠原和夫の没後に刊行されたエッセイ集「映画はやくざなり」(新潮社)にも収録されています。

「実録・共産党」(未映画化)
前売券を日本共産党へ売りつけるべく、実録路線の一編として岡田茂社長が企画したもの。戦前、非合法な社会運動であった共産党を丹野セツを主人公に描いたシナリオが完成しますが、結局、未映画化に終わります(一説には、チケットをあまり買ってもらえなかったため)。これも笠原和夫の取材力が発揮された作品に仕上がっています。
この企画はやがて角川春樹の元へ流れ、タイトルを「いつかギラギラする日」と変え、深作欣二監督作品として話が進められますが、ここでも最終的に頓挫。タイトルのみが生き残り、15年後に松竹の奥山和由のプロデュースでアクション映画「いつかギラギラする日」が制作されますが、笠原和夫の「実録・共産党」とは全く別の映画になっています。
このシナリオは、笠原和夫と深作欣二の追悼号となった雑誌「映画芸術」2003年春号に収録されたほか、雑誌「en-taxi」の付録として刊行されたこともあります。

次回は第2回配本分について紹介します。




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