国書刊行会から「笠原和夫傑作選」と題して、全3冊のシナリオ作品集が刊行されます。
出版社のホームページによれば、今月22日が第1回配本で、毎月1冊ずつ出る予定とのことです。

笠原和夫の作品集、いずれはどこかの出版社がまとめるべき、と思っていましたが国書刊行会から出るとは。個人的には、岩波現代文庫から出ている「向田邦子シナリオ集」のようなスタイルで、文庫で出ることを期待していましたが(ちくま文庫あたりから)。
国書刊行会となるとかなりお値段が張りますが、とはいえ造本はしっかりしているし、なかなか絶版にしない出版社なので、これはこれで喜ぶべきことと思います。

というわけで、買うべきどうか悩んでいる方のために、どんな作品が収録されているのか、内容を紹介してみたいと思います。

収録タイトルはすでにホームページで公表されており、以下の通りということです。
【第1回配本】第二巻 仁義なき戦い――実録映画篇
「仁義なき戦い」
「仁義なき戦い 広島死闘篇」
「仁義なき戦い 代理戦争」
「仁義なき戦い 頂上作戦」
「県警対組織暴力」
「やくざの墓場 くちなしの花」
「沖縄進撃作戦」*
「実録・共産党」*

【第2回配本】第一巻 博奕打ち 総長賭博――初期~任侠映画篇 (2018年10月刊)
「風流深川唄」
「港祭りに来た男」
「祇園の暗殺者」
「めくら狼」
「博奕打ち 総長賭博」
「博奕打ち いのち札」
「女渡世人 おたの申します」
「映画三国志」(テレビ作品)

【第3回配本】第三巻 日本暗殺秘録――昭和史~戦争映画篇 (2018年11月刊)
「日本暗殺秘録」
「あゝ決戦航空隊」
「大日本帝国」
「昭和の天皇」*
「226【第1稿】」
「仰げば尊し」*
 *=未映画化作品
以前の記事(笠原和夫 シナリオコレクション)にも書いたのですが、筆者は一時期、笠原和夫のシナリオで公刊されているものを古本屋で片端から買って回ったことがあるため、収録作品のうち「これぞ」というものはすでに手元に揃っています。
そういう点で、レアな収録作品というものは特にないのですが、逆に笠原和夫にこれから親しんでいきたいという方には、必読の傑作が網羅されています。
笠原和夫の仕事を概観することができ、間違いなく「読んで面白い」シナリオ集に仕上がっていることは保証できます。

個々の作品紹介は次回以降として、今回の記事ではシリーズ全体のスタイルを見てみたいと思います。
まず注目すべきは、3冊のサブタイトルにある「初期~任侠映画篇」「実録映画篇」「昭和史~戦争映画篇」という分類。非常に的確で美しく分かれています。

笠原和夫は1950年代に東映へ入社し脚本家となります。当時の映画監督や脚本家は映画会社に所属し、会社の企画にあわせて作品を仕上げていく職人でした。笠原和夫も初期は美空ひばり主演映画や任侠映画のシナリオを職人的にこなしていっていたのですが、そのように量産される「任侠映画」に対する疑問が膨らんでくるようになります。東映のプログラムピクチャーが賛美する「やくざ」像を否定する物語として書かれたのが傑作として名高い「博奕打ち総長賭博」で、ここから職人にとどまらない、表現者としての笠原和夫がスタートしたと言えます。
第一巻はそのような時期の作品を集めています。

任侠映画の人気に陰りが見えてきたとき、笠原和夫は「仁義なき戦い」のシナリオ制作に取り組みます。任侠映画の様式美を捨て、暴力団のありのままの姿を描くべく、実際にあった広島抗争を題材にした飯干晃一のルポルタージュを原作に得て、さらに徹底的な取材を敢行。なまぐさい物語を作り上げました。
この作品一発で任侠映画はとどめを刺され、ここから東映は任侠路線に変わり、「実録路線」をスタートさせます。
「県警対組織暴力」は「実録路線」の最高傑作と評価されていますが、第二巻は未映画化作品を含めたこの時期の傑作を余さず収録しています。

笠原和夫は職人的にやくざ映画に関わってきましたが、作家としては昭和史・戦争史に対する造詣が深いことで知られ、戦争映画も数々の傑作を書いています。
第三巻に収録された作品は、時期は第一巻、第二巻とかぶるものもありますが、いずれも「昭和」「戦争」をテーマとした大作映画です。個人的には、数ある笠原作品の中でも特にお気に入りで、シナリオも映画も何度も何度も鑑賞し直している「あゝ決戦航空隊」「大日本帝国」の2篇が収録されているのが嬉しいところです。

次回は、個々の作品解説をしていきたいと思います。





ついでに、こっちの傑作インタビュー集も復刊してほしいですね。
昭和の劇―映画脚本家・笠原和夫
笠原 和夫
太田出版
2002-10





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