201809姑獲鳥の夏261

平成6年、最大の話題はやはり京極夏彦の登場でしょう。

新本格には「世代」というものがあると言われており、綾辻行人、法月綸太郎、有栖川有栖らが第一世代、そして京極夏彦、森博嗣らが第二世代と呼ばれたりしているようです。
ただ、筆者が持っていた印象はかなり異なっています。
そもそもリアルタイムでは東京創元社デビューの作家を「新本格」と呼ぶことにも違和感を持っていましたが、そこを許容したとして以下のように感じていました。

第一世代
綾辻行人、法月綸太郎、我孫子武丸、有栖川有栖、山口雅也、北村薫

第二世代
麻耶雄嵩、二階堂黎人、芦辺拓、若竹七海

ジャンル拡散(もはや「本格」ではない)
京極夏彦、森博嗣、さらには清涼院流水、西尾維新へ

京極夏彦、森博嗣らは講談社ノベルスからのデビューであったため、「新本格」の後続とみなされ、実際、登場した直後は読者の中心は「本格」好きでした。
しかし、すぐに本格の枠には全く収まらない多方面での活躍をするようになり、ミステリとは無縁だった読者からも広く支持されるようになりました。
要するに、島田荘司、笠井潔という先輩がいるとはいえ、「ジャンルの開拓者」とみなされ登場してきた第一世代、そこで開拓された土地の上で、好き放題に遊び始めた第二世代までは「新本格」の流れの中で認識していましたが、京極夏彦や森博嗣はそもそもミステリマニアでもないし、全く別の土俵に立っているように感じたというわけです。

そんなわけで、正直なことを言えば平成6年に京極夏彦がデビューした頃から、自分が好きだった「本格」はまたもや冬の時代……とまではいかなくても秋が近づいてきたように感じたものです。
歴史的には横溝正史、高木彬光、仁木悦子、都筑道夫らに書き継がれ、現代においては島田荘司、笠井潔、泡坂妻夫、綾辻行人、法月綸太郎、麻耶雄嵩へと続いてきた「本格ミステリ」の流れ。
「終わった」というわけでは全く無く、今に至るも法月綸太郎や麻耶雄嵩は野心的な作品を発表し続けていますが、とはいえ大方の読者の興味は「本格」には無い。
ふたたび「本格」といえる作品をメインに活動する作家が登場し、注目を浴びるようになるのは、円居挽、青崎有吾、森川智喜ら、「新本格」を読んで育ったという、さらに新しい世代の作家たちの登場を待つことになるわけです。

京極夏彦がデビューする直前には、鳴り物入りで篠田秀幸「蝶たちの迷宮」が刊行されましたが、これを読んだときから、筆者は「ジャンルの拡散」を感じたものです。

なお、島田荘司はこの年は「世紀末日本紀行」「秋好事件」などを刊行しており、ミステリは休業状態でした。とはいえ、筆者はどちらもちゃんと買って読んでいましたけどね。


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