20170501異邦の騎士066

平成ミステリ史についてつらつらと書いていたところ、平成元年前後、あちこちから刊行された四六判ハードカバーの書き下ろしミステリ叢書のことが急に懐かしくなってきたので、リストを上げておきたいと思います。
初回は講談社の「推理特別書下ろし」から。

筆者が現代ミステリの新作を読み始めた時期、書店で存在感を放っていたのがこのシリーズです。
背表紙は統一のデザインで、シーズンごとに緑、赤、金色に色分けされたフレームのなかに著者名が収まっているかっこいい装丁でした。
個人的には「異邦の騎士」「暗闇坂の人喰いの木」が刊行されたシリーズとして印象に残っていますが、この2冊は背表紙のデザインに合わせたかのような装画で、重厚感たっぷり。書店で手に取ったときはいても立ってもいられない気分になってものです。
今あらためてリストを見ると、第1期はかなりの名作が集中していますね。
「異邦の騎士」を筆頭に、「伝説なき地」「黄昏のベルリン」「そして扉が閉ざされた」「復讐の白き荒野」「オンリィ・イエスタデイ」。いずれも刊行当初から話題となり、その後も名作として長く読まれました。
赤い背表紙の第2期も、「ブラックスワン」「眠りの森」など、のちに人気が出た作品が含まれていますが、刊行当初はパッとしない印象を受けていました。ただ、山田正紀が本格ミステリを書いたのはこれが初めてだったはずで、このラインナップはなかなか冒険的だったと思います(今にして思えば、ですけど)。
第3期は金色の装丁で、阿刀田高(唯一の?)長編、栗本薫の超大作(?)を第一回配本に持ってきて、なかなか派手にスタートした印象がありました。泡坂妻夫「毒薬の輪舞」などもありましたが、やはり「暗闇坂の人喰いの木」に尽きると思います。

また講談社の企画らしく、乱歩賞受賞作家が目立ちますね。
井沢元彦、栗本薫、高橋克彦、中津文彦、岡嶋二人、山崎洋子、東野圭吾。
さらに、西村京太郎、斎藤栄、和久峻三などすでに「量産作家」と目されていた作家たちもこの企画には参加しています。
当時は、若手のメインストリームはやはり乱歩賞受賞者でした。

というわけで、読んでいる作品はそれほど多くはないのですが、なぜだか思い入れたっぷりのこのシリーズ、古本屋で見かけるといちいち手に取って眺めてしまいます。

第1期(緑)
井沢元彦 「義経幻殺録」(1986年)
内田康夫 「漂泊の楽人」(1986年)
栗本 薫 「双頭の蛇 上」(1986年)
栗本 薫 「双頭の蛇 下」(1986年)
高橋克彦 「北斎殺人事件」(1986年)
北方謙三 「夜の終り」(1987年)
中津文彦 「成吉思汗の鎧」(1987年)
岡嶋二人 「そして扉が閉ざされた」(1987年)
志水辰夫 「オンリィ・イエスタデイ」(1987年)
笠井 潔 「復讐の白き荒野」(1988年)
島田荘司 「異邦の騎士」(1988年)
船戸与一 「伝説なき地 上」「伝説なき地 下」(1988年)
赤川次郎 「静かな町の夕暮に」(1988年)
連城三紀彦 「黄昏のベルリン」(1988年)

第2期(赤)
井上 淳 「棄民の森」(1989年)
森 詠 「冬の翼」(1989年)
山崎洋子 「横浜秘色歌留多」(1989年)
山田正紀 「ブラックスワン」(1989年)
逢坂 剛 「十字路に立つ女」(1989年)
小杉健治 「」(1989年)
辻 真先 「電気紙芝居殺人事件」(1989年)
津村秀介 「異域の死者」(1989年)
黒川博行 「ドアの向こうに」(1989年)
多島斗志之 「密約幻書」(1989年)
東野圭吾 「眠りの森」(1989年)

第3期(金)
阿刀田高 「Vの悲劇」(1989年)
栗本 薫 「魔都 -恐怖仮面之巻-」(1989年)
斎藤 栄 「ファウスト殺人事件」(1989年)
高橋克彦 「広重殺人事件」(1989年)
西村京太郎 「十津川警部の対決」(1989年)
井沢元彦 「義経はここにいる」(1989年)
中津文彦 「山田長政の密書」(1989年)
志水辰夫 「帰りなん、いざ」(1990年)
泡坂妻夫 「毒薬の輪舞」(1990年)
生島治郎 「総統奪取」(1990年)
北方謙三 「秋ホテル」(1990年)
和久峻三 「密室法廷」(1990年)
笹沢佐保 「アリバイの唄」(1990年)
内田康夫 「平城山を越えた女」(1990年)
黒川博行 「アニーの冷たい朝」(1990年)
島田荘司 「暗闇坂の人喰いの木」(1990年)
東野圭吾 「変身」(1991年)


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