筆者はミリタリー関係には全く詳しくない、というかそもそもあまり興味もないのですが、軍歌はわりと好きです。
軍歌が好き、というとイデオロギー的にいかがなものかと思われかねないのですが、そもそも筆者が軍歌に興味を持ったのは映画がきっかけでした。

例えば「仁義なき戦い 広島死闘編」。北大路欣也が演じる主人公・山中正治は、「予科練の歌」を口笛で吹きながら殺人を重ねていきます。
同じ曲は、岡本喜八監督「日本のいちばん長い日」の特攻隊出撃シーンでも歌われます。
やはり岡本喜八監督の「江分利満氏の優雅な生活」では、徴兵された際のエピソードに「抜刀隊」がBGMとしてかかります。
その他、「軍艦行進曲」が挿入される映画は数え切れないほどです。
この辺の軍歌について、一応、教養程度の知識は仕入れておくか、と思ってあるときにCDを買ってみたところ、予想外に良い曲が多くてしばらくハマっていた時期があります。
そんなわけで、入門的に軍歌を聞いてみたい方向けに、有名どころをいくつかご紹介しておきます。

まずその前に、軍歌の種類について。
軍歌というと戦意高揚のため、戦時中に歌われていたようイメージがありますが、厳密にはそのような歌は戦時歌謡と呼ばれ、軍隊が行進などに使っていた狭義の軍歌とは区別されます。
しかし、一般の認識では今はそれらすべてを「軍歌」としていますので、この記事でも両方を紹介していきます。

最初に、上でも紹介した「予科練の歌」。これは正確なタイトルは「若鷲の歌」といって、東宝が昭和18年に公開したプロパガンダ映画「決戦の大空へ」の挿入歌です。
映画には原節子が予科練生の下宿のお姉さん役で主演しています。
「若鷲の歌」は映画の終盤、予科練の練習風景に重ねながらフルコーラスが演奏されています。
正規の軍歌ではなく戦時歌謡の一つですが、曲自体は名曲というしかない仕上がりで、当時大ヒットしたと言われています。この曲によって予科練に憧れ戦死した若者も多く、作曲した古関裕而はそのことに生涯、責任を感じていたと言われています。
「仁義なき戦い 広島死闘編」では、海軍へ憧れながら終戦となり、行き場を失った若者の心境を描く小道具として使われています。
「決戦の大空へ」はDVDも出ているため、今でも気軽に見られます。



次に「抜刀隊」。
これは西南戦争の際の警視庁抜刀隊の活躍を歌ったものです。
西南戦争は西郷隆盛を筆頭に薩摩士族が起こした反乱ですが、これの鎮圧当たった陸軍は徴兵された平民がほとんどであり、士族にはとても歯が立ちませんでした。このため、士族が集まって作られた警視庁の警察官から切り込み隊を結成し「抜刀隊」と名づけました。
このような経緯から、この「抜刀隊」の歌は陸軍の歌であると同時に警察の歌でもあります。
現在でも陸上自衛隊と警察が行進の際に演奏している「分列行進曲」は、この「抜刀隊」がベースとなっています。
つまり、この曲については正式な「軍歌」であると言えます。
とはいえ、歌詞を見ると勇ましさの中にユーモラスな雰囲気を感じます。

我は官軍我敵は 天地容れざる朝敵ぞ
敵の大將たる者は 古今無雙の英雄で
之に從ふ兵は 共に慓悍決死の士
鬼神に恥ぬ勇あるも 天の許さぬ叛逆を
起しゝ者は昔より 榮えし例あらざるぞ
敵の亡ぶる夫迄は 進めや進め諸共に
玉ちる劔拔き連れて 死ぬる覺悟で進むべし

あまりに強大に敵におっかなびっくり、しかし懸命に勇気を奮い立たせて立ち向うさまを描いています。岡本喜八監督「江分利満氏の優雅な生活」での使い方は、非常にうまいものだと感じました。

さて、陸軍の「分列行進曲」に対して、海軍、そして現在の海上自衛隊も採用している行進曲が「軍艦行進曲」です。これはあまりに有名なので、解説は不要かと思いますが、作られたのは明治時代、日露戦争の直前です。
さまざまな映画で使用されていますが、「火垂るの墓」では主人公が見る観艦式の幻の中で流れていました。

最後に、映画での使用例は思い当たりませんが、右翼の街宣車でおなじみの曲「出征兵士を送る歌」。
これは「若鷲の歌」と同様、正式な軍歌ではなく戦時歌謡に当たるものですが、講談社の前身である大日本雄弁会講談社がコンクールを開催し、選ばれた曲です。
勇壮な歌詞と曲調で「ザ・軍歌」という印象がありますが、実はまだ著作権が生きている楽曲です。やかましい街宣車は、講談社が著作権法違反で訴えるべし。
それはともかく、歌詞はWebで検索すると簡単に閲覧できて、もはや著作権など無いも同然の扱いを受けていますが、イデオロギーを気にしなければ非常に良くできた歌詞です。
つい最近、とあるバンドの作った応援歌が「軍歌っぽい」と批判を受けるという一件がありましたが、「出征兵士を送る歌」くらい正しい日本語で美しくまとめれば、そんな批判も出なかっただろうに、と思いましたね。

ともかく、軍歌を愛聴しているというと周囲の視線が気になりますが、戦争映画・戦争小説が好きな人には知識として必須のものです。一度お試しあれ。

軍歌 ベスト
オムニバス
キングレコード
2004-05-08

選曲のバランスが一番良いCDはこれかな、と思います。戦後の録音ばかりで、オリジナルのものとアレンジがかなり違う曲が多いのがちょっと残念な点ですが。
ただ、特に戦時歌謡はすべてをオリジナル音源で揃えようと思うと著作権の生きているものが多々あり、所属レコード会社の壁があるため、実際には不可能です。



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