201806火のないところに煙は236

ああ、何だってこんな日に読んでしまったんだ……そう思わずにいられません。
週末は家族は実家へ泊まりにいっていて自宅には筆者ひとり。外出先からの帰りに本書を購入し、電車の中で読みはじめ、そのまま家でも読みふけり、真夜中に読み終わりました。
……怖い。電気をつけたまま寝たい。

芦沢央さんはずっと気になっていた作家ですが、読んだのは初めてです。
新刊の評判がとてもよいのを目にして、しかもそれが「怪談」だというので、怪談大好きの筆者としては芦沢作品を読んでみるちょうど良いチャンス、と考えて買ってきたわけです。

まだ出たばかりの本なのであまり内容を書くわけにもいきませんが、いろいろな面でこれは素晴らしい作品だと思いますね。
・「実話怪談」としてよくできていて、本当に怖い。
・「怪異」の存在を前提にした「異世界ミステリ」と考えると、論理展開が見事。真相を明かされるともっと怖くなる。
・どんでん返しに向けた伏線の張り方が神業。

筆者は「実話怪談」が大好きで、本当の話なのかどうかよくわからなくても「実話」と謳ってあるだけで「ほほう」と感心して読んで、しかも怖がってしまうのですが、「フィクション」として発表された物語で本当に怖い話にはなかなかお目にかかれません。
本書はその点で花まるの合格点。実話怪談風に語られる怪異はモロに好みでした。
怖い話を読むと妙に嬉しくなってしまう筆者は、電車の中で一話目を読み終え、思わず顔がニヤけてしまいました。これはイイ!
しかし、この興奮は読み終わった段階で「本物の恐怖」に変わりました。
これはシャレにならん怖さ。畳み掛けるように明かされていく真相の不気味さ。
「疑ってはいけない」ってどのレベルで疑っちゃいけないんだ? これは本当にフィクションなのか? それすら疑ってはいけない? せめて何かしらの保証が欲しかったよ!
一方で、ミステリとしても超絶技巧としか言いようのない完成度です。2年もかけて連作短編として発表されたとは思えないネタの仕込み方。こんなふうに、色んな方向から何回もひっくり返せる話って、いったいどんな頭で考えるんでしょう。

語りたいことがたくさんあるので、いずれ日が経ってから、読了された方が増えた頃を見計らってネタバレを気にしない感想も書いてみようかなと思っています。
それまでに、芦沢さんの過去作も読んでおこう。

火のないところに煙は
芦沢 央
新潮社
2018-06-22

 
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