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以前の記事でも書いたとおり、筆者はかなり美本にこだわってしまう性格のため、自宅での本の保管にもかなり気を使っています。
今回は本の取り扱いについて、日頃どんなことに気をつけているか、ご紹介します。
といっても、世の中には上には上がいるので、もっと念入りな対策をとっている人は多いと思いますが、まあ、ふつうのマンションで家族と生活しながら、そんなに大きな苦労をせずともできる範囲内のでの話とご理解ください。

日焼け

筆者が最も嫌う本の劣化は背表紙の日焼けです。
これは何と言っても紫外線のブロックに尽きます。
なるべく窓のない部屋を書庫にするのが一番良いのですが、そんな部屋はふつうの家にはないため、筆者はいつも北向きの部屋を書庫にして、遮光カーテンをかけています。

まず、北向きの部屋を用意するのは、本好きとして基本中の基本です。
神保町の古本屋街では、ほとんどの店は通りの南側に軒を連ねています。
これは、通りの南側であれば店を北向きに構えることができて日焼けを防げるため、自然と古本屋が南側へ集まった結果なのです。
筆者が生まれ育った名古屋でも、鶴舞公園周辺に古本屋が集まっていますが、ここでも通りの南側に集中しています。北側にもポツポツと存在するのですが、やはり店内の本は日焼けが激しい印象を受けます。

独身時代、転勤のために引っ越しをすることになり、不動産屋に何軒か紹介してもらったことがあります。最初に案内された物件は奥の部屋の隅々にまで燦々と日差しが降り注ぎ、不動産屋は「どうです、日当たりがいいでしょう」と胸を張っていましたが、「いや、こんなに日が当たると困ります。暗い部屋がいいです」と答えて、「人それぞれですね……」と呆れられたことがあります。
まあ、ともかく家中で一番暗い部屋を書庫にしましょう。

北側の部屋とはいえ、窓から日光は入るため遮光カーテンを吊るします。
筆者の家の遮光カーテンは、本当は暗幕にしたかったのですが、筆者の場合は妻に反対されて叶いませんでした。遮光カーテンと言ってもかなり光を通します。等級があるので、家族が納得してくれる範囲内で最も暗いものを選ぶと良いと思います。
窓に雨戸やシャッターがあれば、それもふだんは閉めておけばよいのですが、筆者の今のマンションにはそのようなものはついていません。北側の部屋ですが、夏場の朝は東からの日差しがかなり強烈で随分と部屋が明るくなってしまうため、遮光カーテンと窓の間に簾も下げていて、これはそれなり効果が感じられます。

日焼け対策ではもう一つ注意すべきことがあり、蛍光灯も紫外線を発しています。
これは照明をLEDにすることでかなり低減できます。実際、今のマンションは全てLEDにしているためか、照明による日焼けはほとんど発生していないように感じています。

シミ

シミと言っても、「紙魚」ではなく「染み」の話です。

本の天の部分にポツポツと染みが出来てしまうことがあります。日焼け、シミ、と来ると次はそばかすの話題になるものですが、まあ本にできる、そばかすのことですね。
これは原因はさまざまあるようですが、筆者の場合はほとんどはホコリと湿気によるものですね。
ただ、これは対策が非常に難しい。
本を長いあいだ本棚に並べたままにしていると、どうしても上部にホコリが溜まります。このホコリが劣化してくると、紙にも影響を与えて染みができてしまうわけです。
これは、こまめに掃除するしかありません。
筆者は独身の頃はかなり熱心に本棚の掃除をしていたのですが、結婚して子どももできてからは、なかなかそんなのんびりした時間を取れず、掃除をサボっていたところビックリするくらいの勢いで天に染みのある本が増えてしまいました。
これはできてしまってから後悔してももう遅い。
とはいえ、買ってから15年とか20年とか経っている本が多いので、まあ染みくらいは仕方ないかな……とも思うのですが。
さすがに40歳を過ぎてくると、「若い頃に読んだ本」というものはかなり古い本ということになってくるので、それなりに劣化します。ちょっと前に大学の先輩に会った時「最近、家の本がボロボロになってきて悲しい」と言っていたのですが、全く同感です。

また、湿気が多いとカバーが劣化し、その影響で本文用紙も色が変わってくることがよくあります。これについては、実は筆者の大好きなちくま文庫が一番ひどい。これも、こまめに掃除してホコリを取り除きつつ、天気の良い日にはなるべく部屋の空気を入れ替えるようにするしかありません。
とはいえ、冬場に書庫が極端に冷えるとどうしても本に湿気がついてしまうのが避けられません。本格的にやるなら、室温・湿度があまり変化しない部屋を書庫とするのがベストでしょうが、お金持ちでないとできません。

酸性紙

酸性紙という言葉を聞かれたことがあるかと思いますが、かつて世の中の洋紙のほとんどは酸性紙で、そのため何十年も前に発行された文庫本などを古本屋で見ると、変色してボロボロになっているものです。
今は中性紙に印刷された本が増え、かつてほどは経年での変色を気にしなくて良くなってきましたが、しかし中性紙であっても酸性紙と接する状態で保管していると変色が移ってしまいます。
筆者は昔はそんなことは知らず、新聞や雑誌などで著者インタビューなどの記事を見かけると、切り抜いて関連する本に挟んでいました。ところが、これをやってしまうと挟んであった場所がバッチリ黄ばんでしまうんですよね。これまた、気づいたときにはもう遅い。
下の写真は、新保教授のインタビューを見かけて切り抜きを挟んでいた「世紀末日本推理小説事情」(新保博久・ちくまライブラリー・1990年1月刊)。中学生の頃に購入した本ですが、10年くらい前にこの状態に気づき、諦めてそのまま保管を続けています。

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新聞の切り抜きがダメだろうというのは、ちょっと考えれば気づくことができますが、油断できないのは新刊などを買うと挟んであるチラシ類です。ここから変色が発生することもよくあります。これも、以前は気にせず、むしろ積極的に残していたのですが、今は不要なものは捨てて、残しておきたいものはカバーの袖に隠すように挟んで、なるべく本文へ影響を与えないよう注意しています。

さらにもう一つ注意したいのは、グラシン紙。
箱入り全集などの中身によくかけられており、また古本屋でもグラシン紙を巻いて販売している店がよくあります。実はこれも酸性紙なのです。
このため、かなり古いグラシン紙は劣化してボロボロになっています。
筆者は古本屋で買った本はグラシン紙を外さずそのままにしていることもよくあるのですが、本当はあまり良くありません。グラシン紙の位置に沿って変色している本もあります。
グラシン紙は、カバーや帯を引っ掛けて破ってしまったり、擦れて傷がついたりすることを防ぐという目的のもので、長期保存のためのものではないのです。

虫の糞

さて、筆者が最近気づいた大敵。それは虫、特にクモのフンです。
家の中で小さなクモが這っていることがよくありますが、実は彼らのフンは本にこびりついてしまいます。いったん落とされるとそれほど時間をかけずに定着してしまい、紙が変色して染みになるどころか、そもそものフン自体を掻き落とすのも苦労します。
こればかりは、日頃から掃除をしていても落とされたらオシマイなので、けっこう厳しいです。わずかな隙間にも入り込むので、駆除もほぼ不可能です。(冒頭の写真は船戸与一「南冥の雫」ですが、買った翌年くらいにはもうやられていて、ちょっと凹みました)
筆者は対策として、大事な本の上には紙を一枚置いていますが、検証期間が短いので、効果のほどは不明。ホコリの対策にはなっているように思いますが。

まとめ

さて、現実にできるできないという問題があるため、本の劣化対策はかなり難しいのですが、保存が楽なのは、やはり箱入りの本です。
筆者は昔から岩波文庫の箱セットが好きでちょこちょこと買っているのですが、学生のころ、今から20年以上前に買った「南総里見八犬伝」や「世界の民話」などは、日焼けが全くないのはもちろん、ホコリもつかないため染みもなく、全く買ったばかりの状態を維持しています。
また、ちょっと前に古本屋で買った黒澤明のシナリオ集「全集黒澤明」も、箱に巻かれた帯は少し日焼けしてしましたが、中身は30年も経っていると思えない、ビックリするくらいの美本でした。

お金をかけてもよいのであれば、筆者が知る限り、最強の保存方法を編み出しているのは江戸川乱歩です。自宅の蔵が書庫になっていたことは知られていますが、日が差さず、室温も湿度もある程度一定に保たれる、全く理想的な環境というわけです。
さらに、自身の著書は「自著箱」という桐の板を組み合わせた特製の箱に収蔵されています。
以前、展覧会でここに収蔵されていた本が展示されているのを見たことがあるのですが、古本屋ではボロボロに日焼けしているものしか見かけない乱歩の昔の本が、全くの美本で保管されていることに驚きました。
本気になってそれくらいの財力があれば、本をきれいに保管する方法は、まあいくらでもあるのかもしれません。

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