201801リング162

2月に要注目の新刊が刊行予定です。Amazonでの予約受付がスタートしていました。



以前に下記の記事でも紹介したJホラーブームの立役者、脚本家・高橋洋のシナリオ集です。(追記:当初2月5日と告知されましたが、9日に延びたようです)

90~00年代Jホラー懐古 第6回 Jホラーブームの申し子たち

この記事は特に高橋洋について書き始めたわけではなかったにもかかわらず、気がついたら高橋洋の話ばかり書いてしまっていたわけですが、まあそのくらい、ファンにとっては熱狂的になってしまう脚本家なわけです。
高橋洋はこれまで、ホラーを中心にかなりの数の作品を発表していますが、著書は多くはなく、筆者が知る限りでは以下の4冊のみです。



映画の魔
青土社



はじめの2冊は、タイトル通り、大ヒット作「リング」シリーズのシナリオです。
以前の記事にも書いたとおり、映画「リング」を見て受けた衝撃は、個人的にはとても凄まじいものでしたが、しかし、その時点では高橋洋という脚本家がいったいどんな人なのか、「女優霊の脚本と同じ人」ということ以外、何も知りませんでした。
「リング2」は「らせん」とはパラレルワールドとなる「リング」の続編、ということで当然、劇場へ観に行ったのですが、前作とはまるで違うチンプンカンプンの世界で、全く煙に巻かれた気分でしたが、今にして思えば、これこそが高橋洋の真骨頂だったわけです。
(なお、この文庫の「リング」に付されたあとがきのタイトルが、今回のシナリオ集と同じく「地獄は実在する」となっています。「リング」の映画本編で使われなかったフレーズから取られたものということです)

次の「映画の魔」はエッセイ集ですが、ここへ来てようやく高橋洋の「思想」が見えてきました。「わけわかんなあ」と思っていた高橋洋作品ですが、これを読むと「えー!!そんなこと考えていたの!?」と、更に衝撃度が増す仕組みになっています。
さらに「映画の生体解剖」は、高橋洋に輪をかけてとんでもない映画の見方をしている稲生平太郎(作家であると同時に、本名の横山茂雄名義で英文学、幻想小説の研究もしている方)との対談ですが、これはもう筆者などは全然知らない映画の話ばかりしており、まるで話にはついていけません。「どう考えてもそれはないだろ」と思うような変態的な解釈ばかりが飛び交っている様を「芸」として楽しむ本かと思います。

というわけで、映画と同様、かなり狂った本ばかり出している高橋洋ですが、シナリオ作品がまとまった形で本になったことはなく、待望の刊行です。

収録作は以下のラインナップということです。
・女優霊 1996年
・インフェルノ蹂躙 1997年
・蛇の道 1998年
・ソドムの市 2004年
・狂気の海 2007年
・恐怖 2010年

「女優霊」「ソドムの市」「狂気の海」については、以前の記事で熱く語りましたので、その他の作品についても少し紹介しましょう。

「インフェルノ蹂躙」は、筆者は未見です。日活からオリジナルビデオとして発売された「エロティックサスペンス」で、レンタルショップで借りるしか見る方法がない作品ですが、DVDにはなっていないため、鑑賞はかなり難しい状況です。
「蛇の道」は盟友・黒沢清監督作です。当時、黒沢清とのコンビで劇場公開作なのかオリジナルビデオなのかよくわからないプログラムピクチャーをいくつか製作していますが、その中でも最悪の後味が伝説的に語られている一作です。
「恐怖」もまた問題作ですね。「感染」「予言」「輪廻」「叫」と続く一瀬隆重プロデュース「Jホラーシアター」の一作として公開されたため、大作感のあるホラーを期待して観に行った方も多いかと思いますが、内容は「ソドムの市」「狂気の海」に続く全くの高橋洋作品。期待とのギャップに物議を醸しましたが、高橋洋ファンには熱狂的に迎えられました。

というわけで、今やあまりレンタルショップでも見かけない、レアな作品が並んでいます。
高橋洋は自身で監督もしますが、やはり軸足は「脚本家」にあり、氏の思想を知るには映像を見るよりもまず、脚本を読み、セリフとストーリーを堪能することが重要かと思います。
万人には決して勧められない内容かと思いますが、高橋洋ファンはこの機会を逃さないほうが良いでしょう。
出版元の幻戯書房(げんきしょぼう)は、角川源義(角川書店創業者)の娘である辺見じゅん(角川春樹・角川歴彦の姉)が創業した出版社で、文学書がメインですが、映画の本もたくさん発行しています。どこの書店でも取り扱っていますが、新刊が入荷しない書店も多いと思いますので、大型書店かネット書店で購入する、あるいは事前に予約しておくことをおすすめします。

また、2月にはこれまた内容が全く見当もつかない、しかし怪作であることだけは間違いのない「霊的ボルシェヴィキ」が公開されますが、月刊誌「シナリオ」にシナリオが掲載されるそうです。

シナリオ 2018年 03 月号 [雑誌]
日本シナリオ作家協会
2018-02-05


以下、シナリオ集に収録予定作品のDVD、Amazon販売ページ。
女優霊 [DVD]
バンダイビジュアル

蛇の道 [DVD]
東芝デジタルフロンティア

<ホラー番長シリーズ> ソドムの市 [DVD]
アット エンタテインメント

狂気の海 [DVD]
ALPHA ENTERPRISE Co.,Ltd(IND/DAS)(D)

恐怖 [DVD]
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン


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