201801幻影の蔵159

乱歩の研究書や評論は山のように刊行されており、とても全てを追いかけきれない状態ですが、「これぞ」というものが刊行されると、金に糸目をつけず買い求めてきました(東京創元社の「貼雑年譜」30万円はスルーしてしましたが)。
とはいえ、ほとんどは「まあ、買っておくか」という程度で、心の底から「買ってよかった」と思えるものはごく一部です。
今回から何回かにわけて、「乱歩お宝本」と称して、そんな「買ってよかった」と思える乱歩関連本を紹介していきたいと思います。

初回でご紹介する「幻影の蔵」は、2002年に東京書籍から発行された乱歩邸の蔵書目録です。
定価8000円なり。

それにしても蔵書目録! 蔵書目録だけの内容が一冊の本となって刊行された作家って、乱歩以外にいるんでしょうかね。
乱歩の蔵書は有名な「蔵」の中に収められていましたが(過去形)、いかに乱歩ファンが「蔵」に対して興味津々なのかが、この一事をとってもわかるというものです。

さて、筆者も蔵には興味津々なので刊行と同時に飛びついて買った一人なのですが、あれからもう15年以上も経つとは。
それはともかく、内容はほんとうに、蔵書がひたすらリストアップされているだけです。しかも、これは探偵小説関係に限っています。乱歩の蔵書といえば、和本のコレクションや衆道の資料などが有名ですが、それらは収録されていません(続刊があるかと思っていたけど、さすがに出ませんね)。

そんな本が面白いのか?
戦前の海外ミステリ受容史を概観したり、今や激レアとなった初期のポケミスや創元推理文庫がふつうに並んでいたりといった部分を楽しむこともできますが、まあ、筆者を含めてふつうの読者はそんなことには8000円も払うほどの価値を見出さないでしょう。

では、この本のどこがお宝なのか。
それは付属のCD-ROMに尽きます。

本書にはCD-ROMが付属しているのですが、これがすごい。
まずは蔵書目録がデータベース化されており、検索できます。
それが、そんなに騒ぐほどすごい? いや、全然すごくない。

実は本書の最大の価値は、もう一つの付録、「江戸川乱歩邸書庫探索ソフト」の方にあるのです。
なんと、このソフトを使えば、乱歩邸の「蔵」の中を自由に歩き回れるのです!
Googleストリートビューほどではありませんが、似たような感覚で、蔵の中の写真画像が収められており、ほとんど全ての棚の前で立ち止まることができます。
また、興味深い棚については一段ずつ拡大表示も可能。

201801幻影の蔵001
乱歩邸の玄関をくぐって、邸内を進むと蔵へ到着。中へ入る。

201801幻影の蔵002
階段を上がると、有名な「自著棚」。そのうちの一段をクリック。

201801幻影の蔵003
その段の内容を拡大表示。
書籍によっては手にとって表紙を眺めることも可能。この棚では代作で有名な「蠢く触手」を閲覧できます。新保博久と山前譲の編集なので、その辺は痒いところに手が届くセレクションです。

こんな調子で、蔵の中を隈なく眺めることができるのです。
これは蔵書リスト以上に、ファンにとっては堪らないアイテムです。
しかも、このCD-ROMは、PCへインストールすることもできます。
筆者は15年前にこの本を買ってから、何度かPCを買い替えていますが、そのたびにインストールし直しています。一応、今使っているWindows10のマシンでも全く不具合なく、快適に動作してくれています。何年眺め続けても全く飽きない、最高のヒマつぶしです。

というわけで、今回は乱歩邸蔵書目録「幻影の蔵」をご紹介しました。
すでに出版社では品切れていますが、古本では容易に入手できるようで、Amazonマーケットプレイスにも手頃な価格で大量に出品されています。
ただし、古本で買われる際には、くれぐれもCD-ROMの状態が良いものを選ばれるよう、それだけご忠告いたします。



関連記事:
とんぼの本「怪人 江戸川乱歩のコレクション」
福島萍人『続有楽町』入手
江戸川乱歩入門 その1 名作短編集のおすすめ
ポプラ社 少年探偵江戸川乱歩全集の27巻以降


関連コンテンツ