年明けからTOKYO MXおよびWOWOWでアニメが放映予定という伊藤潤二。
年末にはファンブックも発売される予定で、世間ではおおいに盛り上がることが期待できます。残念ながら、わが家ではどちらも視聴できないのですが、どの作品が原作となるのか、その情報だけでも楽しみです。
この機会に、個人的に考えている伊藤潤二の魅力、またそれを堪能できるおすすめ作品をご紹介します。

伊藤潤二の魅力。それは何よりまず「奇想」でしょう。
そして、ぶっ飛んだ発想を説得力を持って読者へ提供するための「画力」と「ユーモア」。
この3つが伊藤潤二を語る際に欠かせないキーワードだと思います。
一般的には「ホラー漫画」とされており、確かにホラーではあるのですが、個人的にはSFを読む時に近い興奮を感じます。伊藤潤二に匹敵する天才といえば、筒井康隆くらいしかいないでしょう。
具体的な作品を挙げながら、これらの魅力をご紹介していきます。

奇想

伊藤潤二作品は常人にはとても真似のできない、とんでもないアイデアに支えられています。
この「奇想」を堪能できる傑作はやはり「首吊り気球」と「うめく排水管」でしょう。

「首吊り気球」は1994年に発表された短編ですが、「自分と同じ顔をした気球が空から襲ってきて、ロープへ首を引っ掛けて飛び去る」といういったいどういう頭で考えだしたのか、見当もつかない話です。なおかつ、気球を破壊すると、同じ顔を持った人間の方も同じ運命をたどることになる。気球に襲われている少女を救うためボウガンで気球を撃つと、穴があいてしぼんでしまいますが、少女の顔までしぼんでしまうのです。
「うめく排水管」は、その前年、1993年の作。ストーカーが排水管に棲みついてしまうという話ですが、終盤のこのコマが強烈。

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この2作品は「伊藤潤二傑作集8 うめく排水管」に収録されています。伊藤潤二作品はこの頃が絶頂期で、傑作だらけの一冊になっています。

画力

1991年に発表された「寒気」には、ある呪いによって全身が穴だらけになった男が登場します。

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ビジュアルと発想だけでもかなりとんでもないのですが、もっと唖然とするのは、これだけたくさんの穴が開いているにもかかわらず、どのコマを見ても、同じ位置に同じ大きさの穴が正確に描かれているのです。
このように、伊藤潤二は細部に偏執的にこだわった画作りをします。
ふつうのマンガでは、右手で持っていた物が、次のコマでは左手へ移っている、なんてことはザラですが、伊藤潤二作品ではそのようなことはほとんど許されません。たまにそういうのを見かけるとちょっと嬉しくなってしまうくらいです。
これだけのアイデアを次々繰り出すだけでもかなりの体力なのに、そのうえにここまで細部をきっちり描く。そんな作風でよくぞ今まで神経をやられずに活躍を続けられるものだ……と本当に感心してしまいます。

上記「寒気」は「伊藤潤二傑作集7 案山子」に収録されています。本書冒頭の「赤い糸」は「寒気」と同じような「正確な描写」を堪能できると同時に、次に紹介するユーモア物の傑作でもあります。

ユーモア

恐怖と笑いは紙一重、とよく言われますが、伊藤潤二が尊敬する先達・楳図かずおとおなじく、伊藤潤二作品も黒い笑いに溢れています。
完全にギャグに振れきったシリーズとして「双一シリーズ」があります。「ホラーな目にあわせてやる」が口癖の少年・双一が、次々と巻き起こす不思議な事件を描いています。双一は非常に陰険で攻撃的で、優しさのかけらもない少年ですが、いつも反撃を受けて敗退するという展開ばかりで、憎めないキャラであり、伊藤潤二作品の中でも富江と人気を二分しています。
「怪奇ひきずり兄弟」も双一と同系統の話ですが、短編2つで終わってしまっているのが残念です。

双一シリーズは「伊藤潤二傑作集3 双一の勝手な呪い」にまとめられています。実は最近の作品集にも後日譚が登場しており、そちらも大傑作です。
怪奇ひきずり兄弟は「伊藤潤二傑作集4 死びとの恋わずらい」に収録されています。

というわけで、非常に駆け足に、伊藤潤二の魅力を知るためのおすすめ作品を紹介しましたが、正直、伊藤潤二の傑作はベストを絞りきれません。どれもこれも魅力的なのです。
一つも読んだことがない、という方は傑作集を全部そろえてしまうことになる覚悟で読んでみてください。

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伊藤潤二作品目次 「伊藤潤二傑作集」編


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