このコーナーでは、気になった新刊をちょこちょこと紹介していきます。
ここ最近筆者の目についた、というだけで、刊行から割りと日が経っている本も紛れていますのでご容赦ください。
(リンク先は全てAmazon)

【「新青年」版】黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
作品社
2017-09-28


今月最大の話題書は、やはり本書でしょう。
「黒死館殺人事件」の固有名詞全てに注釈をつけるという、大変な偉業です。また、その注釈も脚注の形で本文の下にレイアウトされているので、非常に読みやすくなっています。さらには、連載時の挿絵も全て収録という、この一冊さえあれば、ほかに本は何も要らないと言って良いくらいです。(ちなみに「無人島へ持っていく本」という表現がよくありますが、これは「黒死館殺人事件」を背嚢へ入れて戦地へ赴いた青年がいる、という乱歩が紹介したエピソードから生まれたものだという説もあります)
そして、本書にはもう一つ、とびきりの魅力があります。
それは、このカバーの手触り! なんなんでしょう、これは。
こんな感触の本をさわったのは初めてですが、書店で手に取ったときには、あまりの衝撃に頭がクラクラしました。
本を持ち上げただけで、なにを大げさで馬鹿げたこと言ってんの? と思われるかも知れませんが、いや、これがマジでそうなんです。
しっとりと手に馴染む質感で、「高いな」「分厚いな」「ホントに読む気あるの?」と言ったネガティブな想念が全て消え去り、「このまま手放したくない」「死ぬまで本棚に並べておきたい」と思ってしまうこと確実です。
作品社も恐るべき紙質を発見(あるいは開発)したもんだと思います。


街場の天皇論
内田 樹
東洋経済新報社
2017-10-06


まだ出たばかりの本なので、きちんと読んではいないのですが、ここ最近、天皇についての発言が増えている内田樹の天皇にまつわるエッセイ集です。
天皇に対する崇敬の念というと、保守主義者と見なされる傾向がありますが、実際には全くそんなことはなく、リベラリストを含めた日本人の大半は、天皇や皇室に対し、濃淡はさまざまかもしれませんが敬意を抱いています。
筆者自身も、ネトウヨが語っているような愛国論には吐き気しか感じませんが、昭和天皇や今上陛下については心から敬愛しています。
本書はそのような気分にぴったり沿うものであり、また象徴天皇が戦後日本においてどのような効果を持っていたのか、的確な言葉で分析しています。
代替わりが迫る今の機会に読んでおきたい本です。



綾辻行人デビュー30周年を記念して編まれた書き下ろしアンソロジー。
特に大傑作が収録されているわけでもなく、いやそれどころか、肝心の綾辻さんの短編が「何じゃこりゃ」と言いたくなるようなむちゃくちゃなものなのですが(そもそも、綾辻さんの作品に「名探偵」はいないので、企画自体がむちゃ)、しかし、中学高校の頃に毎月ワクワクしながら手に取っていた講談社ノベルスを思い出し、ついつい買ってしまう、楽しいお祭り本です。



「レトロ」ってどのくらいレトロな話かというと、無声映画まで遡って話をしているレベルです。
ほとんど未見の映画ばかりなのですが、テクニック中心に語られているため興味深く読める本です。



関連コンテンツ