201709呪怨126

前回までに映画「リング」が登場し、Jホラーブームが幕開けるところまでお話しました。
「ブームが幕開け」た言っても、まだこの時点ではレンタルビデオ屋の棚がJホラー一色に染まった……ということはありません。
中田秀夫と高橋洋には注目が集まっており、筆者もテレビドラマ「学校の怪談」シリーズの旧作が再放送されると熱心にチェックしたり、高橋洋脚本の映画「発狂する唇」をレンタルしたりしていたものですが(このワケがわからない映画は、高橋洋のもう一つの路線)、世の中にブームが起こっているという実感はあまりありませんでした。

そんなころ、学生時代の先輩と飲んでいてホラーの話になったとき「この前、むちゃくちゃ怖い映画を観た」という話になりました。
「あれはむちゃくちゃ怖い。リングより怖い。ビデオになってるけど、絶対に夜中に観たらアカン」
全く聞いたこともないタイトルで、監督を尋ねても「忘れた」。しかし「たしか高橋洋が脚本を書いていたような……」ということなので、それならば、と見てみることにしました。
ところが、その場ではタイトルをメモしていなかったため、いざレンタルビデオ屋へ行くとタイトルを忘れてしまっており、改めて先輩へメールを送ってタイトルを確認したものです(当時はパソコンのメールしかなかったので、未だにバックアップが残っており、やりとりしたのは2000年6月6日のことでした)。
なお、先輩の上記の発言について説明すると、「高橋洋脚本」は誤りで実際には「監修」でした。しかし、東映ビデオが新人の清水崇を売り出すため、「高橋洋監修」をクローズアップしていたという事情があります。
また、「呪怨」はオリジナルビデオとして発売されましたが、先輩はこれを「劇場映画」と認識していました。というのも、「呪怨」はビデオ発売とほぼ同時に、一週間だけ単館上映していたのです(どこの劇場でいつの事だったか、資料を探せないのですが……)。先輩はこの時に劇場で鑑賞しており、今にして思えばかなりの目利きです。

当時住んでいたのは学生街が近かったため、周囲にはレンタルビデオ屋が乱立している環境でしたが、正確なタイトルを知ってからも、置いている店を発見するのに苦労しました。
それくらい、全く何も注目されていなかったのです。
ようやく見つけて、先輩の助言に逆らって真夜中に鑑賞しましたが……これは本当に観たことを後悔しましたね。
特に、後に定番となる「伽椰子の階段降り」には、目を覆いたくなったものです。
こんな映像を撮る清水崇とは何者か? きっと引きこもりの変態野郎で、こっそりと何人か殺しているに違いない、というくらいに思っていました。

さて、筆者はビデオを発見するまでにかなり苦労しましたが、やはりホラーファンのあいだではかなりの話題になっていました。
「呪怨」をようやく借りた直後に、遠く離れた地域で勤務している会社の同期と会う機会がありました。
この同期は筆者とは妙に趣味が合い、入社前の研修の時点で、公開されたばかりの「リング」の話で盛り上がっていたため、当然「呪怨」の話題になりました。
すると「『学校の怪談G』は観た? 『呪怨』のエピソードが入ってるよ」というのです。
というわけで、この時もビデオ屋へ急行し、チェックしました。
「学校の怪談G」は関西テレビで製作の「学校の怪談」シリーズの一本ですが、この中に清水崇の商業デビュー作となる掌編「片隅」と「4444444444」が収録されているのです。
これが、それぞれわずか4分間の映像にもかかわらず、とんでもなく怖い。清水崇の才能を改めてまざまざと見せつけられました。そして、とんでない変態だろうという印象はますます強まったのです。
(それにしても、大学の先輩や会社の同期などマニアックな人に囲まれて、かなりスムーズに情報を得られたのはラッキーな環境でした)

清水崇の顔を見ることができたのは「映画秘宝」2001年5月号に掲載されたインタビューが初めてです。びっくりするほど好感のもてる常識人でした。
その後、メディアの露出も増え、経歴もわかってきました。
映画の撮影現場で仕事をしながら、映画美学校へ通い、そこで黒沢清や高橋洋に注目され、「学校の怪談G」に参加することになったというのが、デビューまでの流れでした。
映画美学校で注目されるきっかけとなったのが、課題として提出した「家庭訪問」という短編です。
これは「伽椰子の階段降り」シーンのみの映像だったそうですが、このとき既に、後にずっと伽椰子を演じ続ける藤貴子が出演していたそうです。
この短編「家庭訪問」は、筆者が知る限り一度だけ劇場で上映されました。劇場版「呪怨」の何作目だったかの公開の時に監督のトークイベントがあり、その中で上映されたのです。
筆者は仕事の都合がつかなかったこともありますが、「映画館でかけられる状態なら、待っていればいずれ何かのDVDで映像特典として収録されるだろう」と高をくくり、イベントには参加しませんでした。しかし、その後15年近くたってもDVDに収録される気配はなく、Jホラーブームも終息してしまっており、今後の新たな動きは望めません。今にして思えば、千載一遇のチャンスを逃してしまったのです。

さて、高橋洋がまとめていた「小中理論」では、「幽霊は顔を出してはいけない」ということなっています。「女優霊」では思いっきり顔が出ており、高橋洋はこれを「失敗」だったとして、「リング」の貞子はずっと髪を顔の前へ垂らしています。
ところが、伽椰子はまたしても顔を晒しています。高橋洋は「監修」の立場からこの点に異議を唱えたそうですが、清水崇流の恐怖表現ということでそのまま監督の意見が採用されることになりました。結果的には、これは「成功」だったと思います。

というところで、今回はビデオ版「呪怨」の登場について語りましたが、次回は劇場版以降について語ります。 




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