今回からスタートのこのコーナーでは、気になった新刊をちょこちょこと紹介していきます。
ここ最近筆者の目についた、というだけで、刊行から割りと日が経っている本も紛れていますのでご容赦ください。
(リンク先は全てAmazon)

盤上のファンタジア:若島正詰将棋作品集
若島正
河出書房新社
2017-08-25

ミステリやSFを含む英米文学の翻訳で有名な若島正・京大教授による詰将棋の作品集。長らく品切れだった本ですが、藤井四段の活躍で詰将棋に注目が集まる中、復刊しました。
若島教授は翻訳家として知られていますが、将棋やチェスの強豪アマとしても有名です。大崎善生による団鬼六の評伝「赦す人」の文庫解説で、小池重明と対戦したことがあるというエピソードを披露しており、ビックリしました。
(そういえば、団鬼六の「真剣師小池重明」も、しばらく品切れでしたが、昨今の将棋ブームに乗って重版がかかったようです。超名作なので、未読の方はこの機会に是非)




翔ぶ夢 生きる力 ~俳優・石坂浩二自伝~
石坂浩二
廣済堂出版
2017-08-26


石坂浩二の「自伝」。
聞き書きと思われる体裁で、それほど充実した内容とは言い難い本ですが、金田一耕助についても一章を費やしていろいろ興味深い話を語っています。「テレビ版のオファーも受けたが第一話を読むと逆立ちをしていて、これは違うと思った。テレビの金田一は見ていない」ということを言っていて、古谷一行に喧嘩を売っているようにしか思えないのですが……。金田一ファンは「どっちも好き」という人が多いと思いますので、仲良くしていただきたいものです。



昭和史がらみで興味深い本が出ています。
田辺元は京都学派の哲学者ですが、1940年に「歴史的現実」という小冊子を刊行し、学徒動員に理論的な裏づけを与え、数多の学生が本書を懐に戦地へ向かうこととなりました。
この「悪魔の理論」を佐藤優が詳細に読み解きます。
筆者は哲学という分野は全く苦手で、基本的な教養がないため入門レベルの本ですら理解できないのですが、正直、本書もほとんどよくわかりませんでした。佐藤優は非常に丁寧に田辺元の理論を解説してくれていますが、全体をつなげて頭のなかで整理するには、かなりの素養が必要と感じます。
ただ、世界で頻発するテロや、ここ最近の好戦的な社会情勢に、暗い未来を感じている方は、冒頭に佐藤優が語っているとおり、危険思想の予防接種として本書を一読される価値はあると思いました。



リンク先のAmazon商品ページに目次が掲載されていますが、イギリス文学・鴻巣友季子、フランス文学 ・鹿島茂、ドイツ文学・池内紀、ロシア文学・沼野充義、アメリカ文学・青山南、明治文学・坪内祐三、戦後昭和文学・福田和也、国内ミステリー・新保博久、海外SF・大森望、等々、各分野の文句なしの第一人者が集結している、心強いラインナップです。
とはいえ、「本の雑誌」に寄稿する面々だけあって、あまり素直な内容ではありません。直球ど真ん中の選書をしているのは大森望くらいで、新保博久などは変化しすぎて魔球になっているような内容です。
ディスるつもりはないのですが、「古典名作」というタイトルに惹かれて初心者が真に受けてしまうとやや戸惑う内容です。上記の評者の名前を見てピンとくるレベルの読者が、コラムを読みながらニヤニヤする、というタイプの本になっています。
後ろのほうにある、エンターテインメント番付を選ぶ対談は面白いです。選ばれている本も割りと定番が多いので、初心者の目安にもなるとは思いますが、それよりも、大森望がやたら「これは読んでない」と言い切っているのが驚きでした。どんな本でも読んでいないものはない、というくらいに思っていたのですが、やっぱりそんなわけないですよね。筆者は「黒死館殺人事件」も「月長石」も、一応最後まで読み通しているので「勝った」と思いました。

わざと忌み家を建てて棲む
三津田 信三
中央公論新社
2017-07-19


買ってもいなければ読んでもいない本をご紹介するのもいかがなものかと自分で思いますが、これはかなりグッとくるタイトルです。最初は「もしかして実話!?」とちょっと期待しましたが、小説だったのでその時点でちょっと減点。買うべきかどうすべきか悩んでいます。
三津田信三氏は編集者として実話怪談界の名作を数多く世に送り出している方で、絶対的に信頼できるのですが、ただ刀城言耶シリーズは個人的にあまりノレないため、どうも買う前には悩んでしまいます。



子ども向けに発行されている大井川鐵道を走るトーマス号の写真集。
先日の記事に書いたとおりトーマス号のベースになっているC11形227号は映画「悪魔の手毬唄」のラストシーンの撮影に使われた車両です。C11形227号の今の姿を心ゆくまで堪能したい方にはおすすめです。筆者は実物に乗ってきたばかりだというのに、子どものために妻が買ってきた本書を食い入るように眺めています。

このコーナー、月イチペースで随時アップしていきたいと思います。


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