備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

2019年12月

岩波文庫の美装ケース入りセットが大好き

20191217岩波文庫

本屋から帰り道、最もうきうきした気分になれるのはどんなとき?
それは、岩波文庫の「美装ケースセット」を買ったとき!
「美装ケースセット」というのは、岩波文庫の箱入りセットです。巻数が多いシリーズや同じテーマの書籍などをまとめたもので、かなりの種類が出ています。

筆者はこの「美装ケースセット」をこよなく愛しており、セット組されているというだけで購買意欲が湧き上がります。
以前、こちらで書いたことがありますが、岩波文庫以外のケース入りセットは買いません。中身を確認できないため、小口研磨された本が混じる恐れがあるためです。しかし、岩波文庫に限っては小口研磨本というものは存在しないので、中の本は間違いなく美本です。安心して買えるというわけです。
いずれも重厚感があり、書棚に飾ると文庫とは思えない存在感を発揮します。さらにケース入りだと少々ホコリをかぶってもあまり気にする必要もなく、20年くらい経っても中の本はきれいなままです。
というわけで、読みたい本がセットになっていたら間違いなくそれで買いますし、どうかすると読みたいわけでない本まで、読みたいような気になって買ってきたりしてしまいます。(上の画像に写っている「南総里見八犬伝」とか。20年間積ん読中だけど、死ぬまでには読む)

そんな素敵な美装ケースセットなのですが、いろいろ調べてもリストが見当たりません。
そこで、わかる範囲内で一覧にしてみます。過去には販売されていたけど、今は手に入らない、というものも含まれますのでご注意ください。筆者が調べた範囲内なので、漏れはあると思われます。気づいたら追加します。
なお、リンク先は全てAmazonの販売ページですが、中古品の場合は箱無しの場合があります。というより、Amazonの中古品に箱がついていることはめったにありません。
リンク先で新品が販売されていれば、箱入りのはずです。

赤帯

外国文学

文庫で読める唯一の「西遊記」全訳。


これは訳が古くてなかなか読むのが大変です。





紅楼夢 12冊セット (岩波文庫)
曹雪芹
岩波書店
1995-07

単行本は新訳ですが、こちらは旧訳です。




こういう本も、箱入りセットなら持っていてもいいかな、という気になりますね。買ってないけど。

ドン・キホーテ 全6冊 (岩波文庫)
セルバンテス
岩波書店
2001-07-09

読みやすい新訳。



戦争と平和(全6巻) (岩波文庫)
トルストイ
岩波書店
2006-11-01

これも読みやすい新訳。

静かなドン 全8巻 (岩波文庫)
ショーロホフ
岩波書店




千一夜物語 13冊セット (岩波文庫)
渡辺一夫
岩波書店
1995-07-01


10年に一度しか重版されないようです。前回重版分はまだ在庫がある!

エセー 6冊セット (岩波文庫)
モンテーニュ
岩波書店
1996-07-01


ジャン・クリストフ 全4冊 (岩波文庫)
ロマン・ロラン
岩波書店
2003-09-09


レ・ミゼラブル 全4冊 (岩波文庫)
ヴィクトル ユーゴー
岩波書店
2003-09-09

定番の豊島与志雄訳。

モンテ・クリスト伯 7冊美装ケースセット (岩波文庫)
アレクサンドル デュマ
岩波書店
2007-12-18

これも定番の山内義雄訳。

モリエール作品集 全9巻 (岩波文庫)
モリエール
岩波書店
2009-06



読みやすい新訳。


岩波からまさかの「風と共に去りぬ」。新訳。


これまでに刊行されたボルヘスの作品をまとめたセット。



グリム童話集 5冊セット (岩波文庫)
ヴィルヘルム・グリム
岩波書店
1995-07-01




「イギリス民話集」「イタリア民話集 上・下」など、各国の民話集11冊をまとめたもの。

荒涼館魅せられたる魂デカメロンのセットも存在しますが、なぜかAmazonでは販売ページを確認できず。

緑帯

日本文学


岩波文庫美装ケース入りセット史上、最大。

寺田寅彦随筆集 セット (岩波文庫)
寺田 寅彦
岩波書店
2010-08-01


夜明け前 全4冊 (岩波文庫)
島崎 藤村
岩波書店
2010-08-01




日本近代随筆選(全3冊セット) (岩波文庫)
長谷川郁夫
岩波書店
2016-12-01


江戸川乱歩短篇集/怪人二十面相・青銅の魔人/少年探偵団・超人ニコラ/江戸川乱歩作品集I/江戸川乱歩作品集II/江戸川乱歩作品集III の6冊を収録。

正岡 子規
岩波書店
2002-07-09

黃帯

日本古典

日本書紀 5冊 (岩波文庫)
坂本太郎
岩波書店
1995-07-01




源氏物語 全6冊 (岩波文庫)
山岸 徳平
岩波書店
2010-08




平家物語 (岩波文庫 全4冊セット)
山下宏明
岩波書店
2000-07-07


太平記(全6冊セット) (岩波文庫)
兵藤裕己
岩波書店
2017-05-01


南総里見八犬伝 全10冊 (岩波文庫)
曲亭 馬琴
岩波書店
1995-07


川柳集成 全8冊セット (岩波文庫)
山沢英雄
岩波書店
1995-07



青帯・白帯

歴史・哲学・自然科学・政治など

史記列伝 全5冊 (岩波文庫)
司馬遷
岩波書店
1995-07-01



「ローマ帝国衰亡史」は、岩波文庫版は品切れですが、筑摩文庫版も箱セットがありますね。小口研磨されているかもしれない、というリスクはありますが。

名将言行録 8冊セット (岩波文庫)
岡谷 繁実
岩波書店
1997-12


米欧回覧実記 全5冊セット
久米邦武
岩波書店
1996-12




ファーブル昆虫記 10冊セット (岩波文庫)
ファーブル
岩波書店
1995-07-01


神の国 セット(全5冊) (岩波文庫)
アウグス ティヌス
岩波書店
1999-08


新エロイーズ 全4冊 (岩波文庫)
ルソー
岩波書店
1997-07


存在と時間(全4冊セット) (岩波文庫)
熊野純彦
岩波書店
2013-12-01




シンボル形式の哲学 (岩波文庫) 全4冊
エルンスト・カッシーラー
岩波書店
2010-01








ロシア革命史 全5冊セット (岩波文庫)
トロツキー
岩波書店
2001-07


金枝篇(全5冊セット) (岩波文庫)
フレイザー
岩波書店
2002-07-09


リヴァイアサン 4冊セット (岩波文庫)
ホッブズ
岩波書店
1996-07-01

その他







30年ぶりの続編 赤川次郎「いもうと」

201912いもうと016

大林宣彦監督の映画「ふたり」が公開されたのは1991年。筆者は高校1年生でした。
劇場まで一人でわざわざ観にいった理由は覚えていません。
赤川次郎の小説はちょこちょこと読んでいましたが、特に熱心なファンというわけではなく、「ふたり」は未読でした。大林宣彦については名前を知っているという程度。主演女優の二人は名前すら聞いたこともない。
そんな状態でよく観にいったものだと思いますが、前年にドラマ版がテレビ放映され、然る後に映画版が劇場公開されるというプロジェクトが話題になっており、なんとなく「観ておいたほうがよさそうな映画」という認識を持っていたような記憶があります。テレビ版を見ようと思っていて見損ねたことも一因だったかもしれません。

ともかく、そんな風にたいした期待もせずに見た映画は、おそらくこれまでの人生で最も何度も見直した映画になってしまいました。
上映が始まると冒頭からノックアウト。石田ひかりの魅力が炸裂。いや、石田ひかりだけでなく登場する人々が、誰も彼も立体的で生き生きと動き回っており、自分も映画の世界に入ってしまったかのような感覚で、どっぷりはまってしまいました。
頭をクラクラさせながら2時間半の上映時間を過ごすと、そのまま1ヶ月くらいは主題歌「草の想い」が脳内でエンドレス再生され続けるという状態でした。
その後、ビデオが発売されると何度も何度もレンタル。2001年にDVDが発売された時点でもまだ熱は冷めておらず、予約して購入するとしばらくのあいだは毎日再生。

原作は映画を観た直後、直ちに購入して読みましたが、これが実は驚くほど原作に忠実な映画化でした。舞台が東京、という点にのみ「あれ? 尾道じゃないの?」と軽い違和感を覚えたものの、読み返すたびに映画のキャスティングそのままで脳内上映が始まりました。

というわけで、赤川次郎「ふたり」は映画とセットで異常に思い入れのある小説なのですが、原作の発表からちょうど30年になる今年、その続編「いもうと」が刊行されました。

これは読むべきかどうか、散々迷いましたね。
10月に刊行され、手に取る決断をするまで2ヶ月近くかかりました。
これは絶対、読んだら後悔するに違いない。これまで30年間、自分の中で大切にしてきたイメージが壊されてしまうに違いない……しかし、読みたい。実加がどんなふうに成長しているのかものすごく気になる……
ということをこの2ヶ月近く悩み続けた挙げ句、ようやく読んだというわけです。

結果。
読んだのは正解でした!

まず、映画版のキャスティングそのままで、続編も完全にイケます。
実加は石田ひかり。お姉ちゃんは中嶋朋子。お父さんは岸部一徳で、お母さんは富司純子。長谷部真子も神永智也もみんな映画のままでOKです。
むしろ、赤川次郎が原作者でありながら、映画版リスペクトで、出演者に寄せてきているような印象すらありました。
ああ、それぞれこんな風に「ふたり」のあとを生きていたんだ、ということがよくわかりました。

しかし、みんな本当にひどい目に遭いますね。
 そもそも、赤川次郎の作風は、世間ではユーモアミステリだとか言われていますが、本質的には暗く陰惨な物語を描きます。
「ふたり」も美しい姉妹愛の物語と見せて、一つ一つのエピソードは冷酷です。
姉の事故死、レイプ未遂、母の入院と闘病、いじめ、同級生の一家心中、さらには父の不倫。
少女時代にどれか一つでも経験したら一生引きずりそうな話がてんこ盛りとなっています。
続編「いもうと」では、これはさらにエスカレート。大人になっているので、さらに容赦のないトラブルが次々と襲ってきます。野島伸司も真っ青の展開です。
ところが、作者は登場人物に対して容赦がないだけで、愛情がないわけではない。
過酷な試練に直面する一人ひとりを、実に生活感あふれる生きたキャラクターとして描きます。誠実に生きる人も、身勝手に生きる人も、それぞれ自分の人生をしっかり生きている。一番残酷な未来が待っていたのは神永青年でしたが、彼に対してすら作者の愛情を感じる。

そんな冷酷な展開の物語を、「ふたり」では、実加と千津子のやり取りに救われながら読み進みますが、「いもうと」では成長した実加のたくましさに救われます。
どうしているか心配していたけど、ほんとに頑張ってるよ! よかったよかった!
全然「いい話」なんかじゃないのに、またもや物語の中にどっぷりとはまってしまいました。

いもうと
赤川 次郎
新潮社
2019-10-18


学習まんが「少年少女日本の歴史」(小学館)はここがスゴイ!

※この記事は、小学館が発行する学習まんが「日本の歴史」の旧版に関するものです。2022年12月刊行の新版ではありませんので、ご注意ください。


201908日本の歴史

こちらの記事「学習漫画「日本の歴史」を買うなら、おすすめはどれ?」の中で、
人物の描き分けや画面の構図などは肖像画や絵巻物、近代であれば写真などを参考に描かれており、高校生になってから日本史の図録を見て、「あ、これは学習漫画のイラストと同じだ」と気づくことが何度もありました。
と書いています。
いくつか、実例をご紹介します。

まずは平安時代の「清涼殿落雷事件」。
菅原道真を太宰府へ左遷したことから、怨霊が御所へ雷を落としたのでは、と言われている一件です。

清涼殿落雷事件

巨大な稲妻と、それに慌てふためく人々が絵巻物を参考に生き生きと描かれています。

次は鎌倉時代の蒙古襲来。
「蒙古襲来絵詞」の有名なワンシーンからの引用です。

蒙古襲来絵詞

「蒙古襲来絵詞」からは、このコマだけでなく、あちこちで引用されています。

次はこの武将。

足利尊氏

実は20年ほど前までこの人物は足利尊氏であるとして教科書にも載っていました。その後、研究が進み実は足利尊氏ではなくて高師直では、と言われるようになっていますが、小学館版は刊行時期が古いこともあり、足利尊氏はこの肖像画を参考に描かれています。
歴史学的にはやや遅れた情報となっているわけですが、とはいえ日本人の認識としては未だにこの人物は足利尊氏、ということで良いでしょう。

次は江戸時代の「ゑちごや」。

越後屋

これはしっかりと模写しています。
やはり忠実に模写している例として、咸臨丸の渡米。

咸臨丸

という感じで、いずれも元になる絵巻などをうまく漫画に落とし込み、ストーリーを楽しみつつ史料にも親しみを持てるという仕組みになっています。
ここでご紹介したのはほんの一部で、シリーズ全体にこのようなコマが散りばめられています。歴史好きの大人が読んでも楽しむことができます。






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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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