備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

2019年07月

筑摩選書「ベストセラー全史【現代篇】」澤村修治

201907ベストセラー全史328

筑摩選書から先月刊行された「ベストセラー全史【現代篇】」。個人的は非常に興味深い内容で、あっという間に読んでしまいました。

1975年生まれの筆者の母はかなり本好きで、家には大量の本がありました。
文学少女の延長のような読書傾向で、島崎藤村やら志賀直哉、現代作家では遠藤周作や有吉佐和子などを愛読していましたが、かなりのミーハーでもあり、世間で売れている言われる本はいちいち、買ってきていました。
そんなわけで、実家の本棚には70年代から80年代のベストセラーがズラッと並んでいたわけですが、子どもの頃はそんなことは全然知りません。単純に母はそういう本が好きなんだろうと思って眺めていました。
「窓ぎわのトットちゃん」はもちろん(というか、この本は筆者も大好きですが)、「ちょっとキザですが」「気くばりのすすめ」「積木くずし」「複合汚染」、さらには「サラダ記念日」まで。母と祖母とが「サラダ記念日」の話で盛り上がっていたのも懐かしい思い出です。
タイトルを眺めながら、ずっと「母の好みがよくわからない」と思っていたのですが、答えは明確。「ベストセラーが好き」だったんですね(もしかすると、遠藤周作や有吉佐和子も、売れているから、というので読んでいたのかもしれません)。

一方で書店へ行くと、当時はまだカッパ・ブックス、ワニ・ブックス、ノン・ブックス、プレイブックスなどの「ブックス」ものが大きく棚を占めていました。「冠婚葬祭入門」「算命占星学入門」「ノストラダムスの大予言」なんかのシリーズがズラッと並んでおり、「こんな本がそんなに読まれているのかなあ」と不思議に思いながら眺めていたわけですが、それらも実はかつての大ベストセラーだったわけです。

本書「ベストセラー全史」を読むと、これら戦後の歴史に残るベストセラーについて、出版に至る経緯やどういった販売戦略を取ったのか、どのような読者に受けたのか、と言ったことが紹介されており、残像のみだった子どもの頃の記憶が鮮明に蘇ってくる気分になりました。

さらに、著者が狙っていたのかどうかわかりませんが、実は物語としても面白い仕上がりです。
カッパ・ブックスを率いた神吉晴夫の遺伝子が、光文社の労働争議により拡散。これによって各社でブックスブームが巻き起こり、それが近年の新書ブームの遠因となる……という壮大なストーリーが流れています。

一方で気になった点としては、ごく一部を例外として「文庫」を対象外としているため、角川春樹がほとんど登場しません。索引を見ると、名前が出てくるのは1回だけ。「サラダ記念日」の企画が河出書房新社より先に角川書店内で上がったものの、角川春樹が却下した、というエピソードのみです。
角川文庫のメディアミックスは、出版社の営業戦略を根底から変え、現在に至るもこれを超えるものは現れていない、というくらい歴史的なものだったと思いますが、そのあたりには全く触れていません。
まあ、文庫の話を抜きでもこれだけ大部の本になっているので、そこまで話を広げると収拾がつかなくなると言うことだったのかもしれませんが、著者が角川春樹のことをどのように評価しているのかは気になるところです。

それはともかく、戦後の出版史に興味のある方であれば、いろいろ興味深い読み物です。
今月、【近代篇】も刊行されていますので、引き続きそちらも読んでみようと思います。





立風書房『現代怪奇小説集』中島河太郎・紀田順一郎/編(1974年)目次

201907現代怪奇小説集

今月、創元推理文庫から東雅夫編「平成怪奇小説傑作集」が発売されました。



それにしても、改元されて一番嬉しいのはこの手の「時代を振り返る」企画ですね。
そこでふと、この手の怪奇小説アンソロジーの大御所である、中島河太郎・紀田順一郎の編纂による「現代怪奇小説集」を思い出したので、このブログの例によって目次をご紹介しておきます。

これは立風書房から出ていたアンソロジーで、筆者は1974年に刊行された3巻本を持っていますが、ネットで古書店など検索すると、2巻本、1巻本などいろいろなバージョンがあるようです。筆者の持っているものが初刊バージョンと思われるのですが、よくわかりません。立風書房は同じ内容の本を何度も装丁を変えて出し直すことがよくあり、これもその一つだったわけです。

というわけで、刊行形態はやや胡散臭い部分もあるのですが、収録作は非常にハイレベルです。ミステリ・SF・純文学と、いろいろな分野へ目配せしながら、戦前戦後を問わず、文句無しの恐怖小説を集めています。後年になって再評価されたとばかり思っていた作家・作品がすでにこのアンソロジーに収録されていたりして、その選球眼こそ恐ろしい、というべき内容です。

『現代怪奇小説集 1』

・人でなしの恋 江戸川乱歩
・蒲団 橘外男
・柘榴病 瀬下耽
・火焔つつじ 平山蘆江
・ウールの単衣を着た男 杉村顕道
・逆立ち幽霊 伊波南哲
・怪談 倉光俊夫
・奇妙な隊商 日影丈吉
・鬼火 吉屋信子
・博士の目 山川方夫
・風見鶏 都筑道夫
・薔薇の夜を旅するとき 中井英夫
・写真の女 小松左京
・白蟻 小栗虫太郎

『現代怪奇小説集 2』

・蔵の中 横溝正史
・十四人目の乗客 大下宇陀児
・角姫 三橋一夫
・怪談宋公館 火野葦平
・猫町 萩原朔太郎
・セメント樽の中の手紙 葉山嘉樹
・地獄へ行く門 伊藤松雄
・死霊 長田幹彦
・骨餓身峠死人葛 野坂昭如
・生きていた死者 遠藤周作
・箪笥 半村良
・怪異馬霊教 香山滋

『現代怪奇小説集 3』

・難船小僧 夢野久作
・予言 久生十蘭
・ココア山の話 稲垣足穂
・手術 小酒井不木
・ママゴト 城昌幸
・怪談 畑耕一
・アリア人の孤独 松永延造
・蝋人 山田風太郎
・兵隊と幽霊 柴田練三郎
・おーい でてこーい 星新一
・長い暗い冬 曾野綾子
・真夜中の檻 平井呈一

バージョンを問わなければ古本屋でいくらでも買えるようですが、ネット通販の場合はよく確認しないと「全1巻」バージョンを注文したつもりが「全3巻のうち第1巻」が届いたりすることがあるかと思いますので、ご注意を。

笠原和夫脚本「博奕打ち いのち札」ついにDVD発売!

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東映ビデオからは未だDVDが発売されていない笠原和夫脚本・山下耕作監督の任侠映画「博奕打ち いのち札」。
デアゴスティーニから隔週で刊行が続いていた「東映任侠映画傑作DVDコレクション」の一本として、ついにDVD化されました!

この手のDVD付録つき雑誌、定価でDVDを買っているような熱心なファンは軽視しがちですが、ときどきこういう未DVD化作品が紛れているので油断できません。
同じくデアゴスティーニから出ていた「東宝・新東宝戦争映画DVDコレクション」は、「東宝・新東宝」というあまりに雑なくくりに呆れ、「東宝の戦争映画はどうせ全部DVDになってるし」と、まるでノーチェックだったのですが、その中に結城昌治原作・深作欣二監督・新藤兼人脚本の「軍旗はためく下に」が収録されてビックリしました。そもそも独立プロが製作しているので、東宝映画という認識がなかったのですが、配給は東宝だったんですね。
しかも、それに気づいたのは発売から数ヶ月後だったため、すでに出版社の在庫はなく、Amazonでは転売屋大活躍のプレミア価格になっているという……(ちなみに筆者は、10年以上前にアメリカでDVDが発売された際、輸入ショップで買っていたので、どうしても買わなければ、ということはなかったんですが)



ともかく、そういうがっかりな経験があるため、今回は「絶対に買い逃がさない」と心に決め、本屋でちゃんと予約しましたよ。
しかも、うっかり予約を忘れられては困るので、朝イチで「今日が発売日だから忘れないで取り置きしてくださいね」と念押しまでして、夕方に買ってきました。

「東映任侠映画傑作DVDコレクション」の刊行が始まって4年半。最初に発表されたラインナップの中で「これだけは絶対に買わねば!」と思い続け、ようやくです。他のラインナップでめぼしいものはすでに東映からDVDが出ているためコクション済み。笠原和夫ファンとしてDVD化を熱望していたので、感慨深いものがあります。

というわけで、出張やらなにやらでしばらく見る時間がないんですが、ともかくこれで「買わねば、買わねば」という強迫観念から解放されてぐっすり眠れます。ありがとうデアゴスティーニ。
この記事を読んでいる笠原和夫ファンのみなさんも、早めに購入されることをおすすめします!




関連記事:(=DVD化を待ち望んでいた記録)
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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