備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

2019年06月

「ミステリー文学資料館」訪問

DSC_0102

出張で東京へ行ったついでに要町にある「ミステリー文学資料館」を覗いてきました。
訪問したのは今回が初めてです。
東京へは頻繁に出張しているのですが、いつも分刻みに近いスケジュールで動いているため遊んでいるヒマなど全くありません。ところが今回、予定が一つキャンセルになり、池袋近辺で1時間半ほど時間が空くという僥倖に恵まれたため、ちょうど開催中の「綾辻行人の世界展」を覗いてみたいと思っていたこともあり、行ってみたわけです。

筆者は15年ほど前に池袋近辺で勤務していたことがあり、実はその頃、このミステリー文学資料館の前を毎日のように自転車で通り過ぎていました。ちょうど開館したばかりの時期です。
しかし、東京に暮らしていたときに強く実感したのですが、「いつでも行ける」と思っている場所って絶対に行かないんですよね。
上京前には、東京へ行く機会があると必ず覗いていた神保町の古書店街も、東京に暮らしていたあいだには数える程度の回数しか行きませんでした。
ミステリー文学資料館も、通勤で前を通りかかる時間帯は常に開館時間外ということもあり、休日にわざわざ池袋方面へ出かけるのも億劫だなあ、という感じで一度も訪れることなく過ごしてしまっていました。そして東京を離れてからは、池袋から1駅離れているという微妙な立地のためますます機会を失っていたわけです。

今回は綾辻行人展が動機となり、初めて300円払って中へ入ってみました。
……これはやはり、東京に住んでいた頃に休日にわざわざ出かけるべき場所でしたね。

肝心の「綾辻行人の世界展」自体は、資料館の一角を衝立で囲ってこじんまりと行われており、興味深い展示物といえば乱歩賞に応募したという「追悼の島」(「十角館の殺人」の原型作品)や、小野不由美による「霧越邸殺人事件」図面などの生原稿くらいですね。綾辻さんの若い頃の写真がたくさんが飾ってありましたが、なるほど半年くらい前にTwitterで盛んに昔の写真を投稿されていたのはこのためだったのか、と今更気づいたり。
この辺、おみやげ用に図録でもあれば買いたかったところですが、そういったものはありませんでした。資料館が定期刊行している「ミステリー文学資料館ニュース」にはインタビューが掲載されていますが、これも雑誌「ジャーロ」に掲載されたロングインタビューのダイジェスト版ということです(電子雑誌は買わないので、これはこれで楽しい内容でしたが)。

さて、それよりもやはり収蔵図書は目を瞠る内容でした。
横溝正史「呪ひの塔」、甲賀三郎「姿なき怪盗」、浜尾四郎「鉄鎖殺人事件」に、乱歩名義の「蠢く触手」を収録し、戦前の探偵小説叢書としては知名度の高い「新作探偵小説全集」がなかなかの美本で手に取れる状態で置いてあり、これはちょっと感動しました。古本屋でたまに端本を見かけますし、検索してみると今もヤフオクで「60万円」などという価格で揃いが出品されたりしているので、モノ自体はそれほど極端に珍しいわけでも無いようですが、手にとって閲覧できるのは日本中でここだけでしょう。実は学生の頃、「蠢く触手」を読んでみたくて(やはり東京旅行の際に時間を作って)国会図書館へ行ったことがあるのですが、収蔵されている本は途中のページが脱落しているものでした。その後、春陽文庫から復刊されたのでまともに読めるようになりはしましたが、国会図書館ですら読めなかったものが普通に並んでいるというのはなかなかすごいことですね。

雑誌も膨大に並んでいますが、1時間しか滞在時間がなかったということもあり、特にチェックすべき号のリストを作っていたわけでもないため、何も見ないで出てきましたが、次に機会があればしっかり準備をしていったほうがよいでしょう。

当然、閲覧できるだろうと思っていたのに見当たらなかったのは「推理作家協会会報」ですね。
以前に柏書房が探偵作家クラブ会報を復刻していたことがあり、当時中学生だった筆者は本屋で「へえー」と思いながら立ち読みしていましたが、さすがに価格が価格なので買いませんでした。(今も当時とあまり変わらない価格でAmazonなどに出品はされていますが、今は価格より置き場所の問題が……)
ミステリー文学資料館なら復刻されていない時期のものも含めて見られるかな、と思っていましたが見かけませんでした。探し方が悪い、あるいは閉架になっている可能性もありますが。
探偵作家クラブ会報、推理作家協会会報は、単行本未収録のエッセイや評論などもちょこちょこあるという噂で、これまたチェックすべき号を押さえてから閲覧しないとなかなか厳しいものがあるとは思いますが、一度手にとって読んでみたいものです。



というわけで、今回は約1時間の滞在で、棚を眺めただけで堪能できるレベルには程遠かったのですが、まあいずれまた何か機会があれば、しっかりと準備した上で覗きに行きたいものだと思いました。

平成の復刊ミステリ・その1 小説新潮臨時増刊「昭和名作推理小説」

昭和名作推理小説015

令和の御代になっても未だにミステリの好みは昭和で止まっているわけですが、平成という時代を振り返ってみると、「昭和ミステリの復刊」ということが盛んに行われていた時代だったようにも思います。
今回から何回か、「平成ミステリを振り返る」どころか、「平成に復刊された昭和ミステリを振り返る」という、非常に後ろ向きな話題を続けてみたいと思います。

まずその前に、そもそも「復刊ミステリ」とは?
現在へ至るミステリブーム(笠井潔いうところの第三の波)の始まりは、雑誌「幻影城」の創刊にあるというのが定説ですが、その前から桃源社「大ロマンの復活」、角川文庫や講談社文庫による、戦前から戦後にかけての探偵作家の全集的な作品刊行と、過去の作品を復刊する動きは連綿と続いており、雑誌「幻影城」も創刊当初は新作などはほとんど載っておらず、戦前探偵小説の復刻ばかりでした。
要するに、ミステリの歴史は新作刊行と並行して、過去の名作復刊の歴史でもあると言えます。
これは、昔からコアなミステリ読者は強固なコミュニティを形成し、その中で「過去の名作を読む」ということがステイタスとなっているためでしょう。

というわけで、平成に入ってからミステリの復刊に何か際立って特徴的なことがあるかといえば何も無いようにも思われますが、筆者自身が本格的にミステリを読み始めた時期が平成元年から、ということもあり、個人的な備忘録も兼ねて平成の復刊史を振り返ってみようと思います。

第一回は平成元年に刊行された小説新潮臨時増刊「昭和名作推理小説」。
実は、この特集については、以前にも当ブログで紹介したことがあります。こちら
雑誌の特集なので、厳密には「復刊」に当たらないかもしれませんが、筆者にとっては非常に印象深く、思い入れの強い一冊なので改めて紹介しておきたいと思います。

収録作品は以下の通り。

渡辺温
夜の街 城昌幸
死後の恋 夢野久作
押絵と旅する男 江戸川乱歩
殺された天一坊 浜尾四郎
絶景万国博覧会 小栗虫太郎
悪魔の指 渡辺啓助
かいやぐら物語 横溝正史
五人の子供 角田喜久雄
骨仏 久生十蘭
天狗 大坪砂男
原子病患者 高木彬光
張込み 松本清張
落ちる 多岐川恭
作並 島田一男
白い密室 鮎川哲也
吉備津の釜 日影丈吉
案山子 水上勉
十五年は長すぎる 笹沢佐保
葬式紳士 結城昌治
死火山の灰 黒岩重吾
敵討ち 山田風太郎
犯罪講師 天藤真
ナポレオンの遺髪 三好徹
雪どけ 戸川昌子
やさしい密告者 生島治郎
神獣の爪 陳舜臣
山のふところに 仁木悦子
科学的管理法殺人事件 森村誠一
盲目物語 土屋隆夫
人形の家 都筑道夫
特急夕月 夏樹静子
雲雀はなぜ殺された 日下圭介
復讐は彼女に 小泉喜美子
紳士の園 泡坂妻夫
菊の塵 連城三紀彦
無邪気な女 阿刀田高
遠い国から来た男 逢坂剛
糸ノコとジグザグ 島田荘司

ほんと、何度見ても惚れ惚れするラインナップです。
特に多岐川恭「落ちる」、結城昌治「葬式紳士」それに泡坂妻夫「紳士の園」。
特にこの3作の衝撃は非常に強く、ミステリにほとんど免疫がなかった中学2年生の筆者は頭をくらくらさせていたものです。

特集に対して反響があったのかどうか知りませんが、この2年後、同じ趣旨のアンソロジーが新潮文庫から刊行されました。
それもこちらの記事で書いていますが、「昭和ミステリー大全集」上・中・下の全三冊です。

当時、ミステリの入門者的立場にいた筆者がいうことなので間違いありませんが、この「小説名作推理小説」「昭和ミステリー大全集」の企画は、昭和ミステリの入門に実際、これ以上ない最高のラインナップでしたね。このあと、結城昌治、都筑道夫、土屋隆夫、天藤真、泡坂妻夫、阿刀田高といった人たちの作品を熱心に古本屋で探して読み漁りましたが、すべての原点はここにありました。

というわけで、平成が終わって1ヶ月が経ちましたが、今回も平成のベスト的な短編集が編まれるとしたらどんな作家になるんでしょう?




profile

筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

スポンサーリンク
ギャラリー
  • 春日太一『黙示録――映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』(文藝春秋)
  • 岩波文庫的って?佐藤正午「月の満ち欠け」
  • 岩波文庫的って?佐藤正午「月の満ち欠け」
  • 岩波文庫的って?佐藤正午「月の満ち欠け」
  • 岩波文庫的って?佐藤正午「月の満ち欠け」
  • Video & TV SideViewはVPNでレコーダへ接続できない
プロフィール

squibbon

タグクラウド