備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

2019年04月

平成映画の思い出

201903映画秘宝311

先月の映画秘宝で「平成の傑作映画100」という特集を組んでいました。
筆者もこれに倣って平成映画のベストをあげてみようと思ったのですが、あれこれ考えているうちに一ヶ月が経ってしまい、結論としては「俺には無理!」

というのは、昭和天皇が亡くなり平成が始まったとき、筆者は中学1年でした。つまり、これまでの人生で見た映画のほとんどは平成になってから見た映画ということになり、筆者にとっての平成映画ベストとは、単にリアルタイムで見た全ての映画のベスト、ということになってしまうからです。
そんなわけで、今回はベスト、ということにこだわらず、思い出に残っている映画についてつらつらと。

親と一緒ではなく、友人と一緒に映画館へ行ったのは「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」が初めてでした。平成元年なので、中学2年の冬のことです。
小学生の頃に1作目は見て大興奮していたため、その続編を大画面で見られるというのは、とても楽しい体験でした。今でもときどき見直す、大好きなシリーズです。

一人だけで映画館へ行ったのはその翌年。「ミザリー」でした。
今にして思えば、一人で「ミザリー」を観にいく中学生ってちょっとどうなんだろうと思わないでもないのですが、「スタンド・バイ・ミー」の監督が再びキング原作映画を!ということで、当時はかなりの話題作だったのです。(ちなみに未だに「スタンド・バイ・ミー」は観たことないのですが)

高校に入ってから見て最も印象に残ったのは、ティム・バートンの「シザーハンズ」。
しかしこれは、たまたま、といった感じで見たものでした。
当時は「同時上映」というものがあり、そこそこの話題の新作でも2本立てで公開されるのが普通でした(少なくとも筆者の育った名古屋では)。
「シザーハンズ」は2本立ての添え物の方で、メインはあの超話題作「ホームアローン」でした。
まさかあの可愛い少年が、長じて「マコーレ・マコーレ・カルキン・カルキン」と改名するような奇人になるとも思わず、日本中が熱狂していたものでした。
学校でも大いに話題となり、ミーハーな筆者も映画館へ足を運んだわけですが、同時上映でどんな映画をやっているのかは全然知らず、開始に少し遅れて劇場へ入りました。
タイトルすら知らないその映画は、手がハサミになった奇怪な青年のおそろしく悲しい物語で、こんなに感動したことはないというくらい感動しましたね。引き続き鑑賞した「ホームアローン」のことはもう全くどうでもよくなってしまいました。
ところが、これほど感動したにもかかわらず、この映画のタイトルを筆者は大学に入るまで知りませんでした。映画雑誌を何の気なしに眺めていたときに、忘れもしないハサミ男のスチールを見つけ、ようやくそれが「シザーハンズ」というタイトルの映画だと知ったわけです。

高校1年のときは他に大林宣彦監督の新尾道三部作1作目「ふたり」も印象深い映画でした。
このときも大林宣彦監督のことはよく知らず、石田ひかりなんか名前すら聞いたことがないという状態で、赤川次郎原作だから、となんとなく映画館へ行ったのですが、石田ひかりのあまりの可愛さに打ちのめされました。しばらくの間はパンフレットを日がな一日眺めて暮らし、石田ひかりの出演するドラマはことごとくチェックし、「ふたり」がビデオになると何度も何度もレンタルして繰り返し見るという生活を続けることになりました。
映画を見終わってロビーへ出たところで、中学時代の先生に出くわし、先生の方こちらに気づいて「よお!」と声をかけてくださったのですが、こっちは石田ひかりの魅力でボーッとしていたため、ほとんどまともに挨拶もしなかった記憶があります。
「ふたり」については就職してからDVDが発売されましたが、これも予約して購入し、今でも年に1回は見ています。それくらい好きな映画です。

というわけで、中学高校の頃は話題作をたまに観にいく、という程度で映画マニアとは程遠い状態でした。この傾向は大学へ入ってからも続き、映画館へ足を運ぶのは年に数回程度でした。学生時代はタランティーノが大流行で、筆者も「パルプ・フィクション」「フロム・ダスク・ティル・ドーン」「フォー・ルームス」あたりをビデオで何度も見直していました。

本格的に映画に開眼したのは、社会人になってから。DVDというものがこの世に現れ「映画を所有できる」時代になってからです。
もともと収集欲は非常に強く、「モノより思い出」ならぬ、完全に「思い出よりモノ」というタイプ。映画も劇場で見る体験より、手元に存在するDVDのほうが重要と考えてしまう人間なので、2000年頃から熱狂的にDVDを買いあさりました。
最初のDVDプレイヤーはご多分に漏れずPS2でした。DVDが売り出され始めたばかりの頃はプレイヤーが非常に高く、PS2がいくらだったか忘れましたが「え、そんな値段でDVDプレイヤーが手に入るの!?」と大喜びして予約購入したものです。
毎日放送制作・古谷一行主演の「横溝正史シリーズ」がさっそくDVD化され、全巻予約して買いました。のちのち、廉価版がどんどん出るとも知らずに、1枚5000円くらいで。
新作映画ではこれまたご多分に漏れず「マトリックス」のDVDには感動しました。高画質な(とその時点では思った)本編はもちろん、メイキング映像などの特典もてんこ盛りで、すばらしい映画体験に心を踊らせたものです。
しかし、PS2にはコマ送りの機能がありませんでした。
なんてこったい。せっかく買った「エイリアン」や「ターミネーター2」のDVDをコマ送りで見られないじゃないか。
職場の人たちに「コマ送りがなくて不便」と不満を漏らすと、「映画をコマ送りで見る必要があるの??」と誰からも共感を得られなかったのですが、大学時代の友人たちに同じ話をすると「それは不便やな」と誰もが共感してくれ、ホッとしました。

この頃から「映画秘宝」も買い始めました。
「映画秘宝」ははじめ、A5版のムックで刊行されていたのですが、その頃は、年末のベストテンだけ買って、本誌は買っていませんでした。
大判になってから毎号買うようになったのですが、映画を本格的に見始めたばかりということもあり、正直なところ筆者の見ている映画はほぼ「映画秘宝」に指南にされてのものです。
DVDと「映画秘宝」とが歩調を合わせるように隆盛を迎え、2000年代は筆者にとっては幸せな時期でした。だから、筆者は自分のことを映画マニアとは全く思っておらず、人から「映画好きなんですか?」と聞かれると「映画秘宝とDVDが好きなだけ」と答えるようにしています。

この時期に好きだった映画を並べ始めるとキリがありませんが、1本だけあげるとスピルバーグの「宇宙戦争」ですね。
今どき火星人襲来って、バカ映画決定!というつもりで見に行ったにもかかわらず、とんでもなく恐ろしいモンスター映画に仕上がっていて、驚きました。
9.11の記憶も新しい頃で、パニック映画として、怪獣映画として、ホラー映画としてあらゆる切り口から堪能できる映画でした。スピルバーグ監督作は好きな映画が多いのですが(というか、ほとんど全部好きですが)、最高傑作はやはり「宇宙戦争」だろうと、公開から14年が経った今でも思っています。
要するに平成という時代の後半は「宇宙戦争ってすごい映画だったよな」という余韻に浸っているうちに過ぎていったということになります。

結城昌治が好きな方におすすめ・新章文子「名も知らぬ夫」(光文社文庫)

201904新章文子315

光文社文庫では「昭和ミステリールネッサンス」と銘打ち、山前譲氏の編纂で昭和ミステリの短編集を刊行していますが、平成最後となる今月の新刊は新章文子「名も知らぬ夫」。

新章文子。
仁木悦子、多岐川恭に続いて「危険な関係」で乱歩賞を受賞した人ですが、筆者の知識はそれだけ。
中学生の頃、乱歩賞受賞作を全部読む、ということをやっていたため、「危険な関係」も読んではいますが、内容は全然覚えておらず。ほかにどんな作品を書いているのかなあ、という関心すら持っておらず、さらに言えば古本屋で他の著書を見かけたことすらありませんでした。
という、乱歩賞作家の中にあっては極めつけにノーチェックだった作家さんなので、今回の新刊を見たときは「そうか、そういえばこの人も昭和ミステリってことになるんだ」と、ちょっと新鮮な驚きを感じました。

さて、曲がりなりにも国内ミステリ好きを標榜している筆者にしてもこの有様なので、世間一般での知名度は非常に低いと思われ、一冊のまとめるというのはなかなかの冒険です。いま買っておかなければ、もう二度と「新章文子の新刊」なんてものにお目にかかれるとは思えないし、逆に今回売れたら、今後も続くかもしれない。いずれにしても買うしかありません。

という感じで買ってきたわけですが、これは非常にすばらしい内容でした。
これぞ、という傑作を揃えてきているのでしょうけれど、どれもこれも非常にレベルが高い。
さまざまな作風のものが集められていますが、根底にあるのは人間に対する皮肉な視線。
人工的でユーモラスな作品もあれば、幻想的な風味の作品もある。
「悪い峠」「奥様は今日も」など、ユーモアタッチの作品はシニカルでブラックな笑いです。
かと思えば、冒頭の「併殺」はとてもよくできた倒叙ミステリ。「少女と血」は幻想的なタッチ。
どれも堪能しました。

全体的に、ほぼ同時期にデビューした結城昌治と同じような味わいだと感じました。
結城昌治ファンならば、間違いなく楽しめることでしょう。
ほかにも傑作があるのかどうかわかりませんが、読めるものならいろいろ読んでみたい。そう思わされました。 


満島ひかり主演「シリーズ・江戸川乱歩短編集」(NHK)

わが家では妻が「受信料がもったいない」「今でも見きれないくらい録画をためてるくせに、これ以上増やしてどないすんねん」と強硬に主張するため、BSを見られない生活を続けております。
金田一シリーズなど、どうして見なければならない番組は実家に依頼して録画してもらっているのですが、この「シリーズ・江戸川乱歩短編集」はチェックしておりませんでした。
スタートはもう3年以上も前なのですが、評判が良いことは知っていたため、やっぱり録画を頼むべきだったなあ、とずっと後悔していたところ、ようやく地上波で再放送されたため、見てみました。
今のところ再放送されているのは1作目「D坂の殺人事件」、2作目「心理試験」のみですが、これはびっくりしました。とんでもなくすばらしい映像化ですね。
いずれも、実験的な映像で、これだけ冒険をしているにもかかわらず、乱歩の世界をしっかりと描いています。

そもそも、乱歩の映像化は難しいのです。
以前に、乱歩作品を映像化したものをまとめた記事を書いたことがありますが(江戸川乱歩原作映画のDVD)、それでは、この中のいったいどれだけが「乱歩」を描くことに成功しているか?
正直なところ、皆無です。
ある程度の出来ばえであれば、それらしく仕上がってしまう金田一耕助映画に比べて、乱歩映画は極めてストライクゾーンが狭い。
筆者がこれまでに見た映像化作品の中で「これはよくできた映像化だ」と思ったのは、実は1つしかありません。奥山和由プロデュースでいろいろ揉めていた「RAMPO」という映画がありますが(未だにDVD化されず)、本編ではなく、この映画の劇中に挿入されていたのアニメーション「お勢登場」。これは非常によくできていました。
これ以外の乱歩映像化は全部、落第点!
どうも作り手の乱歩に対する思い入れが溢れすぎている作品が多く、何を見ても「これは俺の好きな乱歩じゃないな」と思ってしまうのです。

ところが、今回のNHKのドラマは違いました。
「D坂の殺人事件」「心理試験」とも、まさに「完全映像化」。「完全」というのは、ナレーションとセリフを織り交ぜながら、乱歩の小説をほぼ忠実に「朗読」しているのです。
この脚色法にまず驚きましたが、映像も斬新です。
「D坂」では、事件が起こった長屋をミニチュアで再現して状況を解説。これはむちゃくちゃわかりやすい。正直、原作を読んだときよりも面白く感じました。
「心理試験」は、乱歩の全作品を通して最高峰にあると言っても良い本格探偵小説の傑作ですが、これも原作を極めて忠実になぞりながらも、その中に菅田将暉、嶋田久作、そして満島ひかりのぶっ飛んだ演技を違和感なくはめ込んできていて、目が離せない作りです。

これは本当に堪能しました。永久保存版でディスクに落としておかなくっちゃ、ですね。
乱歩の映像化も、横溝の映像化も、巨匠の名声を単に消費するものと、乱歩映画、横溝映画の歴史に名を刻むものとがあります。
前者は、昨年末のフジテレビ「犬神家の一族」や、つい先日のテレビ朝日「スペシャルドラマ 名探偵・明智小五郎」。
そして後者が、NHKが製作した「獄門島」や、今回の「シリーズ・江戸川乱歩短編集」。
傑作ドラマを作っているのは、NHKばっかりやんか!

というわけで、改めてBS加入を妻に交渉したいところですが、これまで頑として受け入れてもらえずにいるため、はなから諦めております。
profile

筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

スポンサーリンク
ギャラリー
  • 岩波文庫的って?佐藤正午「月の満ち欠け」
  • 岩波文庫的って?佐藤正午「月の満ち欠け」
  • 岩波文庫的って?佐藤正午「月の満ち欠け」
  • 岩波文庫的って?佐藤正午「月の満ち欠け」
  • Video & TV SideViewはVPNでレコーダへ接続できない
  • ちくま文庫から都筑道夫「紙の罠」が復刊
プロフィール

squibbon

タグクラウド