備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

2018年12月

天皇陛下の「お言葉」とは

201812天皇陛下の本心305

天皇は憲法で「国政に関する権能を有しない」とされているため、政治的な発言をされるのはタブーとなっています。
このため政策に対する感想・意見を直接的に発言することはありませんが、しかし「おことば」や行動によって、望ましい社会のあり方を表明することはしばしばあります。

実際に、その「おことば」をどのように読み解けばよいのか。
それに関連した本を2冊ほどご紹介します。



現在の天皇陛下のおことばを読み解く本です。
昭和天皇の評伝があれこれと書かれるようになったのは平成に入ってからで、存命中にはそのようなものはほとんどありませんでした。
いまの天皇陛下についても、グラビア中心の本はいろいろ出版されていますが、人間としての内面に迫る本はなかなかありません。
そのなかで本書で、公開されている「おことば」を手がかりに、その時々での陛下の「本心」を分析しようと試みています。
なにか大きな発見がある本ではありませんが、「おことぼ」の読み方を知ることできる一冊です。



こちらは昭和天皇についての本。
敗戦を境に「君主」から「象徴」へと立場を変えた昭和天皇。
戦後は政治には関わることが出来ないことになりましたが、一方で首相からの内奏などの機会に「御質問」という形で自身の考えを伝えていたと言われています。
薄い本なので、それほど重大な分析が行われているわけではないのですが、天皇と政治との関係を一端を垣間見られる興味深い内容です。
内奏や進講は現在でも行われていますが、閣僚らがその内容を明かすことはほぼありません。このため、何が行われているのかヴェールに包まれている状態ですが、将来的には平成の時代における「陛下の御質問」についてもじょじょに明らかになることが出てくると思われ、政策判断に陛下がどのように影響を与えたのか、議論が深まることでしょう。なかなか面白いテーマです。

平成ミステリ私的ベスト

201812このミス304

今年の「このミス」は創刊30周年、加えて平成最後、ということで歴代1位の中から「キング・オブ・キングス」を決める、という企画を載せています。
1位になったのは当然のようにあの作品でしたが、しかし、あらゆるランキングで常にトップを取る恐るべき高評価なのに、筆者の実生活では、周りにこの本を知っている人がぜんぜんいないのはなぜ?

それはともかく、便乗して筆者の平成ミステリベストを振り返ってみようと思います。
対象は、「このミス」の対象になりそうな本。ランクインしているとは限りません。
一応、一作家一作品に限りたいと思います。
発表年順にご紹介しましょう。

奇想、天を動かす(平成元年)


島田荘司の傑作は、初期に集中しており、「占星術殺人事件」「斜め屋敷の犯罪」「異邦の騎士」「北の夕鶴2/3の殺人」「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」と、全て昭和の作品です。
平成に入ってからも数多くの作品を発表していますが、昭和の作品に比べると切れ味が今一つという印象がなくもない。
その中で、「奇想、天を動かす」は「本格ミステリー宣言」とほぼ同時に発表され、島田荘司の考える「本格」が炸裂した奇跡的な作品だと思っています。
本書を皮切りに、その後毎年秋になると「暗闇坂の人喰いの木」「水晶のピラミッド」「眩暈」「アトポス」と、超大作を発表するのが恒例になりました。

砂のクロニクル(平成3年)


船戸与一も同じく、「山猫の夏」「猛き箱舟」など切れ味鋭い傑作は昭和時代に集中していますが、平成に入ってからは「砂のクロニクル」「蝦夷地別件」など、設定に深みのある、初期とは違った魅力を持つ大作を続けて発表しました。
中でも、筆者は本書が最高傑作だと思います。中東情勢を材にとりながら、船戸与一らしいアクションも堪能できます

生者と死者(平成6年)


数年前に、急にベストセラーになったりしていましたが、この本が出たときは興奮しましたね。直木賞をとっても、やっぱり泡坂妻夫は俺たちの泡坂妻夫だった!と感激しました。当時は雑誌「幻影城」の記憶が残っている時期だったので「幻影城ノベルスも小口アンカットだったよね」という会話も交わされたものです。
初版で2冊買いましたよ。

七回死んだ男(平成7年)

デビュー作の「解体諸因」や続く「完全無欠の名探偵」はピンと来なかったため、当時の新人の中ではパッとしない印象があったのですが、大間違い。本書「七回死んだ男」からのSF的な設定のミステリには毎回、大興奮でした。

天使の牙(平成7年)

大沢在昌は昭和デビューですが、「平成の作家」という印象ですね。「新宿鮫」シリーズも大好きですが、あえてこちらを。これほど興奮しながらこれほどのスピードで本を読む体験はめったにできません。しかも厚みもたっぷりの本で、堪能できました。ハリウッドで映画化してほしいくらいです。

オルファクトグラム(平成12年)

岡嶋二人は昭和で、井上夢人は平成。活動期間がきっぱり分かれていますが、筆者は岡嶋二人の作品も非常に新しい、新時代のミステリという印象を持ちながら読んでいました。
井上夢人のソロになってからますます先鋭的な作風になっていきますが、筆者が一番好きなのはこれ。「嗅覚を視覚化する」という超絶技巧によってあり得ない世界が目の前に現れます。やっていることがすごすぎるのに、すらすらと面白く読めてしまうミステリに仕立てる手腕は誰にも真似できません。

ウロボロスの純正音律(平成18年)

平成前期のミステリ界の貴重な記録でもある「ウロボロス」シリーズ。中でも筆者は「純正音律」を偏愛しています。これだけやりたい放題に見える設定ながら、「黒死館殺人事件」を意識した骨格を維持して、なおかつこの設定だからこそのミステリに仕上がっています。イロモノ扱いされていなければ、歴史的な名作と評価されてもおかしくないと思いますよ。

悪の教典(平成22年)

貴志祐介も凄腕のエンタメ作家です。どれもこれも傑作揃いですが、一番ハマったのはこれ。読み始めたら本当にやめられません。

マリアビートル(平成22年)

平成を代表するベストセラー作家ですが、筆者が一番好きなのはこれ。都筑道夫「なめくじに聞いてみろ」を連想するような殺し屋たちの狂騒曲。

スノーホワイト(平成25年)


「新本格以後」の本格ミステリ作家の中で、一番のテクニシャンは森川智喜ではないかと思っています。「デスノート」のような徹底した思考ゲームを展開しながら、ハチャメチャなコメディタッチですらすら読めてしまう。本書の他には「半導体探偵マキナの未定義な冒険」が印象に残っています。もっとたくさん読みたいものですが、寡作ですね。

関連記事:
平成ミステリ史私観(元年)

コーエン兄弟を見たことがない方へ、おすすめ4本

201812ビッグリボウスキ302

コーエン兄弟はジョエル・コーエン、イーサン・コーエンという二人兄弟の映画監督・脚本家で、共同で映画を製作しています。
一般的な知名度はそれほど高くはない印象がありますが、映画好きのあいでは非常に人気があり、筆者も以前は、コーエン兄弟の新作が公開されるとなれば「とりあえず見ておかなければ」という感じで、必ず見ていたものです(ここ数年、そもそも映画をあまり見ていないので、コーエン兄弟の作品も追いかけきれていないのですが……)。

基本的にはサスペンスというかスリラーと言うか、ミステリ寄りの筋書きが多いのですが、独特のユーモア感覚が溢れており、どっちかと言うとそこに人気があります。
クエンティン・タランティーノとは雰囲気はまるで違いますが、まあでも映画史の中で大雑把にくくると同時代の同じカテゴリーに入れられんじゃないかな、と思っています。

ここ数年はあまり大きな話題作は公開していませんが、「この人たち何者?」と興味を持たれた方のために、おすすめをいくつかご紹介します。



コーエン兄弟の入門に最適なのは、最高傑作とも評価されているこちら「ファーゴ」でしょう。
アメリカ・ノースダコタ州(ド田舎)の都市・ファーゴが舞台のクライムサスペンスです。
気の弱いが全く善人とは言えないカーディーラーである主人公は、借金の清算のため、チンピラを雇ってに妻を誘拐させ、大金持ちである妻の父親から身代金をせしめようとします。
ところがこのチンピラどもがとんでもないDQNぶりを発揮し、事件は主人公のまるで手に負えない方向へ飛んでいってしまいます。
まあともかく、この短絡的すぎて、逆に全く予想できない悪党2人の暴走ぶり、あまりに情けない主人公のダメっぷり、この辺が見ものです。
事件を追う、妊娠中の女性警官をフランシス・マクドーマンドが演じてアカデミー主演女優賞を獲りました。



「ファーゴ」と並んで評価の高い一作がこちら。やはりクライムサスペンスです。
これはコーエン兄弟にしては珍しく、ユーモア要素控えめ。その分、どこまででも追いかけてくる殺し屋の恐ろしさがこれでもかと描かれています。
一部の映画好きだけでなく、一般客のあいだでも話題になり、アカデミー賞の作品・監督・助演男優・脚色の各賞を受賞しました。



2011年の比較的最近の映画です。
コーエン兄弟初の西部劇でしたが、個人的にはこれはむちゃくちゃ良かった。
14歳の少女が賞金稼ぎを雇い、父のかたきを討つため悪党を追う、という物語ですが、この女の子を演じたヘイリー・スタインフェルドがかわいいこと!
堂々とした小憎らしいトークで2人の賞金稼ぎを翻弄するさまは、まさにコーエン兄弟節炸裂といったところですが、実は原作小説に極めて忠実に作られています。もともとコーエン兄弟向けの素材だったようです。



さて、コーエン兄弟の最高傑作といえばこちら、「ビッグ・リボウスキ」でしょう。
「ファーゴ」がコメディ色もあるクライムサスペンスだったのに対し、こっちは筋書きは同じように犯罪劇ですが、完全にコメディ。まるで予想できない方向に話を転がしながら、抱腹絶倒のシーンが続きます。
何回見ても楽しい映画なので、これはDVDかブルーレイを買って損はありません!

 
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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