文庫の解説目録というのは、リアルタイムでも読んで楽しいものですが、年数が経てば経つほど、ますます味わいが深くなってきます。
以前の記事で、30年前の角川文庫解説目録を大事に保管しているという話を書きましたが(「30年前の角川文庫解説目録」)、この時期に入手して今も保管している解説目録は、ほかに春陽文庫とハヤカワ文庫とがあります。
今回はこの春陽文庫解説目録の内容をご紹介します。
ただし、春陽文庫は当時から在庫があるのか品切れしているのかよくわからないラインナップをそのまま目録に載せていました。
この目録をもらってきたのは、言うまでもなくこの頃、順次刊行されていた「江戸川乱歩文庫」の存在があったためです。
当時、書店で春陽文庫のコーナーへ行くと、まずドーンと目立って置かれているのは山手樹一郎全集。この光景は、今も変わりません(といっても、春陽文庫コーナーを設置している書店はかなりの大型書店に限られますが……)。
横溝正史作品も「人形佐七捕物帳全集」はたいていの本屋に並んでいました。この頃は中学生だったため「全部揃えたらいくらになるんだろうと」と何度も計算して、その度にため息をついていた記憶がありますが、今にして思えば、540円×14冊なので、一気に買ってしまっても良かった程度のものです。もっと早く大人になっておけばよかった(と言いつつ、このシリーズは大人になってからもまだ並んでましたものの、結局買っていないわけですが)。
また、銀色の装丁が存在感を見せていた高木彬光の時代小説も目立っていました。この辺、当時も今も他社ではほとんど文庫になっていないので、今にして思えば貴重なものでした。
その他、現代小説の新刊がチラホラと棚に並んでいた記憶がありますが、そもそも春陽文庫のコーナー自体それほど大きなものではありませんでした。
ところが、目録の方は元気いっぱいなままでした。
探偵小説に限って見ていくと、
という形で、春陽文庫らしい作品がズラッと並んでいます。
しかし、筆者が書店通いを始めた昭和62年ごろには、この辺はもうとっくに品切れになっていたようなんですよね。
「姿なき怪盗」なんか、文庫になったのはこの春陽文庫のみなので、その後も古本屋で探し回りました。
この辺、目録を眺めていたからこそ、「春陽文庫から出ていた」と知っていますが、そうでなければ存在すら知らずに過ごしてしまうところでした。
さて、そんな形で昭和の終わりから平成の頭にかけては、はた目には乱歩しか売れておらず「このままでやっていけるのか」と心配になるような状況でしたが、それから約10年後には、合作探偵小説のシリーズや、「探偵CLUB」と銘打って昔の刊行物を復刊したりなど、マニア感涙の企画を次々送り出すようになりました。ついには乱歩の代作として知られている幻の長編「蠢く触手」まで出してくれて、大喜びしたものです。
現在の春陽文庫は、相変わらず「山手樹一郎と江戸川乱歩」という体制には変わりはないようですが、乱歩のリニューアルをぼちぼち始めるなど、久しぶりに活動期に入っているように見受けられます。
この機会に、河出文庫まかせにしていないで、探偵小説の復刊を始めてほしいですね。この手の企画はやはり春陽文庫が最もふさわしいと思います。