備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

2018年08月

春陽文庫解説目録(1987年6月)

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文庫の解説目録というのは、リアルタイムでも読んで楽しいものですが、年数が経てば経つほど、ますます味わいが深くなってきます。
以前の記事で、30年前の角川文庫解説目録を大事に保管しているという話を書きましたが(「30年前の角川文庫解説目録」)、この時期に入手して今も保管している解説目録は、ほかに春陽文庫とハヤカワ文庫とがあります。
今回はこの春陽文庫解説目録の内容をご紹介します。

ただし、春陽文庫は当時から在庫があるのか品切れしているのかよくわからないラインナップをそのまま目録に載せていました。
この目録をもらってきたのは、言うまでもなくこの頃、順次刊行されていた「江戸川乱歩文庫」の存在があったためです。
当時、書店で春陽文庫のコーナーへ行くと、まずドーンと目立って置かれているのは山手樹一郎全集。この光景は、今も変わりません(といっても、春陽文庫コーナーを設置している書店はかなりの大型書店に限られますが……)。
横溝正史作品も「人形佐七捕物帳全集」はたいていの本屋に並んでいました。この頃は中学生だったため「全部揃えたらいくらになるんだろうと」と何度も計算して、その度にため息をついていた記憶がありますが、今にして思えば、540円×14冊なので、一気に買ってしまっても良かった程度のものです。もっと早く大人になっておけばよかった(と言いつつ、このシリーズは大人になってからもまだ並んでましたものの、結局買っていないわけですが)。
また、銀色の装丁が存在感を見せていた高木彬光の時代小説も目立っていました。この辺、当時も今も他社ではほとんど文庫になっていないので、今にして思えば貴重なものでした。

その他、現代小説の新刊がチラホラと棚に並んでいた記憶がありますが、そもそも春陽文庫のコーナー自体それほど大きなものではありませんでした。
ところが、目録の方は元気いっぱいなままでした。
探偵小説に限って見ていくと、

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という形で、春陽文庫らしい作品がズラッと並んでいます。
しかし、筆者が書店通いを始めた昭和62年ごろには、この辺はもうとっくに品切れになっていたようなんですよね。
「姿なき怪盗」なんか、文庫になったのはこの春陽文庫のみなので、その後も古本屋で探し回りました。
この辺、目録を眺めていたからこそ、「春陽文庫から出ていた」と知っていますが、そうでなければ存在すら知らずに過ごしてしまうところでした。

さて、そんな形で昭和の終わりから平成の頭にかけては、はた目には乱歩しか売れておらず「このままでやっていけるのか」と心配になるような状況でしたが、それから約10年後には、合作探偵小説のシリーズや、「探偵CLUB」と銘打って昔の刊行物を復刊したりなど、マニア感涙の企画を次々送り出すようになりました。ついには乱歩の代作として知られている幻の長編「蠢く触手」まで出してくれて、大喜びしたものです。
現在の春陽文庫は、相変わらず「山手樹一郎と江戸川乱歩」という体制には変わりはないようですが、乱歩のリニューアルをぼちぼち始めるなど、久しぶりに活動期に入っているように見受けられます。
この機会に、河出文庫まかせにしていないで、探偵小説の復刊を始めてほしいですね。この手の企画はやはり春陽文庫が最もふさわしいと思います。


 

平成ミステリ史私観(4年)

平成4年。
この年は、宮部みゆきの大ブレイクを実感した年でした。
もちろんデビュー以来、すでに着実な評価を得ていたのですが、ベストセラー作家として広く認知されたのはこの頃だったように思います。
中でも「火車」は今でも代表作の一つとして挙げられる作品ですが、この年の刊行です。
筆者が「え、宮部みゆきの人気っていつの間にそんなに……!」と驚いたのは、文春文庫「我らが隣人の犯罪」が収録されたときです。(奥付を見ると平成5年1月のことですが)
それまで、宮部みゆきの主だった作品はポツポツと買って読んでいたのですが、デビュー作を含むこの短編集はまだ読んでいなかったため、文庫化の機会に買いに行きました。
ところが! どこの本屋へ行っても売り切れていて置いていないのです。これは本当に印象深いできごとでした。

筆者は高校2年という時期ですが、ミステリの話をできる相手は、相変わらず周囲にはおらず、年末に「このミス」を読むことが唯一の情報源であり、もう本当に楽しみにしていました。歴代の「このミス」で最も待ちわびて買ってきて、隅から隅まで熟読したのはこの年のものだったと記憶しています。
その「このミス」、1位は船戸与一「砂のクロニクル」。船戸与一は「このミス」上位の常連だったので、順当な結果と言えますが、この頃は相変わらず冒険小説は強い時期でした。筆者としては船戸与一の最高傑作はどれかと問われたら、「山猫の夏」と散々迷った挙げ句、「砂のクロニクル」を挙げてしまいます。派手なアクションと、緻密な作劇、リアルな国際情勢の描写など、隅々まで堪能できます。すでに25年前の小説ということになりますが、未だに冒険小説の最先端を行く作品、という印象が残っています。

「このミス」2位は宮部みゆき「火車」でしたが、3位は「哲学者の密室」。筆者は、当時買ったものの、実を言えば未だに積ん読……。こんな分厚いものをちゃんと読む人いるんかね、と当時思いましたが、筆者がミステリを読み始めてから矢吹駆シリーズの新作が発表されたのは初めてのことでしたので、これほどしっかりした人気があったとは知らなかったのです。
笠井潔はこの頃から「第三の波」「大戦間ミステリ」などの用語を考案し、評論家としての活動が目立つようになってきました。

また新本格勢は有栖川有栖「双頭の悪魔」、我孫子武丸「殺戮にいたる病」、法月綸太郎「ふたたび赤い悪夢」と、一皮むけた力作を発表しています。
本格ミステリといえば、島田荘司が編纂した書き下ろしアンソロジー「奇想の復活」(立風書房)というものもありました。新しいブームがいよいよ定着したことを実感するとともに、「叫ぶ夜光怪人」を絶賛し、新作「眩暈」を発表する島田荘司の活動に「大丈夫か?」という不安を抱いたものです。とはいえこのアンソロジー「奇想の復活」は非常に楽しい本で、今も大事に書棚へ並べています。

個人的に嬉しかったのは井上夢人「ダレカガナカニイル…」ですね。
平成元年に岡嶋二人としての活動を終え、ソロになってからの初めての作品。
翌年の「あくむ」とあわせて、高校生だった筆者は何度も何度も読み返すくらい大好きな小説でした。

ゼロ年代名作映画紹介その6「エイリアンVSプレデター」(2004年)

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まるきり反響がないため中断していた「ゼロ年代名作映画」のコーナーですが、久しぶりに。
「プレデター」シリーズの最新作「ザ・プレデター」の公開が迫っていますが、個人的にはこのシリーズの最高傑作は2004年の「エイリアンVSプレデター」だと思っています。

この頃、瞬間的に「VSもの」が流行りました。
前年には「フレディVSジェイソン」が公開されました。
「13日の金曜日」はもともとパラマウント映画、「エルム街の悪夢」はニューライン・シネマが製作しており、ゴジラとガメラのようなもので、同じ立ち位置の人気者でありながら製作会社の壁の阻まれて、それまでは出会うことがありませんでした。
ところが、「13日の金曜日」シリーズの権利がニューライン・シネマへ売却されたことから対決の企画が動き始めました。
そんなこんなで公開された「ファン待望の対決」でしたが、個人的な感想としては画面が暗すぎていまいち何が起こっているのかよくわからず、面白いとはとても言えませんでした(あの大傑作「ジェイソンX」の直後だったのでなおさら)。

それも頭にあって、この「エイリアンVSプレデター」も観る前は全く期待はしていませんでした。
どちらも20世紀FOXの人気者同士なので権利関係は問題ないはずでしたが、エイリアンの方が強いに決まっているし、どっちも意思があるとは思えない暴れ方をしているので、ストーリーを作るのは無理だろう、ということで。
ところが! これが無茶苦茶面白かったんですね。
プレデターはいつの間にやらすごく「いい人」になっていて、人間と共闘してエイリアンと戦ってくれます。味方にしたらこれほど頼もしい人はいない!
ヒロインとジェスチャーでやり取りするシーンなんか、本当に最高です。チューバッカなみに可愛いやんか!
というわけで、それまで「プレデター」シリーズにはそんなに思い入れはなかったのに、シュワルツェネッガー主演の1作目から全てのDVDを揃え直し(当時流行の「アルティメット・エディション」で)、プレデターのフィギュアまで買いましたとも。こんなにかっこいい戦士はいねえよな、と思いながら。「ジェイソンX」を見たときと同じくらい興奮したというわけで、振り返ってみると、俺の映画人生で一番幸福だった時期はこの前後数年だよな、とまで思ったりします。

というわけで、エイリアン、プレデター、どっちのシリーズから見ても正統的とは言えないかなりふざけた設定の映画ですが、どっちのファンも熱狂できること間違いない、大傑作です。
新作公開のこの機会にお見逃しなく!
 
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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