漫画家・花輪和一と装丁家・祖父江慎。
いずれも信者に近い熱狂的なファンを持つ偉大な存在です。
その二人が初めてタッグを組んだのが1991年に発行された「御伽草子」(双葉社・アクションコミックス)。
花輪和一、祖父江慎のどちらの話を始めても延々何日もかかってしまいますが、今回は祖父江慎の話です。
祖父江慎の装丁は説明されないとわからないくらい、いろいろな仕掛けやネタが組み込まれていることで有名ですが、本書のくわだてを知ったときはかなり衝撃を受けました。
2003年に発行された「DTPWORLD別冊 BOOK DESIGN Vol.1」(ワークスコーポレーション)という雑誌に祖父江慎の装丁について何ページかの記事が載りました。
その中で「御伽草子」についても触れらていたのですが、中面にある章扉は金を敷いた紙を使用しており、年数が経つにつれて紙が酸化して腐食していくを楽しむ仕掛けになっているというのです。
祖父江慎の考え方として「本は永遠ではない」ということがあるそうで、それを実践しているということでした。
筆者はかなり美本にこだわる方で、とにかく本は発行時点の状態で、劣化させずに保存したいということに心血を注いでいます。(関連記事:「本棚の大敵とは? 日焼け、シミを防ぐ」「小口研磨本は大キライ! 美本を揃えるテクニック」)
そのような考え方の人間にとって「経年劣化を楽しむ」という発想はまさに衝撃的なものでした。
2003年の雑誌記事でそれを知った時点で、手持ちの「御伽草子」を急いでチェックしてみたのですが、筆者が持っているのは1998年の3刷のため5年ほどしか経っておらず、なおかつ他の本と同じく大事に大事に保管していたため、全く劣化は見られませんでした。
つい先日、急にこのことを思い出して15年ぶりに(本の刊行からちょうど20年)チェックしてみると、おお、少し変化が見られますよ。
写真でわかりづらいかもしれませんが、向かい合った右側のページのインクの有無によって劣化のスピードが異なるようで、絵柄が反転して写っています。
ちなみに2年前に発行された祖父江慎の作品集「祖父江慎+コズフィッシュ」でも本書の腐食ネタは取り上げられており、コズフィッシュで腐食進行中という2冊の写真も載っていましたが、こちらはもっとはっきりと右側のページが写り込んでいました。(ちなみに、それは初版本なので筆者の手持ちのものよりさらに7年ほど古い本です)
ただ、やはり保管状態が良すぎるのか、劇的には進行していませんね。
同じく花輪和一作品の装丁をした限定5000部の「ニッポン昔話」(2001年・小学館)でも同じしかけが施されていますが、こちらは函入のため、さらに劣化の速度は遅くなっており、今のところは本体は小口にシミが見られるほかはかなり綺麗なままです。
というわけで、本来は筆者は「本の劣化は絶対にあってはならない」とまで考えている人間なのですが、祖父江慎装丁のこの2冊だけは「育てている」という気持ちで劣化を楽しむことにしています。