備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

2018年07月

横溝正史ミュージック・ミステリーの世界 金田一耕助の冒険【特別版】

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以前、金田一映画のサントラについて記事(金田一耕助映画のサウンドトラック)を書いた際、サラッとだけタイトルを挙げましたが、改めてこちらのCDについて詳しくご紹介します。

これはもともとは1977年にLPで発売された企画アルバムでした。
映画のサントラというわけではなく、3人の作曲家、高田弘、成田由多可、羽田健太郎が横溝正史作品からイメージして作った音楽を集める、といういまいちよくわからないコンセプトのアルバムです。
CDに付された解説によれば、当時はこの手の企画盤が流行っていたそうで、いろいろ発売されていたようです。
それはともかく、筆者としてはそれほど面白い内容とは思えません。
ちなみに、楽曲の一覧は下記の通り。
金田一耕助のテーマ(作・編曲 高田弘)
八つ墓村(作・編曲 成田由多可)
仮面舞踏会(作・編曲 高田弘)
本陣殺人事件(作・編曲 高田弘)
獄門島(作・編曲 成田由多可)
悪魔の手毬唄(作・編曲 羽田健太郎)
迷路荘の惨劇(作・編曲 羽田健太郎)
悪魔が来りて笛を吹く(作・編曲 羽田健太郎)
三つ首塔(作・編曲 羽田健太郎)
犬神家の一族(作・編曲 羽田健太郎)
ふつうであれば「ふーん」というだけでスルーしてしまうものですが、ところがこれ、CD版は非常に重要な内容なのです。
というのは、上記LPの収録内容に加え、ボーナストラックとして以下の楽曲を収録しています。
愛のバラード(金子由香利)
仮面(金子由香利)
愛の女王蜂(塚田三喜夫)
少女夜曲(塚田三喜夫)
まぼろしの人(茶木みやこ)
あざみの如く棘あれば(茶木みやこ)
あなたは何を(茶木みやこ)
糸電話(古谷一行)
見えない雨の降る街を(古谷一行)
これこれ! これが聴きたかったんですよ!
と、それなりの金田一ファンであれば大興奮のラインナップです。
一見、LPよりもさらに、金田一耕助と関係ない曲名が並んでいるようですが、実はこれ、金田一ファンが聴きたくてたまらない、しかしなかなか揃えづらかった曲を一気に全部集めてしまっているんです。
解説していきます。

「愛のバラード」は市川崑の映画「犬神家の一族」のテーマ曲として大野雄二が作曲したものですが、このCDの収められたのは、シャンソン歌手・金子由香利による歌唱付きバージョンなのです。「仮面」もやはり「犬神家の一族」のために作られた曲に歌を付けたもので、「愛のバラード」のB面です。
「愛のバラード」は、金田一映画音楽の代表選手のような存在ですが、歌もすごくいい!
正直、テーマ曲をインストではなくこっちの歌唱付きバージョンにしてもよかったのでは、と思ってしまうくらいです。
TV番組などのBGMで「愛のバラード」が流れてくることがよくありますが、歌唱付きを知っていまうと、どうしてもそういうときに口ずさむようになってしまいますね。

「愛の女王蜂」は、これまた金田一映画とはややこしい関係です。
市川崑監督の映画「女王蜂」の公開に合わせ、カネボウは中井貴惠を起用し、口紅のタイアップCMを流しました。このCMに使われた曲が「愛の女王蜂」なのです。
CMでは映画の撮影風景が登場するほか、映画パンフレットにも広告が出ており、かなりガッツリと組んでいたことが伺われます。

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「少女夜曲」はこの「愛の女王蜂」のB面で、もはや金田一耕助とは何も関係ないようにも思いますが、ともかく関連楽曲としてCDには収録されています。

茶木みやこの3曲は、この中では最も有名。毎日放送製作の「横溝正史シリーズ」の主題歌です。このシリーズが初めてDVDになったのはDVD黎明期の2000年(プレステ2発売よりも早い時期)でしたが、この「金田一耕助の冒険【特別版】」のCDはこれと同じタイミングで、同じキングレコードから発売されました。

古谷一行による金田一耕助は、連続ドラマ版の「横溝正史シリーズ」が終了後、2時間ドラマの「金田一耕助シリーズ」として継続します。「糸電話」「見えない雨の降る街を」の2曲は、それの主題歌です。
「見えない雨の降る街を」の方は一度しか使用されていないそうです。筆者は「横溝正史シリーズ」の方は最初に発売された上記DVDで揃えているのですが、「金田一耕助シリーズ」は気に入っているものをポツポツ持っているだけなので、「見えない雨の降る街を」はこのCDで初めて存在を知りました。

というわけで、「映画音楽の全部」を収録したこのCD。興味のない方には全くわけのわからないものと思いますが、好きな人にはこれ以上なく貴重な内容です。
実はいまだに廃盤にならずに販売が続いていると知ったため、このような記事を書いている次第です。

金田一耕助の冒険 特別版
オムニバス
キングレコード
2000-01-07


関連記事:
金田一耕助映画のサウンドトラック 

映画「悪魔が来りて笛を吹く」(1979年・東映)のこと

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DVDジャケット

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劇場公開時のパンフレット

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キネマ旬報1979年1月下旬号(特集記事・シナリオを掲載)

さて、今晩はいよいよNHK BSでドラマ「悪魔が来りて笛を吹く」が放映されます。
前回のドラマ「獄門島」のラストシーンで次作は「悪魔が来りて笛を吹く」か?ということがほのめかされ、横溝ファンは騒然となりましたが、あれから約2年。待ちに待ちました。

というわけで当ブログとしてもドラマの詳細なレポを載せたいところですが、まだ放映前。
それにまあ、そんな記事は山ほど投稿されるでしょうから、今回は1979年、西田敏行が金田一を演じた東映版について書いてみます。

1975年生まれの筆者は当然リアルタイムでは見ておらず、平成元年頃、テレビ放映されたときに初めてみました。
確か土曜日のお昼ごろ。当時はこんな映画を昼間に流していたのです。
新聞で放映予定を知って録画しながら見ることに。
学校から帰ると(当時は土曜日は休日ではなく半ドン)、ビデオをデッキへセットし、兄と二人で昼飯を食べながら見始めました。
原作はすでに読んでいたのですが、冒頭はいったい何のシーンなのかよくわかりませんでした。よくわからないままに見ていると、大量の血がドバーッと流れて画面が真っ赤に。ミステリを全く読まない兄からは「こんな映画、ホントに録画するの?」と白い目で見られたことをよく覚えています。

というのはさておき、他の金田一映画に比べて際立った名作、というわけではないのですが、印象に残るのは豪華なセットとヒロイン・斉藤とも子の可憐さです。
というか、この映画の最大の見所は斉藤とも子、と言ってもよいくらいですね。
中学2年だった筆者は、あまりの可愛さにクラクラして、兄がギョッとしたこの映画のビデオを何度も何度も繰り返し見る羽目に陥りました。
そんなわけで、本記事冒頭に掲載のとおり、この映画についてはいろいろコレクションをしているわけです。
ところが、一つだけまるで納得出来ないことがこの映画には一つあります。

原作で言う「金田一耕助西へ行く」のあたり。
「須磨」と大きくテロップが出ますが、これは全く須磨ではありません。
参考までに、映画の画面とGoogleアースで「須磨」と言える場所を出してみたものとを比較してみましょう。

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須磨海岸

映画で「須磨」とされている場所はかなり入り組んだ地形に見えます。しかし、須磨の海岸は実際には真っ直ぐです。いったいこれはどこの空撮? たぶん、なにか別に撮影した素材を使いまわしたのでしょう。
以前の記事でも書いたとおり、須磨は「悪魔ここに誕生す」の舞台ですが、このシーンは、驚いたことに須磨の特徴がよく出ています。

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暗くてよくわからないかもしれませんが、高台になった住宅地のすぐ向こうに海が見えます。
これはまさに須磨の地形です。
「悪魔ここに誕生す」の現地(月見山)もこのような地形で、今は住宅が立ち並んでいますが、敗戦直後の焼け野原だった時期にはこのような光景が広がっていたことでしょう。

本作は東映東京作品で、関西や神戸に縁のあるスタッフは多くはなかったと思われますが、ロケハンがいい加減なんだか丁寧なんだか、この辺がよくわかりません。

というわけで、ミステリ的な部分とは全然関係ない、個人的な思い出ばなしに終始しましたが、ともかく明日の放映が楽しみでなりません!

関連記事:
横溝正史「悪魔が来りて笛を吹く」の舞台をGoogleストリートビューで巡る


悪魔が来りて笛を吹く (角川文庫)
横溝 正史
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芦沢央「今だけのあの子」は「日常の謎」の名作

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先日の記事に書いたとおり、新刊「火のないところに煙は」で芦沢央作品を初めて読んだのですが、この機会に文庫化されている旧作も読んでみました。
いずれもハズレ無し、期待を裏切らない作品揃いでしたが、なかでも最も感心したのが「今だけのあの子」でした。デビューから3作目、初めての短編集ということになります。

収録された5篇は、それぞれ緩やかにつながって入るものの、独立したお話です。
裏表紙の解説文や「女の友情」をテーマにしているという触れ込みから、てっきり「イヤミス?」と思いながら読み始めました。
案の定、最初の短編「届かない招待状」は、学生時代の親友の結婚式に、仲良しグループのメンバーはみんな呼ばれているのに、なぜか自分だけ招待状が届かない、というイヤーな雰囲気で始まります。

ところが!
真相が明かされると、親友の行動の全てが鮮やかに反転し、思わぬところに仕掛けられていた伏線が浮きがってきます。
なんと、なんと。これは「イヤミス」ではなくて、東京創元社お得意の「日常の謎」ではないですか。

「日常の謎」は、殺人など犯罪が起こらない、日常的な生活の中で発生した謎を解き明かすミステリのことです。
東京創元社はこの手のものが大好きで、北村薫、加納朋子、若竹七海、倉知淳らが活躍しています。「グリーン車の子供」で日本推理作家協会賞を受賞した戸板康二が先駆けとされています。

「イヤミス」とは対極に、ほのぼのとしていたり、読み終わるとほっこりした気分になるものが多いのですが、「今だけのあの子」はイヤミスっぽい始まり方だったため、まさか解決すると感動するタイプの話とは思っていませんでした。先に言ってよ!って感じですね。

それにしても、「日常の謎」の系譜の中においても、本書はかなりの傑作だと思いますね。
ミステリとしての切れ味は抜群、エピソードは感動的、小説技術は徐々に進化しているものだと言いますが、20年くらい前「日常の謎」が流行っていた頃に量産されていた作品に比べる、かなり上手いと思います。
これくらいのレベルの作品が年間ランキングなどに登場しなかったのは不思議に感じるくらいです。(といっても、筆者も全くノーチェックでしたが……)
「火のないところに煙は」はかなり売れているようですが、筆者と同様、旧作に手を伸ばしている読者も多いようです。近々の大ブレイクを予感させる作家です。 
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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