備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

2018年06月

カッパ・ノベルス「探偵くらぶ」(1997年)収録作品目次

カッパ・ノベルスから1997年に刊行されたアンソロジー「探偵くらぶ」(全3冊)の目次です。
1946年から1958年、つまり戦後の本格ブームが起こり、やがて松本清張の「点と線」がベストセラーになるまでの「探偵小説」の時代から作品を選んでいます。
ほかでは読めないとんでもないマニアックな作品が多い(というか、マニアックな作品しか収録されていない)のが特徴です。

『探偵くらぶ 上 奇想編』

防空壕(江戸川乱歩)
聲なき迫害(大倉輝子)
暫日の命(大河内常平)
柳下家の心理(大下宇陀児)
米を盗む(香住春吾)
処女水(香山滋)
すとりっぷと・まい・しん(狩久)
R夫人の横顔(水谷準)
悲恋(森下雨村)
どんたく囃子(夢座海二)
姦魔(鷲尾三郎)
魔女物語(渡辺啓助)

『探偵くらぶ 中 本格編』

犯罪の場(飛鳥高)
絢子の幻覚(岩田賛)
千早館の迷路(海野十三)
廻廊を歩く女(岡村雄輔)
接吻物語(川島郁夫)
破小屋(楠田匡介)
雲の殺人事件(島久平)
痴人の宴(千代有三)
霊魂の足(角田喜久雄)
凧師(宮原龍雄)
神楽太夫(横溝正史)

『探偵くらぶ 下 浪漫編』

くびられた隠者(朝山蜻一)
赤痣の女(大坪直行)
死の湖畔(岡田鯱彦)
人形師の幻想(木々高太郎)
猟銃(城昌幸)
くすり指(椿八郎)
時計二重奏(永瀬三吾)
枯野(日影丈吉)
白い外套の女(氷川瓏)
猿神の贄(本間田麻誉)
記憶(宮野叢子)
万太郎の耳(山田風太郎)

関連記事:
鮎川哲也編「怪奇探偵小説集」全3巻

都筑道夫「なめくじに聞いてみろ」

201806なめくじに聞いてみろ233

先日の記事でも少し触れましたが、個人的に熱愛している「昭和ミステリ」の1冊をご紹介します。
都筑道夫の「なめくじに聞いてみろ」です。
これは昭和36年から37年にかけて双葉社の雑誌「実話特報」に連載され、その後「飢えた遺産」と改題されて単行本となり、さらに元のタイトルへ戻して何度か再刊されているものです。

筆者がこれを読んだのは中学2年の頃。平成2年の正月くらいだったと記憶しています。
当時、すでに講談社文庫版が絶版状態だったのですが、これは特に探し回ったわけでもなく、行きつけの古本屋に置いてあったものを、ちょっと面白そうだな、と思って買ってきたものでした。
その前からタイトルだけは知っていました。
当時の筆者がミステリを読む際の参考にしていたのは、文春文庫「東西ミステリーベスト100」と、自由国民社から出ていた「世界の推理小説総解説」の2冊でした。
「なめくじに聞いてみろ」は、文春のベストには入っていなかったのですが、「世界の推理小説総解説」のなかで紹介されていました。

最近はこの手の本が市場から消えてしまっていますが、インターネットもなかった時代、また周囲にミステリ好きもいない状況の中、この「世界の推理小説総解説」はミステリ初心者にとっては非常にありがたい内容の本でした。新本格の時代はまだ始まっていませんが、それ以前のミステリについて系統的に理解するのに大いに役立ちました。
「なめくじに聞いてみろ」については作品を大きく取り上げているわけではなく、都筑道夫の人物紹介の中で「作者一流の描写と工夫が凝っているし、しかも意外な犯人をもってきている」と一行だけ書かれていました(中島河太郎による)。
正直なところ、やや的はずれな印象で、それほど面白そうな小説にも感じられない紹介文ですが、これが記憶に残っていたのは、やはりこの奇妙なタイトルです。「飢えた遺産」のままだったら、きっと古本屋で見かけても手に取らなかったでしょう。初期の都筑道夫は「猫の舌に釘を打て」「七十五羽の烏」など、タイトルからはさっぱり内容を推測できない作品が多く、読む前からワクワクしたものです。

さて、ストーリーを簡単に紹介すると、これは殺し屋対殺し屋の戦いを描いた物語です。
主人公・桔梗信治の父親は殺人方法考案の天才。出羽の山奥で奇妙な殺人方法を次々編み出しては、東京に1ダースいるという弟子に教授していた。
父が息を引き取る際、そのことを知った主人公は、物騒な弟子をすべて抹殺すべく、東京へやって来る。しかし、名前も居場所もわからない……。
というわけで、本書は全13章から成っていますが、毎回、奇想天外な手段を使う殺し屋を発見→接近して父親の弟子と確信→対決、という流れが語られます。
30ページごとに奇抜なアイデアとクライマックスが繰り返されるわけで、盛り上がったまま最後まで一気読みできます。

この殺し屋たちの馬鹿騒ぎという点では、最近の作品ですが伊坂幸太郎「マリアビートル」は非常に近いものを感じました。

マリアビートル (角川文庫)
伊坂 幸太郎
KADOKAWA
2013-09-25


逆にいうと、「マリアビートル」が好きな方には、「なめくじに聞いてみろ」は全力でおすすめできます。
また、昭和30年代の風俗がみっちりと描き込まれ、昭和の「かっこよさ」をたっぷり堪能できます。
とにかく主人公・桔梗信治の凄腕ぶり!
冒頭のバーのシーンだけで完全にやられてしまいます。
中盤でも女性にモテモテ。特に壺ふりのお竜さんというのが色っぽくて、中2男子としては頭をクラクラさせながら読んでました。桔梗が居合の腕前を披露して、お竜さんの着物の帯を切り落としてしまうくだりなんかは、初読から30年近く経った今も忘れられない名シーンです。
このようなケレンに満ちた語り口は、最近の作家ではなかなかお目にかかれないもので、都筑道夫ならではという気もします。

本書は平成12年に扶桑社文庫の「昭和ミステリ秘宝」シリーズの一冊として復刊したことがあるのですが、それも今は絶版。
平成16年に法月綸太郎が「生首に聞いてみろ」という作品を発表し、「このミス」1位という高評価を得ました。内容はガチガチの本格ミステリで「なめくじに聞いてみろ」とは全く関係ないのですが、タイトルは明らかに「なめくじ」から取ったものでした。
週刊文春が平成24年に2度目の「東西ミステリーベスト100」を作ったときは、なんとランク入り。これはもしかすると「生首に聞いてみろ」の効果だったかも知れませんが、驚きました。
そんなわけで、ここ20年の間に、改めて復刊してもよいのでは、というチャンスが何度かありつつも入手困難な状態が続いているため、「昭和ミステリ」ブームの今こそ、もう一度刊行してほしいものだと思います。
なお、「昭和ミステリ秘宝」版の解説は日下三蔵さんが書かれていますので、もしかすると日下さんにとってはすでに一回終わった仕事、ということになっているのかも知れませんが……
でも、ちくま文庫か創元推理文庫にこれが収録されたら、すごくかっこいい本になりそうで、考えるだけで頭がクラクラします。



関連記事:
個人的に復刊を希望する昭和のミステリ
昭和ミステリ復刊状況まとめ
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「十五少年漂流記」を子どもに読ませるなら、おすすめは?

201806二年間の休暇234

わが家の長男は現在小学4年生なのですが、筆者がけしかけてしまったために、子ども向けのシャーロック・ホームズやら、ポプラ社の江戸川乱歩シリーズやらを読み漁り、ミステリ以外の本に見向きもしない時期が続きました。
筆者自身が子どもの頃を振り返ると、小学6年生くらいから、やはり江戸川乱歩ばかり読んでいて、そのままミステリばかり読み続ける人間になってしまいましたが、それまで(5年生くらいまで)は世界の名作を子ども向けに書き直したもの、岩波少年文庫や福音館古典童話シリーズなどを愛読しており、それはそれで非常に楽しい読書生活を送っていました。
この手の「世界の名作」は、子どものうちに下地を作っておかないと、大人になってから改めて読む機会というのもなかなかないよな、と思ったりするので、子どもにも何かしら読ませようと思うのですが、とにかく「ぼくはミステリが好きだから」と決めつけてしまっていて、全く手にも取らない。

そこで、読書好きのパパとして一計を案じました。
長男も異常な本好きではあるので、「間違いなく面白い本」を「手に取らざるを得ない状況」で渡せば、必ず読み始めて食いつくはず。
その第一弾として選んだのが「十五少年漂流記」でした。

「十五少年漂流記」は「海底二万里」と同じくジュール・ヴェルヌの小説ですが、もともと少年向きに書かれた小説です。(「海底二万里」については、以前にこちらで記事を書いています)
登場人物は十代前半の子どもばかり。船に乗って休暇に出かけようと、出発前夜から船に泊まり込んだところ、指導役の大人が乗船していないのに港から沖へ流されてしまい、そのまま嵐にあって漂流。無人島にたどり着き、そこで協力したり反目したりしながら、生活するという物語です。
元のタイトルは「二年間の休暇」というものでしたが、明治期に「十五少年」として翻訳されて以来、日本では「十五少年漂流記」のタイトルで親しまれています。
ちなみに、福音館、偕成社文庫、岩波少年文庫からは原題通り「二年間の休暇」で刊行されています。また、かつて集英社文庫では「二年間のバカンス」のタイトルで出たことがあります。

二年間の休暇 (福音館古典童話シリーズ)
ジュール ヴェルヌ
福音館書店
1968-04-01


二年間の休暇〈上〉 (偕成社文庫)
ジュール ヴェルヌ
偕成社
1994-12-01


二年間の休暇(上) (岩波少年文庫)
ジュール・ヴェルヌ
岩波書店
2012-02-17


今回、長男に手渡した本は、筆者自身が子どもの頃に読んだ本でした。

201806十五少年漂流記235

集英社の「少年少女世界の名作」というシリーズに収録されていたもので、今はシリーズ名や装丁が変わっていますが、訳・挿絵は昔のままで出ています。また、集英社みらい文庫にも同じ訳が収録されていますが、挿絵はキラキラしたものに変わっています。

十五少年漂流記―少年少女世界名作の森〈3〉
ジュール ヴェルヌ
集英社
1990-01-01


さて、話がそれましたが、長男にこの本を渡した「手に取らざるを得ない状況」というのは電車の中でした。二人で出かけたとき、当然のことながら長男は車中のヒマつぶしの用意などしていないため、この本を渡し、筆者自身は別の本を読み始めたため、長男はまんまとこの本を読み始めました。

読んでいる表情を見ているだけで、ドハマリしているのがありありわかりましたね。
電車が到着しても読みながら歩こうとするため取り上げましたが、帰りの電車でも自分から手を差し出してきて、そのまま帰宅後もずっと読みふけっていました。

「十五少年漂流記」は、子ども向けの名作シリーズや、各社の児童文庫には必ず収録されている定番ですが、それだけ読まれている理由は、やはり「子どもが読んでもストレートに面白い」という点に尽きると思います。
「世界の名作」を子どもに読ませたいけど、どれを選んで良いのかわからない、という場合はこれをまず選んでおけば間違いはありません。
また、もともとが子ども向けの小説なので、年少向けのダイジェスト版でも完訳からそれほど大きく話を省いたり改変したりする必要がないため、面白さがあまり損なわれません。
上記で紹介した福音館、偕成社文庫、岩波少年文庫は完訳版なので読むならば小学5年生~中学生くらいになると思いますが、もう少し年少であればダイジェスト版がおすすめです。


筆者が子どもの頃に読んだ上記の訳の挿絵キラキラバージョン。大人の目から見ると「何じゃこりゃ」と思ってしまうイラストですが、子どもと一緒に本屋へ行くとキラキラした表紙の本ばかり手に取るので、やはり子どもには親しみやすいようです。3~4年生向け。

十五少年漂流記 (講談社青い鳥文庫)
ジュール ベルヌ
講談社
1990-06-10

完訳ではありませんが、表紙が落ち着いているので保護者も手に取りやすいかと。4~5年向け。

十五少年漂流記 (ポプラ世界名作童話)
J. ベルヌ
ポプラ社
2016-11-04

これは文庫ではなくハードカバー。低学年向けに短くストーリーをまとめています。1~3年生向け。

子ども向けの本は、読書好きかどうかで手頃なものが変わってくるので、対象学年はあくまで目安と考えてください。
「十五少年漂流記」はもともとの話が面白いので、どのバージョンを選んでも間違いはないと思いますが、できればその子の読書力に合ったものを選んで、せっかくの本なのに「難しくて読めなかった」「やさしすぎて退屈だった」ということにならないようにしたいものです。
ここに挙げた以外にもいろいろ出ていますので、Amazonのレビューなど参考にされると良いと思います。

なお、筆者の息子が一番面白かったのは「船が港から離れてしまった理由」だそうです。
何を読んでもミステリ的なポイントが最大の興味になってしまう……
ちょっとショッキングな感想でした。

関連記事:
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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