備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

2018年04月

ゼロ年代名作映画紹介その5「シルミド」(2003年)

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「シルミド」は日本では2004年に公開された韓国映画です。
金日成暗殺のため、シルミド(実尾島)の基地で極秘裏に結成された韓国の特殊部隊が主人公。彼らの起こした反乱事件を描いたもので、実話がベースになっています。
ちなみにこの映画は東映が配給しているため冒頭に「波ザッパーン」がありますが、実際、往年の東映実録映画と似た味わいがあります。

筆者は、これを父と一緒に劇場へ観に行きました。
これを読んでいる皆さんには全くどうでもよいことなんですが、振り返ってみるとこれまでの人生で、父と二人で映画を観に行ったというのは、このとき一回きりです。今後もたぶんないでしょう。
つまり、生涯で一度きりの父と二人の映画鑑賞が「シルミド」って……。
たぶん、父は覚えていないんじゃないかという気もします。実家へ帰った時、あまりにヒマだったので、近所に新しくできたシネコンを覗きにいくか、という話になり、父が払ってくれるんならちょうど見たかった「シルミド」にしよう、という単に息子のわがままに付き合わせただけなので。
(ちなみに、母と二人だけの映画を見たのもこれまでに一度だけで、それは中学生の時に「ゴジラvsビオランテ」でした。今考えると、中学生にもなって母親とゴジラなんて……と、思いますが、当時は全く何も違和感を持たず「ゴジラに連れてって!」という感じで観にいきました。その翌年には一人で「ミザリー」を観にいったりしていたわけなので、中学生の成長は早いもんです)

と、どうでもよいところで脱線しましたが、当時は韓流ブームの最盛期(だった気がする)でしたが、オバちゃんが釘付けになっていた恋愛ドラマだけでなく、「シュリ」に始まる激しいアクション映画も人気がありました。
「シルミド」も日本の現代映画では考えられないストーリーとアクションとで、かなり話題になり、ベースになった事件についての本もたくさん出ていました。
映画を見てすっかり興奮した筆者は、そのへんの本も買い漁ったものです。

日韓関係は、この映画が公開された当時と現在とでは隔世の感があります。この頃は嫌韓なんて言葉なかったもんなあ。筆者を含めて、ほとんどの日本人は竹島の存在も知らなかったし。
改めて「シルミド」を見て、そんなに仲良しでもなかったけど、今ほど険悪でもなかった当時を皆さん、思い出してほしいもんだと思います。

復刊希望のつづき/「浪漫疾風録」(生島治郎・1993年)

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先日の「復刊希望」の話を書きながら思い出した本があります。生島治郎の「浪漫疾風録」という小説です。
生島治郎は国産ハードボイルド・冒険小説の草分けとして知られていますが、作家デビュー前は早川書の編集者でした。
この小説は冒険小説っぽいタイトルなのですが、その編集者時代を小説形式で回顧したものです。
生島自身をモデルにした主人公だけは「越路玄一郎」と名づけられているものの、他の登場人物は全て実名。
そう、つまり、田村隆一、都筑道夫、福島正実といった面々が「上司」「同僚」として登場していくる、なんとも豪華な小説なのです。小泉喜美子ももちろん出てきます。
1993年に講談社から単行本が刊行され、96年に文庫化。しかし、すぐに品切れになって、それきり再刊されたことはありません。続編の「星になれるか」という作品もありますが、こっちも同じ運命をたどっています。

これはしかし、本当に最高に面白い本です。
個人的には、都筑道夫のエピソードが大好きです。

 都筑は独身のせいか妙なくせがあった。給料をもらうとすぐ、すべての衣服を新品に取り替えるのである。上衣からシャツ、ネクタイ、ズボン、それに靴下まで新しくなっている。そして、その姿は次の給料日まで全く変わらない。着たきり雀のまま一ヵ月を暮らしていたらしい。
 むろん、下着もその方式だから、だんだん汚れてくるが、取り替える気配はない。一ヵ月も同じ下着を着つづけていれば臭わない方が不思議である。

本当の話かどうか知りませんが、本書執筆当時は都筑道夫は健在で、それで特に抗議もなかったようなので、まあほぼ事実と考えてよいでしょう。
このように、錚々たる登場人物たちの「体臭」まで感じられる濃密な描写が続きます。
それだけでなく、本書はまた海外ミステリ翻訳史としても非常に興味深い内容です。
早川書房は戦後から現代に至るまで、翻訳小説の最前線にある出版社です。
「EQMM」が創刊され、ポケミスの刊行が始まり……という、翻訳ミステリが本格的に読まれ始めた時代がしっかりと描かれています。
以前に本の雑誌社から刊行され、今はみすず書房から出ている『戦後「翻訳」風雲録』も、ほとんどは早川書房を舞台としたエピソードでした(著者の宮田昇はやはり早川書房の編集者だった方)。本書とあわせて読むと面白さは倍増です。

というわけで、前回の記事は「昭和ミステリ」と銘打ってしまったため本書は見送ったのですが、やっぱり、ちくま文庫あたりに本書を拾ってほしいなあ、と思っています。

関連記事:
個人的に復刊を希望する昭和のミステリ
昭和ミステリ復刊状況まとめ

「東映実録バイオレンス浪漫アルバム」杉作J太郎(徳間書店)

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ここ最近、順調に新刊が出続けている杉作J太郎・植地毅の「浪漫アルバム」シリーズですが、来ました! 今回は「東映実録バイオレンス」です。

新刊紹介の前に、この「浪漫アルバム」とは何か?
徳間書店の「ロマンアルバム」といえば、アニメガイドブックの老舗シリーズとして知られていますが、同じ徳間書店でもこっちは「浪漫アルバム」。杉作J太郎先生がひたすら東映への愛を語り続ける男のための映画ガイドブックシリーズです。
第一弾は「仁義なき戦い浪漫アルバム」。刊行から20年たった今も版を重ね、これを超える「仁義なき戦い」関連本は現れることがない、空前絶後の内容です。

仁義なき戦い 浪漫アルバム
杉作 J太郎
徳間書店
1998-05-01


これが出た当時は、単発の企画と思われましたが、翌年すぐさま第2弾が出ました。



これは「女囚さそり」や「女番長」など、東映のプログラムを埋めるため量産された東映ポルノを総括するもの。

このあと続刊が途絶えたため、この2冊で終わったと思っていたところ、15年のブランクの後に刊行されたのがこちら。

トラック野郎 浪漫アルバム (一般書)
杉作 J太郎
徳間書店
2014-04-08


言わずと知れたトラック野郎。これまた、最強の「トラック野郎」本となっています。
そして、お次はこちら。

東映スピード・アクション浪漫アルバム
杉作 J太郎
徳間書店
2015-09-16


「スピードアクション」というまとめ方で、「狂った野獣」「新幹線大爆破」「暴走パニック大激突」など70年代の人気作をまとめて扱っています。宇宙暴走族が出てくるから、ということで「宇宙からのメッセージ」もここで登場。
そして、昨年出た最新刊がこれです。

不良番長 浪漫アルバム
杉作 J太郎
徳間書店
2017-03-28


というわけで、今回の「東映実録バイオレンス浪漫アルバム」はシリーズ6冊目ということになります。

東映実録バイオレンス浪漫アルバム
杉作J太郎
徳間書店
2018-04-21


東映実録バイオレンスとは何か?
東映は1960年代から不振の時代劇に代わって任侠路線をスタートしますが、これが大ヒット。鶴田浩二、高倉健の2枚看板で任侠映画を量産します。
その一方、東京撮影所では深作欣二監督らがギャング映画を撮っていましたが、任侠映画の人気に陰りが見えた73年、「仁義なき戦い」の大ヒットによってそれまでの任侠路線に終止符が打たれ、任侠とギャングが合流した「実録路線」がスタートするのです。
「実録」を謳っている以上、モデルとなる事件・人物が存在する映画がほとんどですが、中には「実録風味」で全くオリジナルのものも多々あります。「脱獄広島死刑囚」に始まる松方弘樹主演シリーズなんかがそうです。

本書はファン目線(それもとびっきり濃いファン)で「仁義なき戦い」に続くヤクザ映画の世界が語られています。
個人的には、「日本の首領」シリーズについてたっぷりとページを取っているのが嬉しかったです。このシリーズ、大味なオールスター映画といえなくもないのですが、なぜか定期的に見直してしまうんですよね。本当に金をかけて作ってるなあ、とゴージャスな気分になれます。なんせ、出演しているのが佐分利信、三船敏郎、片岡千恵蔵ですからね。この3人が並ぶ映画はこれだけです。

というわけで、実録路線のガイドブックとしては、これまた決定版となることでしょう。

他に「実録」関連本をご紹介。


映画のモデルになって事件が詳細に紹介されており、ファンにはとても参考になります。


映画の奈落: 北陸代理戦争事件
伊藤彰彦
国書刊行会
2014-06-02

映画と現実とがリンクしてしまった、「北陸代理戦争」事件の全貌を描いたノンフィクション。


実録路線の指揮を執ったプロデューサーの回顧録。

関連記事:
「東映」の歴史を知るための5冊
「孤狼の血」のキャストを「仁義なき戦い」の役者で考えてみる
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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