備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

2018年03月

「シザーハンズ」と「フランケンシュタイン」

201803シザーハンズ198

ティム・バートンの出世作「シザーハンズ」(1990年)。
日本で公開されたのは1991年夏のことでしたが、高校1年生だった筆者はこれを劇場で観ました。
当時は、全く映画好きでも何でもなくて、世間で評判になっているものをときどき観る、という程度でした。したがって、こんな聞いたこともない監督の、意味不明なタイトルの映画を目的にわざわざ映画館へでかけたわけではありません。(実際には前年に「バットマン」が公開され、ティム・バートンは人気監督の仲間入りしていたわけですが、映画に関心のない筆者は監督名など覚えていませんでした)

さて、それでは何が目的だったのか。
当時は、新作であってもたいていの映画が2本立てで上映されていました。メインとなる映画にもう一本おまけがついていて、ヒマな人はついでにどうぞ、という感じでした。
地域によっても違うようですが、筆者が子どもの頃にいた名古屋では、「シザーハンズ」はそのオマケの方として公開されていたのです。
ではメインは何だったかといえば、これが「ホーム・アローン」(!)
この夏最大のヒット作で、ミーハーとしては「これだけは観ておかなくっちゃ」という映画でした。
どんな映画が同時上映でかかっているのかなど全くチェックせず、とりあえず「ホーム・アローン」の席取りを兼ねて、早めに劇場へでかけたのでした。

劇場へ入るとすでに同時上映作品は始まっていたのですが、これがなんとも言えない奇怪な映画。なんで手がハサミなのか、主人公はなんでこんなにオドオドしているのか、意味がよくわからないのですが、観ているうちに物語に完全に引き込まれ、ラストでは大感動。
「これこそが、観たかった映画だ!」というくらいに興奮し、「ホーム・アローン」の内容は全くどうでも良くなってしまいました。
ところが、上映を冒頭から見ていなかったこともあり、長らくこの同時上映作品のタイトルが不明のままでした。
「あの素晴らしい映画はいったい何だったんだろう??」と、今から思えばあまりにも情報がなさすぎな高校生活を送っていたわけですが、大学へ入って、多少まともに映画を見るようになって初めて、ティム・バートンの「シザーハンズ」だったと知ったわけです。

さて、前置きが長くなりましたが、この「シザーハンズ」はよく「ティム・バートンのフランケンシュタイン」と言われます。
「フランケンシュタイン」は言わずと知れたメアリ・シェリーが書いた怪奇小説の古典ですが、筆者はこの小説を読んでもあまり「シザーハンズ」との共通点を見いだせず、このように評される理由がイマイチよくわかりませんでした。

実は、ティム・バートンには「シザーハンズ」のプロトタイプというべき短編が一つあります。「フランケンウィニー」(1984年)です。
これは、日本では「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」(1993年)の公開時に東京と大阪のみで同時上映されたそうですが、筆者はそんなことは知らず、「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」の北米版DVDに特典映像として収録されたもので初めて観ました(2002年頃)。
主人公の少年が大切に飼っていた犬が死んでしまい、稲妻の力を借りて生き返らせたものの、街の人々から気味悪がられて迫害を受ける……という話なのですが、ストーリー展開が「シザーハンズ」そっくりであることに驚きます。ほとんどリメイクと言ってもよいくらい同じ話です。
(なお、「フランケンウィニー」は同タイトルで後に長編アニメとしてリメイクされていますが、筆者は短編の方がシンプルで気に入っています)

この短篇はタイトルに「フランケン」と入っていることもわかる通り、主人公が蘇らせた犬はフランケンシュタインの怪物をイメージしています。
確かに迫害を受ける怪物の哀しみは、小説「フランケンシュタイン」と共通しています。
ようやく「シザーハンズ」と「フランケンシュタイン」とのつながりが見えたのですが、しかしまだそこまで大きな影響を受けているという印象はありませんでした。

そんなモヤモヤが、ようやく解消し、全てがつながったのはユニバーサルの古典怪奇映画「フランケンシュタイン」(1931年)を見たときです。
そう、「ティム・バートンのフランケンシュタイン」と言われているのは、原作小説ではなく、映画版の「フランケンシュタイン」のことだったのです。
それが最もよくわかるのは、それぞれのラスト。

vlcsnap-00013
フランケンシュタイン(1931年)

screenshot003
フランケンウィニー(1984年)

vlcsnap-00014
シザーハンズ(1990年)

いずれも「怪物」が街の人々によって追い詰められます。
「フランケンウィニー」では「フランケンシュタイン」そのままに風車小屋に立てこもりますが、「シザーハンズ」では、これが「怪物」の生まれた城館となっています。
ティム・バートンがどれだけ映画「フランケンシュタイン」を愛しているか、このシーンだけでもよくわかります。

「シザーハンズ」のファンはぜひ、「フランケンシュタイン」と「フランケンウィニー」とをあわせてご覧になることをオススメします。

Amazon商品紹介







関連記事:
ゼロ年代名作映画紹介その3「チャーリーとチョコレート工場」(2005年)

本棚の大敵とは? 日焼け、シミを防ぐ

DSC_0162

以前の記事でも書いたとおり、筆者はかなり美本にこだわってしまう性格のため、自宅での本の保管にもかなり気を使っています。
今回は本の取り扱いについて、日頃どんなことに気をつけているか、ご紹介します。
といっても、世の中には上には上がいるので、もっと念入りな対策をとっている人は多いと思いますが、まあ、ふつうのマンションで家族と生活しながら、そんなに大きな苦労をせずともできる範囲内のでの話とご理解ください。

日焼け

筆者が最も嫌う本の劣化は背表紙の日焼けです。
これは何と言っても紫外線のブロックに尽きます。
なるべく窓のない部屋を書庫にするのが一番良いのですが、そんな部屋はふつうの家にはないため、筆者はいつも北向きの部屋を書庫にして、遮光カーテンをかけています。

まず、北向きの部屋を用意するのは、本好きとして基本中の基本です。
神保町の古本屋街では、ほとんどの店は通りの南側に軒を連ねています。
これは、通りの南側であれば店を北向きに構えることができて日焼けを防げるため、自然と古本屋が南側へ集まった結果なのです。
筆者が生まれ育った名古屋でも、鶴舞公園周辺に古本屋が集まっていますが、ここでも通りの南側に集中しています。北側にもポツポツと存在するのですが、やはり店内の本は日焼けが激しい印象を受けます。

独身時代、転勤のために引っ越しをすることになり、不動産屋に何軒か紹介してもらったことがあります。最初に案内された物件は奥の部屋の隅々にまで燦々と日差しが降り注ぎ、不動産屋は「どうです、日当たりがいいでしょう」と胸を張っていましたが、「いや、こんなに日が当たると困ります。暗い部屋がいいです」と答えて、「人それぞれですね……」と呆れられたことがあります。
まあ、ともかく家中で一番暗い部屋を書庫にしましょう。

北側の部屋とはいえ、窓から日光は入るため遮光カーテンを吊るします。
筆者の家の遮光カーテンは、本当は暗幕にしたかったのですが、筆者の場合は妻に反対されて叶いませんでした。遮光カーテンと言ってもかなり光を通します。等級があるので、家族が納得してくれる範囲内で最も暗いものを選ぶと良いと思います。
窓に雨戸やシャッターがあれば、それもふだんは閉めておけばよいのですが、筆者の今のマンションにはそのようなものはついていません。北側の部屋ですが、夏場の朝は東からの日差しがかなり強烈で随分と部屋が明るくなってしまうため、遮光カーテンと窓の間に簾も下げていて、これはそれなり効果が感じられます。

日焼け対策ではもう一つ注意すべきことがあり、蛍光灯も紫外線を発しています。
これは照明をLEDにすることでかなり低減できます。実際、今のマンションは全てLEDにしているためか、照明による日焼けはほとんど発生していないように感じています。

シミ

シミと言っても、「紙魚」ではなく「染み」の話です。

本の天の部分にポツポツと染みが出来てしまうことがあります。日焼け、シミ、と来ると次はそばかすの話題になるものですが、まあ本にできる、そばかすのことですね。
これは原因はさまざまあるようですが、筆者の場合はほとんどはホコリと湿気によるものですね。
ただ、これは対策が非常に難しい。
本を長いあいだ本棚に並べたままにしていると、どうしても上部にホコリが溜まります。このホコリが劣化してくると、紙にも影響を与えて染みができてしまうわけです。
これは、こまめに掃除するしかありません。
筆者は独身の頃はかなり熱心に本棚の掃除をしていたのですが、結婚して子どももできてからは、なかなかそんなのんびりした時間を取れず、掃除をサボっていたところビックリするくらいの勢いで天に染みのある本が増えてしまいました。
これはできてしまってから後悔してももう遅い。
とはいえ、買ってから15年とか20年とか経っている本が多いので、まあ染みくらいは仕方ないかな……とも思うのですが。
さすがに40歳を過ぎてくると、「若い頃に読んだ本」というものはかなり古い本ということになってくるので、それなりに劣化します。ちょっと前に大学の先輩に会った時「最近、家の本がボロボロになってきて悲しい」と言っていたのですが、全く同感です。

また、湿気が多いとカバーが劣化し、その影響で本文用紙も色が変わってくることがよくあります。これについては、実は筆者の大好きなちくま文庫が一番ひどい。これも、こまめに掃除してホコリを取り除きつつ、天気の良い日にはなるべく部屋の空気を入れ替えるようにするしかありません。
とはいえ、冬場に書庫が極端に冷えるとどうしても本に湿気がついてしまうのが避けられません。本格的にやるなら、室温・湿度があまり変化しない部屋を書庫とするのがベストでしょうが、お金持ちでないとできません。

酸性紙

酸性紙という言葉を聞かれたことがあるかと思いますが、かつて世の中の洋紙のほとんどは酸性紙で、そのため何十年も前に発行された文庫本などを古本屋で見ると、変色してボロボロになっているものです。
今は中性紙に印刷された本が増え、かつてほどは経年での変色を気にしなくて良くなってきましたが、しかし中性紙であっても酸性紙と接する状態で保管していると変色が移ってしまいます。
筆者は昔はそんなことは知らず、新聞や雑誌などで著者インタビューなどの記事を見かけると、切り抜いて関連する本に挟んでいました。ところが、これをやってしまうと挟んであった場所がバッチリ黄ばんでしまうんですよね。これまた、気づいたときにはもう遅い。
下の写真は、新保教授のインタビューを見かけて切り抜きを挟んでいた「世紀末日本推理小説事情」(新保博久・ちくまライブラリー・1990年1月刊)。中学生の頃に購入した本ですが、10年くらい前にこの状態に気づき、諦めてそのまま保管を続けています。

DSC_0165

新聞の切り抜きがダメだろうというのは、ちょっと考えれば気づくことができますが、油断できないのは新刊などを買うと挟んであるチラシ類です。ここから変色が発生することもよくあります。これも、以前は気にせず、むしろ積極的に残していたのですが、今は不要なものは捨てて、残しておきたいものはカバーの袖に隠すように挟んで、なるべく本文へ影響を与えないよう注意しています。

さらにもう一つ注意したいのは、グラシン紙。
箱入り全集などの中身によくかけられており、また古本屋でもグラシン紙を巻いて販売している店がよくあります。実はこれも酸性紙なのです。
このため、かなり古いグラシン紙は劣化してボロボロになっています。
筆者は古本屋で買った本はグラシン紙を外さずそのままにしていることもよくあるのですが、本当はあまり良くありません。グラシン紙の位置に沿って変色している本もあります。
グラシン紙は、カバーや帯を引っ掛けて破ってしまったり、擦れて傷がついたりすることを防ぐという目的のもので、長期保存のためのものではないのです。

虫の糞

さて、筆者が最近気づいた大敵。それは虫、特にクモのフンです。
家の中で小さなクモが這っていることがよくありますが、実は彼らのフンは本にこびりついてしまいます。いったん落とされるとそれほど時間をかけずに定着してしまい、紙が変色して染みになるどころか、そもそものフン自体を掻き落とすのも苦労します。
こればかりは、日頃から掃除をしていても落とされたらオシマイなので、けっこう厳しいです。わずかな隙間にも入り込むので、駆除もほぼ不可能です。(冒頭の写真は船戸与一「南冥の雫」ですが、買った翌年くらいにはもうやられていて、ちょっと凹みました)
筆者は対策として、大事な本の上には紙を一枚置いていますが、検証期間が短いので、効果のほどは不明。ホコリの対策にはなっているように思いますが。

まとめ

さて、現実にできるできないという問題があるため、本の劣化対策はかなり難しいのですが、保存が楽なのは、やはり箱入りの本です。
筆者は昔から岩波文庫の箱セットが好きでちょこちょこと買っているのですが、学生のころ、今から20年以上前に買った「南総里見八犬伝」や「世界の民話」などは、日焼けが全くないのはもちろん、ホコリもつかないため染みもなく、全く買ったばかりの状態を維持しています。
また、ちょっと前に古本屋で買った黒澤明のシナリオ集「全集黒澤明」も、箱に巻かれた帯は少し日焼けしてしましたが、中身は30年も経っていると思えない、ビックリするくらいの美本でした。

お金をかけてもよいのであれば、筆者が知る限り、最強の保存方法を編み出しているのは江戸川乱歩です。自宅の蔵が書庫になっていたことは知られていますが、日が差さず、室温も湿度もある程度一定に保たれる、全く理想的な環境というわけです。
さらに、自身の著書は「自著箱」という桐の板を組み合わせた特製の箱に収蔵されています。
以前、展覧会でここに収蔵されていた本が展示されているのを見たことがあるのですが、古本屋ではボロボロに日焼けしているものしか見かけない乱歩の昔の本が、全くの美本で保管されていることに驚きました。
本気になってそれくらいの財力があれば、本をきれいに保管する方法は、まあいくらでもあるのかもしれません。

関連記事:
小口研磨本は大キライ! 美本を揃えるテクニック
 

ゼロ年代名作映画紹介その3「チャーリーとチョコレート工場」(2005年)

201803チョコレート工場197

ティム・バートンはかつては大好きな監督でした(ここ数年は全然見てないのですが)。
「シザー・ハンズ」「エド・ウッド」など、代表作はジョニー・デップ主演のものが多く、これもその一つです。
ティム・バートンで一番好きな映画をあげろ、と言われると、「シザー・ハンズ」? 「エド・ウッド」? 「バットマン・リターンズ」? 「マーズ・アタック」? とどれにしたものか非常に迷います。しかし、正直言って、この「チャーリーとチョコレート工場」はベスト候補には入りません。とはいえ、とても好きな映画で、劇場へも行きましたし、DVDでも何度も見直しています。

この映画はまず、公開前にサントラを聞いていたのですが、その時点でのけぞりました。
ダニー・エルフマンはティム・バートンの盟友と言うべき存在で、ほとんどの監督作で音楽を担当していますが、最高傑作はこのサントラではないかと思います。
冒頭の「Wonka's Welcome Song」、チョコレート工場内でウンパ・ルンパが歌う「Augustus Gloop」など、いずれも歌詞はロアルド・ダールの原作からそのまま使用しており、作品の雰囲気を驚くほど忠実に再現しています。にもかかわらず、これがさらには、完全にダニー・エルフマンの世界となっているのです(歌唱もダニー・エルフマン本人)。
音楽を聞くだけで映画も傑作となることを確信しました。公開を心待ちにして、ようやく劇場で見て、今度は大爆笑。ウンパ・ルンパのダンスのなんと見事なこと!
これまた、ロアルド・ダールの原作の精神を忠実に踏まえながら、なおかつ完全なるティム・バートン映画になっているのです。
原作・映画・音楽の3つがこれほどハイレベルに融合している映画はなかなかないでしょう。

さて、このダニー・エルフマンとは何者か?
音楽を担当した映画で最も有名なのはティム・バートンが製作総指揮を務めた「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」でしょう。これまた、主人公ジャックの歌は全てダニー・エルフマン本人が吹き込んでいます。
この人はそもそもは、オインゴ・ボインゴというバンドのリーダーを務めていました。
非常に実験的な活動をしていており、中でも有名なものにミュージカル映画「フォービデン・ゾーン」があります。
これは、実兄のリチャード・エルフマンが監督し、ダニー・エルフマンが音楽を担当したもので、映画音楽作家としてのダニー・エルフマンのルーツというべき作品です。
この映画にはダニー・エルフマン自身も出演し、魔王を演じていますが、これがなんとイキイキしていることか。

20050929elfman

真ん中の白い服の人がダニー・エルフマン演じる魔王。
ストーリーはあってないような、むちゃくちゃな展開で、ひたすら映像と音楽を楽しむのが正解です。
「チャーリーとチョコレート工場」の公開に合わせたのか、日本ではほぼ同時期にDVDが発売されました。筆者は、このDVDでダニー・エルフマンの真価を知り、「チャーリーとチョコレート工場」サントラの評価もさらにあがりました。「フォービデン・ゾーン」のサントラも輸入盤を購入し、ハードローテーションで聴き続けていましたね。

Charlie and the Chocolate Factory
Warner Home Video
2005-07-12


フォービデン・ゾーン デラックス版 [DVD]
マリー=パスカル・エルフマン
フルメディア
2005-09-22





profile

筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

スポンサーリンク
ギャラリー
  • 宮脇孝雄『洋書天国へようこそ』は翻訳ミステリ・SFファンにおすすめ
  • 筑摩選書「ベストセラー全史【現代篇】」澤村修治
  • 立風書房『現代怪奇小説集』中島河太郎・紀田順一郎/編(1974年)目次
  • 笠原和夫脚本「博奕打ち いのち札」ついにDVD発売!
  • 学習漫画「日本の歴史」を買うなら、おすすめはどれ?人気4大シリーズ+αを比較
  • 小学1年生の次男が幽霊を目撃
プロフィール

squibbon

タグクラウド