備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

2018年01月

ミステリ作家の意外な作品

ミステリ作家と言ってもミステリばかり書いているわけではなく、多彩な活動をしている作家も多くいますが、ときどき実に意外な著書に出くわすことがあります。
これまでに発見したそんな本をいくつかご紹介します。

高木彬光

高木彬光は戦後本格ミステリの第一人者として知られていますが、一方でも時代小説も量産していたりと、非常に幅広い作品を発表しています。
中でもちょっと意外な活動は、占いの本の執筆や児童書の翻訳でしょう。いずれも高木彬光ファンにはよく知られていますが、一般的には知らない方も多いと思いますので、一端をご紹介します。



占いに関する著書は多く、このような著作集も出ています。このシリーズは比較的最近まとめられたものですが、すでに品切れしているようです。
占いの本で今も入手しやすい本としては、次のようなものがあります。易学者の生涯を描いた歴史小説です。



児童書の翻訳としては、昔、偕成社の児童文学全集に「高木彬光訳」のものがたくさん収録されていました。

「フランケンシュタイン」のほかに「ロンドン塔」「鉄仮面」「西遊記」などを高木彬光が担当しています。筆者は子どもころ、このシリーズを何冊か買ってもらっていたのですが、高木彬光の巻は子どもにはあまり馴染みのない作品が並んでいることもあり、残念ながら一冊も持っていませんでした。巻末のリストをよく眺めていてそこで初めて「高木彬光」という名を覚え、のちに人気ミステリ作家だと知ったのでした。

海野十三

佐野 昌一
学生社

海野十三は本名である佐野昌一名義でこのような本を出しています。戦後も何度か版を改めて発行されていたようです。
筆者は15年くらい前に、たまたま本屋でこの本を見かけたことがあります。
その時はまさ海野十三の著書は思わず、「佐野昌一? 海野十三の本名と同姓同名だな」と思っただけで、手にとることすらしませんでした。
しかし、家へ帰ってから気になって調べてみたところ、なんとやはり海野十三本人の著書ではありませんか。
こんな珍しい本は買っておこうと、改めてその本屋へ行ってみると、なんとその間に売れてしまっており、買い損ねました。出版元でもすでに品切れしており、そのまま手に入れることができなくなってしまったのでした。
とはいえ、買っていたところでパズルには全然興味が無いので、問題を解くことはなかったと思いますが……。

池井戸潤



急に現代の作家になりますが、池井戸潤はもともと銀行マンであり、デビュー前からビジネス書を何冊か執筆していました。もしかするとビジネス書読者のあいだでは「ビジネス書からミステリへ転身」と認識している人もいるかもしれません。
作家デビュー後もビジネス書や銀行業務についての実務書をいくつか書いています。
ここに挙げた本は、これは完全に実務書で銀行員以外は読まないタイプの本です。池井戸潤が大流行作家になっても、この辺の本を池井戸潤の著書の一冊として売り出している本屋は見たことがありません。

笠井潔

スキー的思考
笠井 潔
光文社


この本も、笠井潔の読者にはあまり珍しくないかもしれませんが、スキーについてのエッセイです。
笠井潔のスキー好きはよく知られており、スキー探偵というものまで書いているくらいです。
筆者もスキーは大好きなので、この本はかなり何度も読み返しました。もしかすると笠井潔の著書の中で最も好きな本かもしれません。

島田荘司

アメリカからのEV報告
島田 荘司
南雲堂



最後は島田荘司を。
これもファンにはよく知られているのですが、島田荘司は車マニアで車に関する著書もいくつか出しています。その中でもこの本は極めつけにマイナーな存在でしょう。
筆者は一時期まで、島田荘司の著書は何もかも一つ残らず購入して読んでおり、その頃はインターネットなどもなかったため、どこの本屋へ入るときでも、必ず島田荘司のコーナーを覗いて新刊が出ていないかどうかを確認していました。
それくらい頑張ってチェックした筆者も、この本の存在には数ヶ月気づきませんでした。
しかも気づいたのは、たまたま行きつけの本屋にパソコンの検索機が新たに設置され、当時は客が使える端末というものが珍しかったため、何気なく「島田荘司」を検索したところヒットしてきたのです。
慌てて取り寄せを依頼しました。
内容的には、ミステリのミの字もない、完全なる車の本で、たぶんどこの本屋もミステリコーナーではなく、車のコーナーに置いていたのでしょう。

というわけで、甚だ簡単ですが、ミステリ作家が書いたちょっと意外な著書を並べてみました。
また何か思いついたら追記します。

江戸川乱歩関係お宝本紹介「乱歩文献データブック」(1997年・名張市立図書館)

201801乱歩文献データブック161

三重県名張市は乱歩の生誕地であり、市内には記念碑も建っています。土産物屋では「二銭銅貨煎餅」を売っていたりと、乱歩ファンにとっては「わざわざ行くほどではないが近くに用があったら立ち寄ってみたい街」であります。
ここの市立図書館では乱歩関係の資料の収集に力を入れており、「江戸川乱歩リファレンスブック」と称して、これまでに「乱歩文献データブック」「江戸川乱歩執筆年譜」「江戸川乱歩著書目録」の3冊が刊行されました。
いずれも、基本的には書店には並ばず、市立図書館が直接販売する形を取っていました。

最初の「乱歩文献データブック」が刊行されたのは1997年のことでしたが、当時はまだインターネットも黎明期であり、地方の図書館がこのようなものを発行したと知るのは、今に比べるとかなり難かったものです。
筆者がどのような経緯でこの本の存在を知ったかというと、実は人からもらったのです。当時所属していたミステリ好きのサークルでお世話になっていた方から、「たぶん喜ぶだろうと思って買っておきました」と、突然渡されたのです。そりゃ、喜びますとも!
とはいえ結局、その方がどうやってこの本を手に入れたのかはよくわからないままでした。

ということで、最初の1冊は運良く手に入れられたのですが、表紙には「江戸川乱歩リファレンスブック1」とあり、続刊が予想されました。
それからがさあ、大変。当時はTwitterのような便利なものもなく、刊行情報を知るには「マメなチェック」しかありません。定期的に名張市立図書館のホームページを確認する日々が続きました。
そんなこんなで、翌年の「執筆年譜」、少し間が空いて2003年の「著書目録」も無事に入手できたわけです。(ちなみに、久しぶりに名張市立図書館のサイトをチェックしたところ「執筆年譜」と「著書目録」はまだ在庫があるようです)

名張市立図書館の発行ということですが、編纂しているのは実質的には名張市在住の中相作氏という乱歩研究家の方です。
本書が刊行されてしばらく経ったころから「名張人外境」というホームページを運営されており、現在もデータベースの更新を続けておられます。
http://www.e-net.or.jp/user/stako/main.html
「乱歩文献データブック」というのは、乱歩について言及されたあらゆる文献の総目録です。
これが、恐るべき手広さで収集しており、新聞・雑誌・書籍など商業出版されたもの以外にも、私家版、同人誌などまで対象としており、本書に紹介はされているものの、どうやったら入手できるか謎なものも多々あります。
(ちなみに、筆者が以前に「入手した」と自慢の記事を書いていた福島萍人「続・有楽町」は「乱歩文献データブック」には記載ありませんが、データベースには登録されています)
「執筆年譜」「著書目録」は「乱歩文献データブック」の異常な内容に比べると、まあストレートな内容ですが、それだけにほぼ100%の充実度・信頼性があり、当ブログのこちらの記事を書くにあってもとてもお世話になりました。
ちなみに、この「名張人外境」のサイトでは「江戸川乱歩年譜集成」というデータベースも作成されており、これも本になってほしいですね。

この3冊は造本もなかなか凝っており、非常に良い紙を使っているため、刊行から20年以上も経つというのにヤケもシミも一切ありません。正直なところ、内容以上に、この本の美しさにも惚れ惚れしてしまいます。

関連記事:
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福島萍人『続有楽町』入手
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ハチ高原スキー場から「山田風太郎記念館」へ

201801山田風太郎170

先日、小3の長男を連れて、兵庫県北部にあるハチ高原スキー場へ行ってきました。
長男は幼稚園児の頃からスキー板を履かせていましたが、雪から遠く離れた地域に住んでいることもあり、スキー場へ行くのは年に2~3回程度。これまでは自宅から最も近くの小さなスキー場へ行って、1本しかないコースをぐるぐる回っていた程度でしたが、そろそろ上達してきたので、大きなスキー場へ行こうとハチ高原まで出かけたわけです。

さて、この関西で最も有名なスキー場へ出かけたのは今回が初めてで、たっぷり堪能してきましたが、この記事の話題はそこではありません。
そう、ハチ高原がある兵庫県養父市といえば、山田風太郎の出身地なのです。

市内に「山田風太郎記念館」があることは以前から知っていましたが、「八鹿氷ノ山インターチェンジ」を降り、ハチ高原へ向けて9号線を進んでいったところなんと! 道沿いに記念館の看板が出ているではありませんか。
なんだこんなところにあったのかと、帰り道に寄ってきました。

DSC_0145

初めて覗いてみた山田風太郎記念館ですが、思っていたよりもこじんまりとしたところでした。
展示されている資料はどれも貴重なものですが、スペースもそれほどないため、点数は限られています。
正直なところ、記念館のみであればわざわざ行くほどではないかな、とは思いますが、ハチ高原周辺、さらに範囲を広げて但馬地方はは冬はもちろん、夏もレジャーがさかんな地域ですし、温泉もたくさんあるので、それらと組み合わせて立ち寄るのはおすすめです。
筆者としては記念館そのものよりも、関宮という地域がどんな場所なのか、それを見られた点に価値を感じました。
山田風太郎のエッセイには、幼少期の思い出を綴ったものもいくつかあります。
早くに父母に死なれ幸福な少年時代ではなかったためか、暗い雰囲気の話が多く、山陰の陰鬱な雪国という印象を持っていました。
しかし、実際に訪れてみると、意外なほど開けた場所です。もちろん、時代の違いもあるでしょうけれど、そもそも9号線=山陰道という大きな街道に面した集落の中心地に位置して、それほど鄙びたところという印象は持ちませんでした。
一度訪れてみると、エッセイを読む時、頭のなかで想像する景色が変わってくるのではないか、とそんな風に思いました。
今回は記念館へ立ち寄っただけですが、次回のスキーのついでに時間があれば、周辺を散策してみたいと思います。



関連記事:
山田風太郎の最高傑作5選!?(エッセイ・ノンフィクション編)

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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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