備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

2017年11月

「伊藤潤二研究 ホラーの深淵から」12月20日発売予定



12月20日「伊藤潤二研究 ホラーの深淵から」と題した本が発売されるようです。
一部で12月7日発売予定と告知されていましたが、20日へ延期になっているとのことです。

紹介を見ると、これは伊藤潤二ファンは必見の内容と思われます。
まず、単行本未収録作品が82ページも! 全体の三分の一にあたります。
また、2万字ロングインタビュー。諸星大二郎との対談!
さらには、特別寄稿者が異常に豪華。ギレルモ・デル・トロの名前も見られます。
デル・トロと伊藤潤二は非常に相性がよいと思われますが、どんなコメントをしているのかとても楽しみです。

ところで、伊藤潤二の特集本ができるのはこれが初めてではありません。
1999年、もはや20年近くも前ということになりますが、「富江」の映画化にあわせて「伊藤潤二WORLD」という本が出ました。

伊藤潤二 WORLD (ネムキ3月号別冊)
伊藤 潤二
朝日ソノラマ
1999年


筆者が伊藤潤二を読み始めたのは「伊藤潤二恐怖マンガCollection」刊行の際で、ちょうどこの時期は頭の中が伊藤潤二のことでいっぱいになっている状態でした。このため伊藤潤二初の特集本ということで非常に期待して買ってきたものです。
とはいえ、ほとんどは「富江」映画化に関する記事で、また作品も自選ベストということで「ファッションモデル」「脱走兵のいる家」「長い夢」が掲載されていましたが、いずれも再録で少しガッカリしました。(ご本人が選ぶベスト1位が「長い夢」という情報は興味深いものでしたが)
インタビューは読み応えがありましたが、本書の価値はほぼそこだけです。価格も本体429円と、それほど気合を入れて作られてものではありません。
刊行から年数が経っており、またその間に類書が出ていないため、古書価は高騰しているようですが、今回の「伊藤潤二研究」があれば、内容的にはおそらくはカバーできてしまうのではないかと思います。

いずれにせよ、伊藤潤二の作品は「ポツポツ拾い読み」ということは許されません。一つでも読んでしまえば、必ず全作品を読み尽くさなければ収まらなくなる、途方もない魔力があります。
今回の本で、 久しぶりに伊藤潤二ワールドに浸りたいものだと思います。

関連記事:
「伊藤潤二研究 ホラーの深淵から」入手
伊藤潤二作品目次 「ハロウィン少女コミック館」編
伊藤潤二作品目次 「伊藤潤二恐怖マンガCollection」編
伊藤潤二作品目次 「伊藤潤二恐怖博物館」編
伊藤潤二作品目次 「伊藤潤二傑作集」編

岩波文庫版の江戸川乱歩は初心者にもマニアにもおすすめ

岩波文庫へ続々と乱歩作品が収録されています。

10年ほど前に「江戸川乱歩短編集」として短編の傑作選が刊行されましたが、それでオシマイと思っていたところ先々月から毎月、新たな作品が収録されている状況です。

乱歩作品の著作権は一昨年消滅したことから、各社が人気作を刊行するであろうことは予想していましたが、古典的名著専門の岩波文庫まで参戦するとは驚きでした。
とはいえ、岩波文庫に収録されるからには、何かしらセールスポイントがあるだろうと期待していたところ、やはり、これはなかなか良いですよ。

今年に入って岩波文庫から刊行された乱歩作品のラインナップは以下の通り。
少年ものが2冊続いたあと、「江戸川乱歩作品集」と銘打って名作集の刊行が始まっています。


収録作:「怪人二十面相」「青銅の魔人」


収録作:「少年探偵団」「超人ニコラ」「智恵の一太郎ものがたり(抄)」

収録作:「接吻」「日記帳」「人でなしの恋」「蟲」「孤島の鬼」「防空壕」

まず少年物について。
岩波文庫はエンタメ目的ではなく学術文庫なので、底本や校正にこだわります。
少年物の底本はいずれも「最初に刊行された単行本」です。このため、ポプラ社から出ているものとは文字遣いなどが大きく異なります。
とは言え、光文社文庫版「江戸川乱歩全集」も同じく最初の単行本を底本としているため、大きな違いはありません。
では、岩波文庫版のどこに独自の価値があるのか。
それは「超人ニコラ」です。
というのは、「超人ニコラ」は乱歩最晩年の作品であり、雑誌連載終了後、単行本として刊行される前に亡くなってしまいました。
このため、雑誌連載バージョンから単行本化するに当たっての文章の整理は乱歩本人によるものではありません。ポプラ社から「黄金の怪獣」と改題されて刊行されたのがこの作品の初単行本ですが、その後の講談社「江戸川乱歩推理文庫」、光文社「江戸川乱歩全集」などいずれの収録時も文章に手が加えられています。
しかし、岩波文庫としては乱歩本人による改訂と認められないものを収録するわけにいきません。このため、雑誌掲載バージョンに手を加えることなく収録しています。
というわけで、岩波文庫版「超人ニコラ」は他社とは全く別バージョンとなっています。
「超人ニコラ」以外の収録作は、他社版とそれほど大きな違いはないはずですが、岩波文庫は校正については信用できますので、細かい違いはたくさんあるはずです。マニアであれば少年物2冊は押さえておく価値があるでしょう。

次に「江戸川乱歩作品集」Ⅰ~Ⅲですが、こちらは初心者におすすめです。
底本は桃源社版全集なので創元推理文庫版と同じであり、別に珍しいものではありません。
すばらしいのは編集の切り口です。
一巻目のテーマは「愛のゆくえ」。きれいな言葉ですが、要するに乱歩が得意とした変態性欲の世界です。「人でなしの恋」「蟲」「孤島の鬼」と、確かにこの切り口でいえば代表作といえる作品が並んでいます。
二巻目は「謎と推理」。収録作は「陰獣」「黒蜥蜴」「一枚の切符」「何者」「断崖」となっています。「陰獣」は乱歩が書いた本格ミステリの中で文句なしの代表作ですが、短篇で「二銭銅貨」ではなく「一枚の切符」を選ぶあたり、センスを感じます。「一枚の切符」はデビュー作「二銭銅貨」とほぼ同時期に書かれた作品ですが、本格ミステリとしての出来映えは明らかに「二銭銅貨」より上です。乱歩も二作を同時に投稿しつつ、「一枚の切符」の方に自信を持っていたようですが、先に「二銭銅貨」が掲載されたため、影に隠れた存在となってしまいました。

三巻の収録作は今のところまだ公表されていませんが、この調子であれば3冊揃えれば乱歩という作家の特異性を概観できる、好シリーズが完結すると思われます。
乱歩作品を全部そろえているような読者にはあまり価値はないかも知れませんが、「乱歩の代表作を手軽に一通り読んでみたい」という方には強力におすすめできます。定番として長く書店に常備されるようになってほしいものです。
(収録作がわかったら、この記事、更新します。)

関連記事:
江戸川乱歩入門 その1 名作短編集のおすすめ
ポプラ社 少年探偵江戸川乱歩全集の27巻以降

亜愛一郎の後継者がついに登場!? 櫻田智也『サーチライトと誘蛾灯』

201711サーチライトと誘蛾灯141

気になっていた著者の単行本がようやく刊行されました。
2013年にミステリーズ!新人賞を受賞した櫻田智也『サーチライトと誘蛾灯』です。
なにが気になっていたのか? それはほうぼうで目にする「亜愛一郎の再来」という評判です。

読んでみると確かに、泡坂妻夫の生み出した亜愛一郎シリーズを強烈に意識していることが伺われる作品集でした。
個人的な話をすれば、筆者は以下のような記事を書いてしまうくらい、亜愛一郎に関しては熱狂的です。

亜愛一郎辞典

古今東西、これほど好きなシリーズはなく、これまでの人生は「亜愛一郎のような小説」を探し求めて生きてきたと言っても過言ではありません。
すぐれた謎解き短編を読むと「亜愛一郎っぽい」感動を味わうことはありますが、それでも「やっぱり亜愛一郎には勝てないよな」と、何を読んでも一抹の淋しさを感じ続けてきたものです。

ところで、亜愛一郎シリーズの魅力とは何でしょう?
他の泡坂妻夫作品にも共通する部分でもありますが、

1.奇妙な論理展開(「DL2号機事件」「藁の猫」など)
2.異常なほど張り巡らされた伏線(「G線上の鼬」など)
3.意外な手がかりによって、がらりと景色の変わる真相(「珠洲子の装い」「砂蛾家の消失」など)
4.落語のような会話(ほぼ全編)

という点を挙げたいと思います。
ついでに言えば、上記全ての魅力を百点満点でクリアしている最高傑作は、亜愛一郎シリーズでは「G線上の鼬」。シリーズ外では「紳士の園」だと思っています。

さて、話を戻しますと、本作『サーチライトと誘蛾灯』は、どの程度、泡坂妻夫に迫っているでしょうか?
筆者としてはかなり満足度が高いものでした。
とは言え、亜愛一郎最大の魅力である「1」の奇妙な論理展開はほとんど見られません。やはりこれだけは永久に泡坂妻夫の独擅場にあり続けるのでしょうか。
しかし、それ以外の「2~4」については、よく練り込まれています。

本書を読むと、「泡坂妻夫らしさ」というのはやはり会話の妙に負っているところが大きいな、という気がします。大きな笑いを取るわけではなく、ユーモラスな雰囲気を維持する会話は泡坂妻夫を彷彿させます。伏線や意外な真相というものはほかのミステリでも堪能することができますが、この雰囲気を味わえる作品にはなかなかお目にかかれません。
もちろん、「2・3」のミステリ部分がハイレベルであることが前提ですが、そこへ「4」の会話の魅力が加わり、とても楽しめる作品集になっています。さらに一作目の表題作が「紳士の園」を思わせる設定、という点も筆者としてはかなりポイントが高いです。

というわけで、泡坂妻夫との比較ばかり書いてしまいましたが、著者本人も泡坂妻夫ファンということなので、かまわないでしょう。あとがきには、著者と泡坂妻夫との偶然の邂逅が描かれていますが、これがとても印象的です。不覚にも涙がこぼれました。
単行本デビューしたばかりの著者に対して失礼な物言いながら、泡坂妻夫ファンの切なる願いをいえば、著者には今後、オリジナルの作風を目指したりなどせず、「泡坂妻夫っぽさ」を更に追求してほしいな、と思っています。 
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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