201708コミカルミステリーツアー1117

ミステリ好きの漫画家の元祖はやはり、いしいひさいちでしょう。
かつて光文社から刊行されていた「EQ」というミステリ専門雑誌があります。「ジャーロ」の前身ですが、その「ジャーロ」も今や電子版しか販売されなくなってしまいました。
筆者の中学・高校の頃が最盛期でした。翻訳の現代ミステリが中心のため、毎号チェックしていたわけでないのですが、たまに御手洗物の短編が掲載されると買っていました。
当時、いしいひさいちの「コミカル・ミステリー・ツアー」も「EQ」に連載されており、いつも腹を抱えて大笑いしていた記憶があります。
ちょうどそんな時に朝日新聞で「となりの山田くん」の連載が始まり、快哉を叫んだものです。「山田くん」でも、某有名ミステリのトリックを流用して買ってきたサンマの数を増やしたり、作家志望のタブチ先生の部屋の壁に「目指せ!鮎哲賞」と貼り紙がしてあったりと、ミステリネタは豊富でした。
いつか、いしいひさいちのミステリネタを心ゆくまで堪能したいと願っていたところ、国内ミステリの収録をスタートした創元推理文庫から単行本が刊行されたのです。これは本当に嬉しい出来事で、しばらくのあいだは何度も何度も読み耽っていたため、筆者の手元にあるこの一冊はかなり手垢だらけになってしまっています。

それはともかくとして、このシリーズ、2006年の第4巻を最後に刊行が途絶えていますが、もう出ないんでしょうか?
また、最初の刊行から既に25年も過ぎ、そもそも扱われている作品が絶版だらけになってしまっているという現実もあります。当時は有名作ばかりを綺羅星の如く網羅して、「この漫画でネタにされたら人気作の証」というくらいのものだったんですが。
というわけで、懐かしい90年代懐古の意味も込め、元ネタリストを作成してみました。
初回は、1992年刊行の1冊目『コミカル・ミステリー・ツアー 赤禿連盟』から。(ちなみに上述の「めざせ!鮎哲賞」と書かれているネタも本書に収録されています)
ただし、ホームズ物はほぼ原題通りのため、またオリジナルキャラのネタは特に元ネタがないため、省略します。(4コマ漫画のタイトルに続けて、【】内が元ネタ)

・ソーンダイク研究室 →【ソーンダイク博士の事件簿】
・別れをツッコミに来た男 →【別れを告げに来た男】
・小誘拐 →【大誘拐】
・フレンチ最悪の事件 →【フレンチ警部最大の事件】
・シャドー(コバンザメ)81 →【シャドー81】
・くどいトランク →【黒いトランク】
・そして誰もいなかった →【そして誰もいなくなった】
・黄色い歯の犬 →【黄色い犬】
・中途中の家 →【中途の家】(翻訳によって「中途の家」だったり「途中の家」だったりする)
・住みついた女 →【噛みついた女】(どっちかというと、原題のほうがネタっぽい印象が……)
・文無し探偵 →【名無しの探偵事件ファイル】
・オザナリー →【ミザリー】
・給仕たちの沈黙 →【羊たちの沈黙】
・人間座椅子 →【人間椅子】
・怪人二十お面相 →【怪人二十面相】
・ウッドストック経由最終バス →【ウッドストック行最終バス】
・女王陛下のユーレイ号 →【女王陛下のユリシーズ号】
・弁と線 →【点と線】(このネタは傑作!「EQ」掲載時は「点と線と弁当」というタイトルだったような気がしますが、確認するすべがなし……)
・指つめる →【追いつめる】
・胸果つる街 →【夢果つる街】
・古い骨折り →【古い骨】
・マダム・タッソーが大まちがい →【マダム・タッソーがお待ちかね】
・立ちくらみ坂の人喰いの木 →【暗闇坂の人喰いの木】(『暗闇坂』は今や島田荘司の代表作の一つとされていますが、発表当時筆者は「?」という感想でした。このネタを読んで「あ、俺だけじゃない」と安心したものです)
・新宿ザメ →【新宿鮫】
・サウス・カロライナの殺人者 →【カロライナの殺人者】
・レッド・オクトーバーを追い払え →【レッド・オクトーバーを追え】
・広重病人事件 →【広重殺人事件】
・笑う婦人警官 →【笑う警官】
・ロウフィールド館の歌劇 →【ロウフィールド館の惨劇】
・寸劇のヴェール →【惨劇のヴェール】
・鏡の国の洗脳 →【鏡の国の戦争】
・パーフェクト・ロシア・スパイハウス →【パーフェクト・スパイ】【ロシア・ハウス】
・ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ大作戦 →【ティンカー・テイラー・ソルージャー・スパイ】
・船倉の犬たち →【戦争の犬たち】
・ジャッカルの日々 →【ジャッカルの日】(「日々」にしただけで後日譚になる、この不思議)
・鷲は舞い落ちた →【鷲は舞い降りた】
・スリーパーにシングルベッドを送れ →【スリーパーにシグナルを送れ】
・真相海流 →【深層海流】
・あなたに負けた人 →【あなたに似た人】
・いやけ →【さむけ】
・法律違反事務所 →【法律事務所】

こうしてみると、冒険小説が目立ちます(そして、そのほとんどが今は入手困難)。90年代っぽいラインナップです。
次回以降、続刊を紹介します。





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