201708悪魔の手毬唄完全資料集成113
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さて、先日の記事でも紹介した『市川崑「悪魔の手毬唄」完全資料集成』が発売されました。
大井川鐵道でのロケについては触れられていますが、トーマスについての記述はなし。
……というのはともかくとして、期待に違わぬすばらしい内容の本です。

大量のスチールやオフショットは、この映画のファンにはたまりません。
各写真に添えられた解説から、カットごとにロケとセットを使い分け、細かく組み立てた職人技を確認することができます。
個人的に長年の疑問が解消したのは、「中指だけが長い」という設定の恩田の足。
映像で見ると非常によくできていて、筆者はずっと「中指だけが長い人を探して撮影したんだ」と思っていましたが、そんなわけはなくて、中指だけ造形でした。
いや、考えてみれば当たり前のことなのですが、この映画を繰り返し見ていたのが中学生の頃なので、あまり深く考えずに見ておりました。
もっといえば、全編、鬼首村でロケをしたんだと思っていましたよ!

さらに興味深いのは、「原作超要約」。
原作を要約し、それぞれのパーツが角川文庫版の何ページが該当しているかを箇条書きにした市川崑手書きのメモ3枚がそのまま掲載されています。
「悪魔の手毬唄」は、原作に忠実な印象を受けますが、それでもミステリとしては割りと長めのストーリーを2時間程度に収めるためにはエピソードの取捨選択が必要となります。それを検討するために作成された資料です。
原作の持ち味を生かしながら、展開を映画的にすっきりさせるための苦心が伺われます。
なお、メモに記されている原作のページ数は現行の角川文庫版では対応していないと思われます。

さて、ついでに金田一映画についてほかにおすすめの本を2冊ほどご紹介します。

201708市川崑のタイポグラフィ114
小谷充・著 水曜社 (リンク先はAmazon)

2010年に刊行された本ですが、今も順調に版を重ねているようです。
市川崑の金田一シリーズの特徴である、巨大な明朝体を画面全面に貼り付けたクレジットについての研究ですが、まさに「研究」というべき詳細で緻密な検証です。
一口に明朝体と言っても、さまざまなフォントが存在しますが、実はこのクレジットに使用されているのは単一のフォントではないことがわかります。画面全体のバランスを整えるため、ほとんど一文字ずつというレベルで書体や大きさを調整しているのです。
そこを追求していく著者はまさに名探偵さながらの大活躍で、ミステリ的な読み物としても非常に秀逸な内容です。
結果的に浮かび上がってくるのは市川崑のデザイナー魂で、ファンは必読の本です。

これは2013年に刊行された映画秘宝編集のムックです。
市川崑に限らず、金田一耕助映画全体についてマニアックな話を満載しているもので、この手の本としては最高峰の内容です。
筆者が特に感動したのは、片岡千恵蔵版金田一のストーリー紹介です。
片岡千恵蔵の金田一シリーズは筆者は一つも見たことはありませんが、CSなどではたまに放映されているようなので、見られる環境にある方にとってはそれほど見るのが難しいものではないようです。
しかし、一部の作品についてはフィルムが失われ、全く見ることができない状態になっています。
このムックでは、それらの作品についてシナリオをもとにストーリーを再現しているのです。
とはいえ、これを読んでみると「見たい。なんとかして見たい」という気持ちを抑えられなくなってきます。そこが難点。

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