少し先ですが、新潮社からこんな新刊が出るようです。



「コックリさんの父」??というところに若干の違和感を感じますが、やはり80年代の小学生を虜にした心霊写真ブームの立役者といえば、この中岡俊哉大先生でしょう。
本書の内容がどんなものなのか今のところまるでわかりませんが、著者の岡本和明氏は中岡俊哉の息子さんです。

筆者の中では「中岡俊哉=心霊写真」というイメージがあるのですが、小学生時分は極度のビビリだったため、自分で心霊写真集を買ったことはありません。
したがって、中岡俊哉の著書についても正確な書誌を語る立場にないのですが、かつて書店の児童書売場を席巻していた、強烈にうさん臭い本のことはよく覚えています。

今や、児童書売場といえば、子どもの教育を配慮し、正しい人生を歩ませる糧となるものばかりが並んでいます。しかし、昔の児童書はそうとばかりは限りませんでした。
名作全集や図鑑のたぐいは今よりも活発に刊行されていましたし、創作シリーズにも良書がたくさんあったのは確かですが、一方で「バカな子どもをビビらせて、小遣いをだまし取ってやろう」というコンタンが見え見えの企画が売場の一角を占め、しかも、ものすごい勢いで稼いでいたのです。

思えば、いい時代でした。
名作全集のたぐいは完訳とはほど遠い、デタラメな翻訳のオンパレード(最たるものが山中峯太郎のホームズでしょう)。
ダジャレばかりのクイズの本。学研の学年誌は毎号、ノストラダムスの話ばかり掲載して、未来の「ムー」読者を大量生産していました。
そして、極めつけは心霊写真。
岩波書店や福音館書店の児童書がケーキや和菓子とすれば、これらのえげつない本は、いわば駄菓子です。

でもやっぱり、子どもには駄菓子ですよ。
良質で健康によいお菓子ももちろん必要ですが、そればかりでは飽きてきます。
明らかに不健康で、着色料と化学調味料満載のお菓子に対する欲求は猛烈にあります。
そして、駄菓子は食べたらそれでオシマイ。
栄養にもならずに忘れられ、自宅の書棚に並べられることもなくどこかへ消えていきます。
だからこそ、この年になるとノスタルジーを感じてしまいます。
(ただし、前述のとおり、心霊写真の本は、筆者は怖くて買えず、クラスメイトが教室へ持ち込んだものを、横からこっそり覗いていた派です。したがって、中岡俊哉の著書が児童書と分類されていたのかどうか、正確なところはよくわかりません。当時は児童書だけではなく、新書でもたくさんの心霊写真が出ていました)

ところで、80年代の心霊写真ブームが、90年代後半からのJホラーブームを陰で支えていた点も見逃せません。
心霊写真がなぜ怖いのか、ということを考えると、「現実にはありえないものが写っているから」という論理的な説明だけでは充分な理由とはなり得ません。
恐怖を感じさせるためには「この世のものならざる存在」を感じさせる「何か」、理屈を超越した感覚的な「何か」が必要です。
いったい、何なのか?
Jホラーの牽引役となった脚本家・高橋洋はそこに注目し、山岸凉子の漫画における心霊描写などを参考にしつつ、小中千昭の作品から「小中理論」と呼ばれる技法を抽出し、確立していきます。
そして誕生したのが「女優霊」や「リング」なのです。
「小学生が心霊写真を怖がる」という素朴な現象からはじまり、やがて世界に誇るJホラーが誕生したというわけで、ここでは中岡俊哉も殊勲者に列せられて然るべきでしょう。

というわけで、本書の内容は目下のところ、全っ然わからないのですが、刊行されたらチェックしなければ、と思います。
それにしても、新潮社から出るとは。




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