201708恐怖奇形人間108

前回の記事に書いたとおり、この映画は乱歩の「孤島の鬼」「パノラマ島奇談」をベースに物語が作られています。
では、これら乱歩作品の要素はシナリオにどのように現れているのか、それを見ていきます。
この作品のシナリオはワイズ出版『日本カルト映画全集1 江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』に全文収録されていますので、容易に読むことができます。
この本は20年以上も前に刊行されたものですが、今も版を重ねているようで、今回のDVD化でもう一回くらいは刷るのでは、と睨んでいます。
なお、今回の記事は本編ではなく、シナリオを見ていきますので、部分的に本編とは異なる描写があるかもしれません。

キャラクターについて

各登場人物は「パノラマ島奇談」「孤島の鬼」あるいはその他の乱歩作品のモチーフを複合的に持ち合わせます。

【人見広介】
以下の3人の複合体。なかなかうまく組み合わせていて、よくできたキャラだと思います。
・人見広介(パノラマ島奇談)
 自分に瓜二つの大富豪、菰田源三郎が死亡したと知り、墓場から蘇ったふりをして菰田になりすます。そして莫大な財力を駆使して、自身の夢であったパノラマ島を作りあげる。
・蓑浦金之助(孤島の鬼)
 恋人を殺され、その謎を解くために親友、諸戸の故郷である孤島へわたる。そこで出会った奇形の少女は殺された恋人に瓜二つであった。
・諸戸道雄(孤島の鬼)
 父である丈五郎は奇形人間を人工的に製造するため、道雄を医科大学へ進学させる。蓑浦とともに島へ渡った道雄は父の企みを阻止しようと画策する。

【菰田丈五郎】
名前のとおり、菰田源三郎の父という設定ながら、実質的には「孤島の鬼」の諸戸丈五郎の役です。

【秀子・初代】
いずれも「孤島の鬼」に登場。初代は諸戸道雄の恋人。初代と瓜二つで秀子は孤島でシャム双生児に改造されていた少女。初代のキャラは原作から改変されています。

【菰田千代子】
「パノラマ島奇談」菰田源三郎の妻。原作そのままの設定と役回り。

【静子】
映画では菰田源三郎の愛人という役回りですが、「パノラマ島奇談」「孤島の鬼」には該当する人物はいません。「静子」という名は「陰獣」のヒロインからの流用と思われます。

【蛭川】
「蛭川」なる人名もいかにも乱歩風の名前ですが、実際には乱歩作品には見当たりません(たぶん)。大下宇陀児に「蛭川博士」という作品があるため、そこからの連想かと思われます。

【明智小五郎】
「パノラマ島奇談」の終盤に登場する探偵は北見小五郎で、明智っぽいけれど明智ではありません。
明智を演じた大木実はこの映画の7年前、大映版「黒蜥蜴」(井上梅次監督)でもにこやかに明智を演じていました。

ストーリーについて

この映画は「パノラマ島奇談」と「孤島の鬼」を組み合わせたものですが、言われてみるとたしかにどちらも「狂気にとらわれた男が孤島に理想郷を作る」という話で、どこの部分がどちらの作品から持ってきたのかよくわからなくなるくらい、組み合わせてみるとしっくり馴染みます。
前回の記事で書いたとおり、脚本家・掛札昌裕が「パノラマ島奇談」を、監督・石井輝男が「孤島の鬼」を、それぞれ原作として推薦し、両方を取り入れたため、このような形になったのであり、偶然の産物ではありますが、なかなかよくできた組み合わせです。
シナリオにそって、どのシーンをどの作品から持ってきているかを見ていきます。

冒頭、二匹の蜘蛛が絡み合い、雌が雄を食い殺す様子をバックにタイトル。
蜘蛛といえば、乱歩はこの世で最も嫌いなものとして、エッセイなどでよく言及しています。また「蜘蛛男」という小説もあり、このあたりを念頭に置いたシーンでしょう。雌が雄を食い殺す描写は、この映画が製作される15年前に発表された乱歩晩年の長編「化人幻戯」も連想します。

精神病棟の中にいる主人公・人見広介。
精神病棟という舞台は、夢野久作「ドグラ・マグラ」の冒頭を連想します。乱歩には精神病棟が舞台となる作品は無かったように思います。

人見広介は精神病棟の中で聞き覚えのある歌を耳にし、波が断崖へ打ち寄せる景色を思い出す。
これは、「孤島の鬼」での諸戸道雄と初代のやりとりを脚色して流用。

謎の少女・初代が所属する曲馬団。
「孤島の鬼」にも事件の黒幕へつながる曲馬団が登場。

初代の胸へ突き刺さるナイフ。
「孤島の鬼」の初代も殺されるが、衆人環視の中で刺殺されるのは探偵の深山木幸吉。

初代の言葉から裏日本へ向かう主人公。
この映画では舞台となる孤島は日本海と設定されていますが、「孤島の鬼」は南紀、「パノラマ島奇談」は志摩が舞台です。乱歩で日本海というと「押絵と旅する男」がありますが、ここからの連想でしょうか?

自分と瓜二つの男・菰田源三郎になりすます主人公。
この辺りの流れは「パノラマ島奇談」からほぼそのまま。

源三郎の父・丈五郎の支配する島へわたる。
この辺から、「パノラマ島奇談」「孤島の鬼」両作品がこねくり回された状態になってきます。

終盤についてはネタバレ(という概念はこの作品には不要かもしれませんが……)回避のため、省略しますが、明智の唐突な登場などは、いかにも乱歩です。
ただ、血の通った兄と妹の悲恋という部分については、乱歩には例が無いように思います。冒頭の精神病院と同じく、夢野久作からの連想では、という気もします。

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