201706猫の舌に釘をうて098

毎年夏になると書店では、各社「夏の文庫100冊」フェアを開催しています。
昔は新潮文庫だけがやっていましたが、「大人向け夏の課題図書」的な雰囲気があり、選りすぐりの名作がラインナップされていました。
100冊を全部まとめたBOXセットなども販売されていて、どんな人が買っていたのか知りませんが、とはいえ、そのようなセット組みをするのも納得の内容で、筆者も中学生の頃は買い漁り、無料配布されている小冊子を読み耽ったものです。
現在は新潮、角川、集英社の3社が大きく展開していますが、今やいずれも短期的なベストセラー中心になってしまい、筆者的にはまるで面白くないので、ここ十年くらいはコーナーへ近寄ることすらありません。

さて、新潮社だけが夏の100冊をやっていた古き良き時代、もう一つ、筆者が毎年ワクワクして待っていたフェアがありました。
それが「講談社文庫 真夏のミステリーフェア」です。
これは現在も継続しており、時期は夏で変わりないものの、単に「講談社文庫 ミステリーフェア」という名称になっているようです。
こちらも、最近はベストセラーばかりのラインナップであまり面白く思えないのですが、筆者が中学生の頃はふだんは棚に品揃えされていない、ややマイナーなものも多々含まれていました。
当時はミステリを読み始めたばかりということもあり、このフェアをとても重宝して、夏になると本屋を何軒もはしごし、乱歩賞受賞作や推理作家協会賞受賞作で講談社文庫から刊行されていたものは、ほぼ全て手元に揃えたりしていました。

ということで「もしこんなフェアをやられたら、持ってる本でも全部買い直しちゃうかも!講談社文庫絶版ミステリーフェア」というものを勝手に考えました。
講談社文庫がかつて収録したことがあるものの、現在は品切れになっているものを100冊リストにしています。

リストを作るに当たっての、細かいルールを書くと、講談社文庫に一度での収録されたことがあり、現在品切れ・絶版状態のものから選びました。
ただし、講談社文庫が品切れしていても、他社が復刊しているものは除きます(全集などへの収録を除く)。例えば連城三紀彦「戻り川心中」や泡坂妻夫の「煙の殺意」などは、筆者的には講談社文庫のイメージですが、他社から復刊されて今もガンガン売れているので除外。
そもそも他社が品切れさせたものを講談社文庫がちょっとだけ収録したことがある、という程度の、講談社文庫が出し続ける義理のないものでも、現在、入手可能な文庫がない場合は対象となっています。これに該当するのは、例えば結城昌治「暗い落日」です。角川文庫、中公文庫などあちこちで文庫化しており、講談社文庫から出ていた期間はとても短かったように思いますが、リストアップ。
また、他社が復刊してそれがまた品切れになっている場合も対象です。これはたくさんありますが、「なめくじに聞いてみろ」とか「花嫁のさけび」とか。
(品切れかどうかの判定は記事投稿時点です)

ともかく、下記のリストは、現在は新刊書店で入手不可の名作一覧でもあります。講談社文庫がちょっとその気になってくれれば、この辺の作品が書店にずらりと並ぶわけです。ウソから出た誠にならんかな、という期待も軽く込めつつ、アップしてみます。
(リンク先は全てAmazonです。マーケットプレイスに出品されていれば購入できます)

赤江瀑
獣林寺妖変
これがデビュー作になるのかな? 角川文庫の「ニジンスキーの手」と収録作品は同じです。
講談社文庫版は辻村ジュサブローの表紙がかっこよかった。本書の収録作では、個人的に「獣林寺妖変」が一番好きなので、それを表題に持ってきている点でもポイント高し。

飛鳥高
細い赤い糸
推理作家協会賞受賞作。講談社文庫版で持っているけど読んでない。

我孫子武丸

0の殺人
探偵映画

鮎川哲也
王を探せ
朱の絶筆

泡坂妻夫
花嫁のさけび
天井のとらんぷ
花火と銃声
毒薬の輪舞
曾我佳城シリーズは、その後、全集として一巻本で刊行され、なんと「このミス」1位という快挙を遂げ、改めて文庫になったりしましたが、それも今は品切れ。

生島治郎
追いつめる
黄土の奔流
夢なきものの掟
浪漫疾風録
「追いつめる」「黄土の奔流」など、生島治郎の代表作を最初に文庫化したのは講談社文庫です。
「浪漫疾風録」は代表作とは言い難いのですが、早川書房で編集者をしていた頃を小説にしたもので、都筑道夫など関係者が実名で登場し、個人的には大好き。ミステリ翻訳史と言えます。

井上雅彦
竹馬男の犯罪

大谷羊太郎
殺意の演奏

岡嶋二人
あした天気にしておくれ
ツァラトゥストラの翼
殺人者志願
「あした天気にしておくれ」は、「焦茶色のパステル」の前年、乱歩賞の最終候補に残った作品で、初期の最高傑作とも言われています。ずっと品切れのまま。「殺人者志願」はもともとは光文社文庫から出ていたもので、代表作とも言い難いのですが、個人的にはむちゃくちゃ好きな一冊。あまりにハラハラドキドキして、呼吸困難になりかけました。

折原一・新津きよみ
二重生活
夫婦合作。

折原一
倒錯の帰結
造本に凝りすぎ。

海渡英祐
伯林-一八八八年

笠井潔
復讐の白き荒野
「講談社推理特別書き下ろし」で島田荘司「異邦の騎士」と同時に配本されました。筆者の頭のなかではこの2作がワンセットになっています。

梶龍雄
透明な季節
ぼくの好色天使たち
「透明な季節」は、乱歩賞受賞作の中で一番好きな作品です。

日下圭介
蝶たちは今…

栗本薫
ぼくらの時代
天狼星

黒岩重吾
背徳のメス

河野典生
他人の城

小林久三
暗黒告知
皇帝のいない八月

権田萬治
日本探偵作家論

斎藤肇
思い通りにエンドマーク
綾辻行人に続く新本格第2弾として登場したのは、実はこの人。

佐々木丸美
沙霧秘話
創元推理文庫にも収録されず。

佐野洋
轢き逃げ
一本の鉛

島田荘司
火刑都市
網走発 遙かなり
死者が飲む水
本格ミステリー宣言
島田荘司ですら、こんなにも品切れが! しかも、全部大傑作!

志水辰夫
飢えて狼
裂けて海峡
いずれも新潮文庫から復刊されたことがありますが、「裂けて海峡」は文章が変わっていて、違和感がありました。その後、著者のホームページに改訂の経緯が掲載され、少し納得しましたが、やはり生理的には講談社文庫版が好きです。

殊能将之
美濃牛

新章文子
危険な関係

高柳芳夫
プラハからの道化たち

多岐川恭
濡れた心

竹本健治
ウロボロスの偽書 上
ウロボロスの偽書 下
ウロボロスシリーズで文庫化されたのはこれだけ。あとは文庫にすらなっていないという扱いです。空前の竹本健治ブーム(?)の今こそ、改めて文庫化してほしい。

陳舜臣
枯草の根
孔雀の道
弓の部屋
陳舜臣のミステリは今は全く手に入らない! 創元推理文庫が出すべき!

司凍季
からくり人形は五度笑う

土屋隆夫
影の告発
針の誘い
赤の組曲

都筑道夫
猫の舌に釘をうて
なめくじに聞いてみろ
新 顎十郎捕物帳
「猫の舌に釘をうて」は一冊の本で出さないとネタが成り立たないのですが、後に出た光文社文庫版は他の作品を併録しているので全然ダメ。ソフトカバー四六判で、手書きフォント使用という形で新刊として出してみたら、今でもじゅうぶん通用する作品だと思います。

戸川昌子
大いなる幻影

伴野朗
五十万年の死角

中井英夫
人形たちの夜

中薗英助
密航定期便

長田順行
ワンダー暗号ランド

中西智明
消失!

二階堂黎人
聖アウスラ修道院の惨劇
人狼城の恐怖 第一部-ドイツ編
人狼城の恐怖 第二部-フランス編
人狼城の恐怖 第三部-探偵編
人狼城の恐怖 第四部-完結編

仁木悦子
冷えきった街
二つの陰画

西澤保彦
完全無欠の名探偵
幻惑密室
西澤保彦の代表作はまだ版を重ねていますが、この辺の怪作は品切れ。

法月綸太郎
誰彼
ふたたび赤い悪夢
謎解きが終ったら
法月綸太郎を品切れにしちゃ、ダメ。ゼッタイ。

日影丈吉
孤独の罠
狐の鶏
幻想博物誌
この辺は創元推理文庫に拾ってほしいところ。

藤村正太
孤独なアスファルト

藤本泉
時をきざむ潮

船戸与一
神話の果て
伝説なき地
船戸与一をガンガン収録している小学館文庫に期待。

麻耶雄嵩
夏と冬の奏鳴曲
なぜこれが品切れなのか、不思議。

皆川博子
聖女の島

森雅裕
モーツァルトは子守唄を歌わない
ベートーヴェンな憂鬱症
この人は講談社にケンカを売り過ぎなので仕方ないかな……と思いますが。
でも、作品は本当に面白い。

山口雅也
ミステリーズ
奇遇 上
奇遇 下

山崎洋子
花園の迷宮

山田風太郎
婆沙羅
未読。読みたい。

山田正紀
ブラックスワン

結城昌治
暗い落日
公園には誰もいない
炎の終り

連城三紀彦
変調二人羽織
黄昏のベルリン

渡辺剣次
13の密室
名アンソロジーとしてつとに名高い短編集。



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