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先日掲載した「 国内名作ミステリ必読リスト(本格ミステリ編)」の解説記事です。

ジャンル分けについては前回記事「名作ミステリ必読リストについて」に書いたとおりですが、では、掲載する作家はどのように選択したか。
前回記事にも書いたとおり、このリストは単に面白い小説を求めている読者よりも、「ミステリマニア養成講座」を目指しています(初心者向け)。したがって、ミステリの歴史における価値を最重視しています。
「面白い」ということも基準の一つであることは確かですが、それよりも「後世へどれほど強い影響を与えたか」ということを意識しました。影響が強ければ強いほど、ミステリの歴史においては重要ということになります。
リスト終盤は90年代から2000年代にデビューした作家たちとなり、この方たちはまだ「後世へ影響を与える」ということはできていません。したがって逆に「過去の本格ミステリから強い影響を受けている」と考えられる作家、そしてまた、毎年恒例の「本格ミステリ・ベスト10」などで重要視されている作家を選びました。

黒岩涙香
日本初のミステリとしてたびたび言及されるのが黒岩涙香の「無惨」(1889年)です。
また、涙香は海外文学の翻案で知られ、乱歩に多大な影響を与えました。
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小酒井不木
乱歩の師匠のような存在です。乱歩のデビュー作「二銭銅貨」に推薦文を寄せました。自ら創作を始めるのは乱歩のデビュー後ですが、「疑問の黒枠」(1927年)は日本初の長編本格ミステリとされています。

江戸川乱歩
紹介するまでもない巨大な存在です。今回のリストでは新旧の『東西ミステリーベスト100』にランクインしたものを掲載しました。
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横溝正史
日本の本格ミステリを語る上で絶対に欠かせない存在。議論の余地なく必読の作家です。
今回のリストは、乱歩と同じく新旧『東西ミステリーベスト100』ランクイン作品に加え、筆者が本格ミステリとして高く評価している「悪魔が来りて笛を吹く」を掲載しました。
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甲賀三郎
戦前に「本格派」と呼ばれた作家です。短編の代表作「琥珀のパイプ」(1924年)は簡単に読めますが、長編の代表作「姿なき怪盗」(1932年)は長らく文庫では出ておらず、読むがなかなか難しい状況です。筆者は春陽文庫版を古本屋で買って読みました。
創元推理文庫か、河出文庫か、ちくま文庫が復刊するべき。

角田喜久雄
角田喜久雄はミステリよりも「髑髏銭」など時代小説が有名で、今も読まれていますが、ミステリ史においては戦後すぐに「高木家の惨劇」(1947年)を発表したことが特筆されています。横溝正史の「本陣殺人事件」「獄門島」などと同時期の本格ミステリです。

夢野久作
いわずとしれた日本三大奇書の一つ「ドグラ・マグラ」(1935年)の著者。
他にも有名な短編がたくさんありますが、とりあえずはこれを読んでおけばOKでしょう。

浜尾四郎
戦前においては珍しい理知的・論理的な本格探偵小説「殺人鬼」(1931年)で知られています。
ヴァン・ダインから影響を受けたと公言する作家は戦前戦後現代を通じて数多くいますが、最も良い影響を受けているのが浜尾四郎でしょう。

小栗虫太郎
日本三大奇書の一つに数えられる「黒死館殺人事件」(1934年)の著者。
いろいろな版が出ていますが、筆者としてはデビュー作「完全犯罪」(1933年)も一緒に読めるうえ、雑誌連載時の挿絵も掲載されている創元推理文庫版がオススメです。

久生十蘭
「小説の魔術師」とも呼ばれた作家で、いろいろなジャンルの小説を執筆しており、国書刊行会から「定本久生十蘭全集」が出ているので、その気になればすべての作品を読めます。
ミステリ的には「顎十郎捕物帳」(1939年)は謎の提示と解明に主眼を置いた本格探偵小説として知られています。また「魔都」(1948年)は、「ドグラ・マグラ」「黒死館殺人事件」に比肩する戦前を代表する長編探偵小説とされています。

蒼井雄
「船富家の惨劇」(1935年)は、これも戦前では数少ない本格ミステリで、クロフツの影響を受けて書かれたといわれています。この作品はやがて鮎川哲也へ影響を与えます。


大阪圭吉
戦前を代表するトリックメーカー。20年ほど前にちょっとした大阪圭吉ブームがあり、本格ミステリ好きは誰も彼もが読んでいたものですが、創元推理文庫から出ていた短編集はいつの間にか品切れになっており、ブームは終わってしまったんだなあ、と感じます。代表作「とむらい機関車」(1936年)は、まだ『日本探偵小説全集12 名作集2』で読めます。


坂口安吾
ミステリ専業作家ではありませんが、無類の本格ミステリファンとして知られ、いくつかの名作を残しています。「不連続殺人事件」(1947年)が中でも最も有名。創元推理文庫版では雑誌連載時に他のミステリ作家へ喧嘩を売りまくっていた雑文が一緒に収録されており、楽しめます。

高木彬光
戦後デビューの本格ミステリ作家として最重要の作家です。代表作は今も光文社文庫がしっかりフォローしてくれています。本格ミステリ以外にも幅広い作品を執筆しており、個人的に一番好きなのは「白昼の死角」(1959年)なのですが、これは本格ではないですね。

山田風太郎
忍法帖など時代小説が有名ですが、本格ミステリの読者からも熱狂的に支持されています。ここのリストにあげた「妖異金瓶梅」(1954年)、「十三角関係」(1956年)、「明治断頭台」(1979年)あたりはミステリ好きは必読かと思います。

土屋隆夫
本格ミステリ冬の時代であった昭和30~40年代にも黙々と本格を発表し続けた貴重な存在。
地に足の着いた現実的な作風ですが、論理的な謎解きが楽しめます。「危険な童話」(1961年)や「影の告発」(1963年)など、代表作は過去に何度も何度も文庫になっているのですが、今はすべて品切れとなっており、このまま忘れられてしまうのはいかがなものかと危惧しています。

岡田鯱彦
本業は国文学者であり、源氏物語の世界を舞台にした代表作「薫大将と匂の宮」(1955年)で知られています。

鮎川哲也
乱歩の事実上の引退と時を同じくしてデビューし、新本格の登場まで、社会派ミステリ最盛期の時代に、ひたすら本格ミステリにこだわり続けた伝道師。現代のミステリ作家のあいだでは神格化されている存在です。「黒いトランク」(1956年)、「黒い白鳥」(1959年)、「りら荘事件」(1968年)などの代表作は過去にあちこちの文庫へ収録されていますが、今は創元推理文庫と光文社文庫とで読めます。

仁木悦子
初めて一般公募を行った第三回江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。「猫は知っていた」(1957年)など軽やかで論理的な作風で今も親しまれています。

福永武彦
ミステリ専業作家ではありませんが、「加田伶太郎」のペンネームで探偵「伊丹英典」の活躍する短編を発表しました。

日影丈吉
「宝石」でデビューしていますが、どちらかというと幻想小説の書き手という印象の強い作家です。「内部の真実」(1959年)は戦地を舞台にした本格ミステリの傑作として知られています。

佐野洋
都筑道夫との「名探偵論争」がよく知られています。かつては数多くの小説を発表していた人気作家でしたが、今やほとんど忘れられてしまっているのが残念です。「轢き逃げ」(1970年)は今読んでも面白い、佐野洋の作風を代表する傑作です。

戸板康二
本業は歌舞伎の評論家ですが、乱歩の推薦でミステリも発表していました。
「團十郎切腹事件」(1959年)、「グリーン車の子供」(1976年)がよく知られていますが、のちの北村薫などにつながる「日常の謎」の先駆者です。中村雅楽という歌舞伎役者が名探偵として登場します。

小泉喜美子
幅広い作風で知られていますが、現代においては「弁護側の証人」(1963年)が本格ミステリの名作として読み継がれています。

笹沢左保
大変な多作家であり、時代小説やサスペンス小説でよく知られているため、現代の読者には笹沢左保が本格ミステリ作家といわれてもピンとこないかも知れませんが、デビュー当初は、綾辻行人を遡ること30年近く前に「新本格派」と呼ばれ、非常にトリッキーな作品を次々発表していました。デビュー作「招かれざる客」(1960年)などが有名です。

陳舜臣
歴史小説の大家というイメージがありますが、デビューは乱歩賞を受賞したミステリ「枯草の根」(1961年)であり、初期は端正な本格ミステリを発表していました。この頃の作品を今はほとんど読めないのが残念です。

都筑道夫
鮎川哲也や土屋隆夫を並び、社会派ミステリの時代を生き抜いた本格派ですが、トリッキーで実験的な作風でミステリの人工性を徹底的に楽しんでいました。特に「猫の舌に釘をうて」(1961年)や「七十五羽の烏」(1972年)などは伝説的な存在と言ってよく、現代のミステリ作家にも多大な影響を与えています。「血みどろ砂絵」(1968年)など、論理的な短編も数多く発表しました。
「なめくじに聞いてみろ」(1968年)は、本格ミステリではなくアクション小説ですが、筆者が個人的に偏愛しているためリストへ加えています。法月綸太郎『生首に聞いてみろ』のタイトルの元ネタです(内容は全く関係ありません)。

天藤真
ユーモアミステリの第一人者。数多くの長編を発表していますが、今も読まれているのは「大誘拐」(1978年)くらいでしょうか。しかし、これは名作中の名作として、国産ミステリのベストを選ぶときには必ずあがってくるタイトルです。筆者も中学生の頃に大興奮して読みました。

中井英夫
日本三大奇書の一つとされる「虚無への供物」(1964年)の著者。三大奇書の中では最も読みやすく、作中で実在のミステリ作家に言及するなど、前半はミステリ愛に溢れているかのように見えます。
しかし、作者の狙いは「アンチミステリ」であり、後半は悲壮な展開となります。
講談社文庫と創元ライブラリから出ていますが、解説がしっかりしている創元ライブラリ版をおすすめします。いやそれどころか、創元ライブラリの解説を読まなければこの作品は完結しない、と言っても良いくらいです。

竹本健治
さて、この辺りから「現代ミステリ作家」になってきます。「ドグラ・マグラ」「黒死館殺人事件」「虚無への供物」に続く「第四の奇書」とされる「匣の中の失楽」(1978年)は、著者のデビュー作であり、今や幻といわれる探偵小説専門雑誌「幻影城」に連載されたものです。今も本格ミステリ好きのあいだではバイブルとされています。
「ウロボロスの偽書」(1991年)はミステリとは言い難い異形の物語ですが、著者の周囲の本格ミステリ作家が実名で大勢登場し、ミステリ好きにはその辺りも興味深く楽しめる作品です。
当ブログ関連記事:竹本健治を初めて読む方へおすすめの本を紹介

泡坂妻夫
竹本健治や連城三紀彦と同じく、雑誌「幻影城」からデビューしました。
筆者が最も崇拝しているミステリ作家です。
特に「亜愛一郎の狼狽」(1978年)にはじまる亜愛一郎シリーズは何度読み返したことか!
こんな記事も書いていますので、シリーズを読了された方はご覧ください。
関連記事:亜愛一郎辞典

笠井潔
幻影城作家とほぼ同時期に長編「バイバイ、エンジェル」(1979年)でデビューし、その後も「本格」に強くこだわったミステリを発表し続けています。評論活動も活発に行い「大戦間ミステリ」「本格ミステリ第三の波」などの用語を提唱しています。

連城三紀彦
一般的には恋愛小説で知られていますが、デビューは幻影城新人賞であり、凝った作風のミステリを数多く発表しており、熱狂的な読者が大勢います。「幻影城」発表作品を中心とした短編集「戻り川心中」(1980年)は、現代ミステリにおいて必読の名編が並びます。ほかにどんでん返しだらけの「夜よ鼠たちのために」(1983年)などが代表作。

島田荘司
現代本格ミステリにおける最重要作家。初期は読者の度肝を抜く大掛かりなトリックを連発し、日本中のミステリマニアを虜にしました。島田荘司を超えるトリックメーカーは後にも先にも、国内はもちろん海外を見渡しても見当たらないように思います。うっかりすると島田荘司の作品ばかりでリストが埋まりかねないため、「後発の作家へ特に強い影響を与えた作品」ということで「占星術殺人事件」(1981年)、「斜め屋敷の犯罪」(1982年)、「北の夕鶴2/3の殺人」(1984年)、「奇想、天を動かす」(1989年)の4作品を選びました。
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大予測! 島田荘司『樹海都市』収録作品

岡嶋二人
島田荘司と同時期にデビューし、新本格登場前夜に活躍しました。徳山諄一と井上泉の合作ペンネームであり、平成元年にコンビ解消後は井上泉は井上夢人と改名し、ミステリを書き続けています。デビューは「焦茶色のパステル」(1982年)で乱歩賞受賞。本格というジャンルに強くこだわるわけではありませんが、トリック重視の作風は本格好きに支持されました。「99%の誘拐」(1988年)は誘拐ミステリの傑作、そして当時の最先端ハイテク技術を駆使した実験作として、今も人気があります。

綾辻行人
いよいよ新本格の時代です。
綾辻行人デビューから30年経つのに未だに「新本格」もないんじゃないか、とか、講談社ノベルスだけの宣伝文句なのでは、とか、そもそも「新本格派」と括られることに抵抗している作家も多かったりと、この用語はいろいろ議論が絶えませんが、筆者としてはこの時代を象徴する言葉として「新本格」はふさわしいものだと思っています。
綾辻行人も代表作と言える作品は多いのですが、今回は新版「東西ミステリーベスト100」にランクインしたものをそのまま掲載しています。

法月綸太郎
新本格と呼ばれる作家たちの中で、最も「本格」に強くこだわっているのが法月綸太郎です。その姿勢はかつては評論にも現れていました。
ところが! なんと数年前に集計された新版「東西ミステリーベスト100」には法月綸太郎が一つもランクインしていないのです。驚愕しました。
どの作品も安定しており、特別突出した作品がないため票がバラけたのではないかと思われますが、この結果を見たときには「もう一度、投票をやり直してください!」と文藝春秋へ電話をかけたくなりましたね。
思うに、これは本名にも問題があると思います。法月綸太郎の本名は山田純也さんというのですが、山田風太郎の本名は山田誠也で、よく似ています。そして、山田風太郎は前回、旧版の「東西ミステリーベスト100」で一つもランクインしなかったのです。当時は角川文庫や現代教養文庫でなどで、代表作をいくらでも読むことができたにもかかわらず。この現象は、二人の本名が似ていることに原因があるのではないかと筆者としてはニラんでいるのですが……というのは、もちろん単なる暴言です。

歌野晶午
綾辻行人や法月綸太郎と同時期に講談社ノベルスから島田荘司の推薦でデビューし、押しも押されもせぬ新本格の一人です。初期から本格好きのあいだでは評価されていましたが、「葉桜の季節に君を想うということ」(2003年)の発表を機に、一般にも読者層が広がりました。

折原一
個人的には叙述トリックのみで成り立つ作品を本格ミステリとは考えていないのですが、しかし折原一の作品は好きです。あまりのストーリーテリングの上手さに、叙述トリックが仕込まれているとわかっていても騙されます。この作家も代表作は多いのですが、とりあえず「倒錯のロンド」(1989年)と
「沈黙の教室」(1994年)を掲載しました。

我孫子武丸
綾辻行人、法月綸太郎に続いて講談社ノベルスからデビューし、新本格の一人とされていますが、幅広い作風を披露しています。「殺戮にいたる病」(1992年)はサイコホラーと叙述トリックを組み合わせたもので、発表当初は「無責任社会派」などとも呼ばれたりしましたが、代表作とされています。

山口雅也
北村薫、有栖川有栖らとともに東京創元社からデビューした山口雅也は当初は「新本格」とは呼ばれていなかったのですが、今はごっちゃになっている印象ですね。
山口雅也も本格愛に満ちた作家で、決して大衆に迎合しない孤高の作風を守っている印象があります。デビュー作「生ける屍の死」(1989年)は死者が蘇る世界において論理的な本格ミステリを構築するという実験作ですが、見事に成功をおさめ、東京創元社が選んだ70年代以降の日本ミステリランキングで1位、このミスの「ベスト・オブ・ベスト」で2位など、現代日本ミステリの最高傑作とされています。

北村薫
覆面作家としてデビューした北村薫は、「空飛ぶ馬」(1989年)に始まる「円紫さんシリーズ」で「日常の謎」の代名詞となりました。
実は女性ではなくおじさんだったと判明したのちは、実作以外にも本格ミステリの語り部としてアンソロジーの編纂などでも活躍しています。創元推理文庫の「日本探偵小説全集」は作家デビュー前の北村薫が編集したもので、以前は編纂者として本名が記載されていましたが、現在では北村薫名義になっています。

有栖川有栖
「孤島パズル」(1989年)で東京創元社からデビューしたため、当初は「新本格」とは呼ばれていなかったのですが、今や綾辻行人と並ぶ新本格を代表する作家と認識されています。さまざまな作風を披露していますが、柱となっているのは、クイーンや鮎川哲也の影響を受けたガチガチの論理ミステリです。「双頭の悪魔」(1992年)がやはり代表作でしょう。

芦辺拓
第一回鮎川哲也賞を受賞してデビューしました。本格ミステリを数多く執筆しており、代表作を絞りづらいのですが、ここでは「グラン・ギニョール城」(2001年)をご紹介しておきます。


麻耶雄嵩
この辺りから「新本格第二世代」と呼ばれる作家たちになります。麻耶雄嵩はその代表格でしょう。
デビュー作「翼ある闇」(1991年)を始めとして、「本格ミステリ」にあまりに強くこだわるあまりに異形な作品を数々発表しています。
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二階堂黎人
二階堂黎人は黄金期本格への愛を強く表明し続ける作家です。初期の代表作のほとんどが品切れになっている現状が残念ですが、世界最長の本格ミステリといわれる「人狼城の恐怖」(1996年)を紹介しておきます。

加納朋子
第3回鮎川哲也賞を「ななつのこ」(1992年)で受賞してデビュー。「日常の謎」に分類される内容で、デビュー作を読んだ時は「北村薫のパクリか?」と思ってしまったものですが、その後は幅広い作風を展開し、一般読者からも人気を得ています。

京極夏彦
このリストを作るにあたって京極夏彦は「エンターテインメント編」へ入れようかとも思ったのですが、あれこれ悩んだ挙句、結局「本格ミステリ編」へ。京極作品が本格か?と問われるとYesとは言い難いのですが、それでもやはり「必読の本格ミステリ」から京極作品を外すわけにはいきません。
何の解説にもなっていないのですが、日本ミステリの歴史において、ある時代をスタートさせた人物、つまり先達から受けた影響よりも遥かに大きな影響を、後進へ与えた人物を挙げるとするならば、江戸川乱歩、横溝正史、松本清張、島田荘司、京極夏彦ということになるかと思います。

倉知淳
作品の雰囲気は、もっと一般受けしてもよさそうな読みやすいものなのですが、あまりに寡作のため本格ミステリのファン以外にはなかなか覚えてもらえない。そんな印象があります。とはいえ、デビューしてから20年以上経ち、作品数はけっこう多くなっています。どの作品も本格ですが、特に「星降り山荘の殺人」(1996年)は都筑道夫「七十五羽の烏」へのオマージュ作品として話題になりました。

西澤保彦
個人的な印象ですが、最も脳天気に「本格ミステリ」を遊んでいるのが西澤保彦です。いや、これだけ奇天烈なアイデアを生みだすのは、ご本人にしたら大変なことだろうと思いますが、本格ミステリの可能性を徹底的に追求しているにもかかわらず、「ガチガチの」という形容詞は全く無縁に自由自在にやりたいことをやっていて、とても楽しめます。初期作品は必読書揃いですが、「七回死んだ男」(1995年)がやはり代表作でしょう。

さて、以下は2000年以降に活躍を始めた作家さんたちで、未だミステリ史的な評価というものはありませんので、コメントは省略します。ただ、現代の本格ミステリがどうなっているのかを知るには、この辺が必読かな、と思います。
この中で個人的に注目しているのは森川智喜です。ライトノベル風の装丁が多いため、スルーしている方も多いかも知れませんが(筆者も「スノーホワイト」が本格ミステリ大賞をとるまではそうでした)、アクロバティックな論理ゲームと、ユーモアに満ちたストーリーテリングは近年の若手作家で随一だと思います。

殊能将之
「ハサミ男」(1999年)

大倉崇裕
「福家警部補の挨拶」(2006年)

大山誠一郎
「アルファベット・パズラーズ」(2004年)

三津田信三
「厭魅の如き憑くもの」(2006年)

円居挽
「丸太町ルヴォワール」(2009年)

森川智喜
「スノーホワイト」(2013年)


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