20170202山田風太郎060

ミステリ作家・時代小説作家として評価の高い山田風太郎ですが、エッセイ・ノンフィクションでも傑作を残しています。今回は、小説以外の代表作をご紹介します。

『戦中派不戦日記』(講談社文庫など)/『戦中派虫けら日記』(ちくま文庫など)

新装版 戦中派不戦日記 (講談社文庫)
戦中派虫けら日記―滅失への青春 (ちくま文庫)
(リンク先はいずれもAmazon)
「戦中派不戦日記」は山田風太郎が医学生だった昭和20年の日記を一年分全文収録したもので、昭和46年に発表されました。また、それに続いて昭和48年に発表された「戦中派虫けら日記」は昭和17年から昭和19年にかけて、二十歳前後の時期の日記を収録しています。
さまざまな切り口で読むことができる書であり、戦中の庶民の生活史、精神史として実に貴重な記録です。

筆者が興味を持って読んでいる「戦中派」の人物として、ほかに吉村昭と笠原和夫がいます(いずれも山田風太郎の5歳年下で、敗戦時に18歳)。この人たちの作品やエッセイなどを読んでいると、戦後日本に対して強烈な違和感を抱きながら生きていて、それを作品にも反映しているということが共通しています。
徹底した軍国主義教育を受け、神州不滅を信じていたものが、一夜にして価値観が逆転し、昨日まで徹底抗戦を訴えていた人びとが、今度は平和主義を謳いはじめる。
山田風太郎は「戦中派不戦日記」のあとがきで「いまの自分を『世をしのぶ仮の姿』のように思うことがしばしばある」と書いています。
昭和史に興味を持つ者としては、必読の2冊といえます。
この2冊の日記が高い評価を得ていたことから、晩年になってから、過去の日記が次々と単行本化されました。さすがに全部は読んでいられないので、筆者は途中で買うのをやめてしまいましたが、このあたりも、ミステリ文壇史的には貴重な史料かもしれません。

『同日同刻』(ちくま文庫)

同日同刻―太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日 (ちくま文庫)
(リンク先はいずれもAmazon)
戦前・戦後とでそのような価値観の大逆転を生むに至った太平洋戦争に対して、これをリアルタイムで体験した人びとはどのように認識していたのか。昭和16年12月8日の日米開戦、昭和20年8月15日の敗戦とに焦点をあて、「当時の敵味方の指導者、将軍、兵、民衆の姿を、真実ないし、真実と思われる記録だけをもって再現して見たい」ということで書かれたノンフィクションです。
戦後になって、作られた言葉、飾られた言葉は要らない。戦争中に何が起きていたのか、その真実だけを見たい、という作家の執念を感じます。
昭和54年に発表されました。

『人間臨終図巻』(徳間文庫・角川文庫)

人間臨終図巻1<新装版> (徳間文庫)
人間臨終図巻2<新装版> (徳間文庫)人間臨終図巻3<新装版> (徳間文庫)
人間臨終図巻4<新装版> (徳間文庫)
(リンク先はいずれもAmazon)
実は筆者が初めて読んだ山田風太郎作品は本書です。
もちろん、ミステリ好きとして、山田風太郎はいずれ何か読んでみようと思っていたのですが、本書をパラパラ眺めると乱歩の臨終についても記述があり、なんとなく買ってきた記憶があります。
一読、あまりの面白さに仰天しました。内容は、古今東西の偉人・著名人を死亡年齢順に並べ、どのような臨終であったかをひたすら列挙しただけのもの。
人の死に様を読んで「面白い」とは甚だ不謹慎ですが、しかし、山田風太郎は不謹慎にも、あまりにも面白すぎる書き方をしています。著者の筆にかかれば、どんな偉人であっても、生物学的な死は容赦なく訪れ、あっけなく世を去っていきます。死ぬのが怖くなくなる、ということはありませんが、死に対して奇妙な親しみを感じてしまうようになります。
山田風太郎の代表作として、現在も絶大な人気を誇る作品です。

『風眼抄』(角川文庫・中公文庫)

風眼抄 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)
(リンク先はいずれもAmazon)
さて、ここまで割りと重めの作品を紹介してきましたが、「風眼抄」はうって変わって、山田風太郎の小説家としてのイメージそのままのエッセイ集です。どうでもよいバカ話もあれば、インテリの側面も垣間見せる、魅力あふれる内容で、ファンにはたまらないでしょう。
個人的に最も気に入っているのは大下宇陀児の追悼記事として書かれた「大下先生」。文壇でも愛されている様子がわかります。
また、「漱石と放心家組合」の章は、誰も気づいていなかった(と言われる)「吾輩は猫である」の謎に触れた文章として、割りと有名です。

『あと千回の晩飯』(朝日文庫・角川文庫)


晩年に連載されたエッセイです。この頃の山田風太郎は、もう死ぬ、もう死ぬ、と言いながらも、まだまだ執筆を続け、実際にはそれから5年ほど生き延びましたが、老いをテーマにした内容は「人間臨終図巻」と同じく、不謹慎な面白さに満ちています。
タイトルは比喩的なものかと思いきや、実際に食べ物の話ばかり書いてあり、そのあたりも興味深い内容です。

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