201901押川春浪306

6日に放映の始まった大河ドラマ「いだてん」を見ていたら押川春浪が登場していましたので、それにちなみ、ちくま文庫の「明治探偵冒険小説集」というアンソロジーをご紹介します。
押川春浪の著書として刊行されたものとして最も新しいものは、このシリーズに収録された「押川春浪集」ではないかと思います。

このシリーズは伊藤秀雄氏が編纂しています。
氏は黒岩涙香の研究家として名高く、晶文社から刊行された『明治の探偵小説』で日本推理作家協会賞を受賞しています。引き続き三一書房から刊行された『大正の探偵小説』『昭和の探偵小説』『近代の探偵小説』が代表作でしょう。

「明治探偵冒険小説集」の1巻目は専門である涙香集で、「幽霊塔」を収録しています。ちくま文庫がこのアンソロジーを刊行したのが2005年で、これは、「幽霊塔」の原作が「灰色の女」と特定はされたものの、まだ翻訳はされていないタイミングでした。解説には、この経緯が詳しく書かれており、筆者などはこれを読んで初めて、原作が発見されたことを知ったものです。「幽霊塔」そのものは、いまや青空文庫でも読めますが、本書の刊行はなかなか意義深いものでした。

押川春浪は、代表作といえばまず「海底軍艦」が思い浮かびますが、本シリーズは「探偵小説」と銘打っているため、入っていません。「海底軍艦」の一番最後の刊本は三一書房「少年小説大系 第2巻 押川春浪集」かなと思います。これは箱入りの高価な本でしたが、実は今は青空文庫で公開されており、kindleで無料で読めます。



最終巻は短編集で、幸田露伴や谷崎潤一郎の作品が収録されています。
特に露伴の「あやしやな」は、涙香の「無惨」と並び、日本探偵小説最初期の作品とされており、アンソロジーにはときどき収録される有名な作品です。

以下、収録作品です。

『黒岩涙香集 明治探偵冒険小説集1』

幽霊塔
生命保険
解説(伊藤秀雄)

『快楽亭ブラック集 明治探偵冒険小説集2』

流の暁
車中の毒針
幻燈
かる業武太郎
解説(伊藤秀雄)

『押川春浪集 明治探偵冒険小説集3』

銀山王
世界武者修行
魔島の奇跡
解説(伊藤秀雄)

『傑作短編集 露伴から谷崎まで』

あやしやな(幸田露伴)
弁護美人(梅の家かほる)
化物屋敷(丸亭素人)
名人藤九郎
少年の悲哀(国木田独歩)
難船崎の怪(滝沢素水)
汽車中の殺人(三津木春影)
秘密(谷崎潤一郎)
指の秘密(姫山)
解説(伊藤秀雄)


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