初回にも書きましたが、乱歩の本領発揮は短編です。
乱歩の長編は本人も「通俗もの」と呼び、大衆受けを狙って書かれたものがほとんどであり、ストーリーなどはあまり練らずに書かれたものもたくさんあります。また、トリックなどはほとんどが海外ミステリのネタを流用しており、オリジナルといえるものはあまり多くありません。
特に探偵小説のことを知らない読者に向けて、面白おかしく話を聞かせる、というスタンスで書かれており、その売らんかなぶりには乱歩自身が自己嫌悪に陥って、たびたび断筆を繰り返すほどでした。

しかし、大衆は熱狂的に乱歩を支持し、現在に至るもその人気は短編よりもむしろ長編にあります。
改めて読んでみると、やはり乱歩の長編は面白いのです。怪人対名探偵という、懐かしき冒険活劇がここにはあります。
読み始めれば、おそらく全て読みたくなるだろうとは思いますが、とりかえず今回は、乱歩の長編を読むならまず必読の5作をご紹介します。

1.「孤島の鬼」

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これが乱歩の長編ベスト、というのはほぼ定説といってよいでしょう。数多くの通俗長編の中にあって「孤島の鬼」は非常に完成度が高く、謎解きミステリに加え、怪奇趣味を十分に堪能できます。
個人的にも最も思い入れが深い作品です。小学生の頃、少年探偵団シリーズを離れて、初めて読んだ大人向けの長編でしたが、インモラルな雰囲気と強烈なサスペンスとで夢中に読み耽り、ふと気づくと、いつの間にかすっかり日が暮れて、部屋は真っ暗になっていたのでした。
もう30年近く昔のことですが、今でも忘れられない読書体験です。

2.「蜘蛛男」

明智小五郎事件簿 3 「蜘蛛男」 (集英社文庫)
江戸川 乱歩
集英社
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「講談社で連載した通俗もの」の第一作。帝都を跳梁する殺人鬼と明智小五郎が対決する華やかな作品です。
破綻もほとんどなく、通俗ものの魅力はこの一冊で十分にわかります。というか、あとに続く数多くの長編は、ほぼ全部同じパターンが繰り返されます。

3.「黒蜥蜴」


舞台や映画で繰り返し上演される代表作の一つです。
ただし、これら舞台や映画は乱歩の「黒蜥蜴」を下敷きにした三島由紀夫の戯曲が原作となっています。
三島由紀夫の戯曲は文庫では現在入手できず、全集で読むしかありません。

4.「化人幻戯」

化人幻戯 (江戸川乱歩文庫)
江戸川 乱歩
春陽堂書店
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戦後の昭和30年に推理小説専門誌「宝石」に連載されたものです。一般的に知名度は高くはないのですが、これは通俗長編ではなく、乱歩の長編では唯一といってもよい本格ミステリです。乱歩自身は「失敗作」と断じていますが、力を込めて執筆したことがよく伝わります。密室トリック、アリバイトリックなどを駆使した作品です。
また、乱歩には珍しい戦後中間小説的な官能描写も注目です。

5.「幽霊塔」

幽霊塔
江戸川 乱歩
岩波書店
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先日、涙香の「幽霊塔」をご紹介しましたが、これの乱歩版です。
翻案なので、ストーリーが破綻することはあり得ませんが、乱歩らしさが濃厚に漂う名作となっています。

以上、長編はいろいろなバージョンが出ていますので、どのシリーズ、全集を買おうか迷うかと思いますが、それぞれの全集のご紹介は、次回以降いたします。

関連記事:
江戸川乱歩入門 その1 名作短編集のおすすめ
江戸川乱歩入門 その2 明智小五郎事件簿
江戸川乱歩入門 その3 少年探偵団シリーズ
江戸川乱歩入門 その5 創元推理文庫版
江戸川乱歩入門 その6 春陽文庫版(短編)
江戸川乱歩入門 その7 春陽文庫版(長編)
江戸川乱歩入門 その8 光文社文庫「江戸川乱歩全集」
江戸川乱歩入門 最終回 講談社「江戸川乱歩推理文庫」

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