ジェイン・オースティンの「高慢と偏見」は、古典文学として非常に有名ですが、難しそうなタイトルで敬遠している方も多いのではないでしょうか。
しかし、思い切って手にとってみるとそれこそ全くの偏見であったと思い知らされます。古きよきイギリスの田園を舞台にした愉快な恋愛小説……というより、ほとんどラブコメ少女漫画の世界といって差し支えありません。

古典文学の傑作として名高いだけに、翻訳も種類が多く、どれを読むべきか迷うこともあるかと思います。
どのような本が出ているかご紹介します。

自負と偏見 (新潮文庫)
ジェイン オースティン
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個人的に最もおすすめなのは新潮文庫の新訳です。楽しい雰囲気で読みやすく、しかし過度にくだけて風格を損なうということもなく、存分に堪能できます。

ただし、一点残念なのはタイトルが「高慢と偏見」ではないこと。訳としてはどちらも間違っているわけではありませんが、世間では「高慢と偏見」という邦題でよく知られています。
「高慢と偏見」は読んだことあるよ、と口に出すと軽く嘘をついているような罪悪感に囚われますが、かといって「自負と偏見」と言っても、相手によっては通じません。
新潮文庫版の読者に共通する悩みです。

高慢と偏見〔新装版〕 (河出文庫)
ジェイン・オースティン
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河出文庫版は阿部知二訳です。Wikipediaによれば、1963年に翻訳されました。
阿部知二の翻訳は一般的に読みやすいと思いますが、「高慢と偏見」については他にもっと読みやすい訳が出ているため、やや分が悪いです。とは言え、このくらいちょっと古めの訳のほうが格調があり、古典文学に向いているという意見もあり、この本もよく売れています。
また、「高慢と偏見」のタイトルで一巻にまとまっているものは、河出文庫版のみで、その点でも人気があります。(他の文庫は、全て上下に分冊されています。一巻本は河出文庫と新潮文庫のみ)

-------------------2018/01/10追記-------------------
この記事は2017年5月に書いたものですが、その後、12月に中公文庫からも一巻本で新訳が出ました。

高慢と偏見 (中公文庫)
ジェイン・オースティン
中央公論新社
2017-12-22


これが、とてもすばらしい内容です。
翻訳は大島一彦氏。中公新書「ジェイン・オースティン」という著書もあり、これまでにも中公文庫から「マンスフィールド・パーク」「説得」の翻訳を出しています。
筆者は「マンスフィールド・パーク」を中公文庫の大島訳で読んだのですが、とても読みやすく、また風格のある文章で訳されていました。
オースティン研究の第一人者による、満を持しての「高慢と偏見」新訳と言えるでしょう。
というわけで、訳文や注釈については新潮文庫と優劣つけ難いのですが、一つ決定的に優位なことがあります。それは挿絵です。中公文庫版は挿絵付きなのです。
1894年の版に添えられたヒュートムソンという画家の挿絵を収録しています。もっとも、「高慢と偏見」が発表されたのは1813年なので、初刊から80年も経っての挿絵ですが、まあ、この頃の80年は現在に比べれば、生活や文化にさほど大きな違いを生んではいないと思われますので、作品世界の理解を助け、堪能するのに十分な内容です。
筆者もこの本で初めてこの世界に触れたかった、と思ってしまう内容ですが、やはり価格が少々高い点が引っかかる方もいるでしょう。中公文庫版は税込み1188円です。(ちなみに新潮文庫版は961円)
いずれにせよ、この名作を読む選択肢が増えたのは、良いことだと思います。
-------------------2018/01/10追記ここまで-------------------


高慢と偏見 上 (ちくま文庫 お 42-1)
ジェイン オースティン
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高慢と偏見 下 (ちくま文庫 お 42-2)
ジェイン オースティン
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ちくま文庫版は、他の翻訳に比べると「くだけすぎ」という評価があります。とはいえ、それだけ非常に読みやすい訳文です。
最大の魅力は、ちくま文庫からはジェイン・オースティンの全作品が同じ訳者で刊行されていることです。
背表紙とをきれいに揃えて本棚へ並べることができます。はじめからジェイン・オースティン読破を予定しているのであれば(予定は未定を含めて)、ちくま文庫版で読み始めるとよいでしょう。
デメリットとしては、お値段が他よりもやや高めです。

そのほか、以下のようなバージョンがあります。

高慢と偏見〈上〉 (光文社古典新訳文庫)
ジェイン オースティン
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高慢と偏見〈下〉 (光文社古典新訳文庫)
ジェイン オースティン
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現在入手可能な翻訳では、唯一の女性の翻訳家です。女性作家による女性向けの小説なので、訳者も女性が良い、という読者には好評です。

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