「仁義なき戦い」などで知られる映画脚本家・笠原和夫の著作をまとめてみます。
代表的な著作である『昭和の劇』を読むとよくわかりますが、笠原和夫が好んで書いたテーマは、ひとことで言えば「昭和の闇」です。

・ヤクザ……「仁義なき戦い」「日本侠客伝」「博奕打ち総長賭博」など
・戦争……「二百三高地」「大日本帝国」「あゝ決戦航空隊」など
・テロ……「日本暗殺秘録」「226」など
そのほか、未映画化作品の「昭和の天皇」「実録・共産党」など、他の脚本家が恐れをなすようなシナリオも積極的に引き受けています。
笠原和夫の特長として、徹底的な取材があります。リアルな脚本に反映されるのはもちろんのこと、取材の裏話、こぼれ話をエッセイやインタビューなどで遺しており、それが昭和裏面史として格別に面白い読み物となっているのです。
映画好きはもちろんのこと、昭和史が好きな人間には笠原和夫の著作は非常に興味深いものです。

シナリオ関連

2002年末に亡くなった笠原和夫は、最晩年にインタビュー集『昭和の劇』を遺しています。
氏が書いたシナリオについては、この一冊で、すべてが濃密に語られています。
笠原和夫という脚本家を知るために、まず読むべきはこの本です。
どんなネタでも飯の種にしてしまう東映という会社。それに真剣につきあって、傑作をものにする脚本家。その対比の面白さがまずあります。また、冒頭に書いたとおり、脚本製作の背景には昭和史への深く鋭い洞察があります。ともかく全ページ興味深い話題が満載で、この本1冊で何ヶ月か退屈せずに過ごせるくらいです。
筆者が「無人島へ行くとき持っていく1冊」を選ぶとしたら、数千冊の我が家の蔵書から、間違いなく本書を選びます。



(リンク先はAmazon。古本のみ販売)


笠原和夫が書いた主要なシナリオを集めたのが『笠原和夫 人とシナリオ』です。
これは没後に刊行されました。
笠原和夫の真髄を知るには、やはりシナリオそのものを読むのが一番です。作品によっては、映画を見る以上に迫力を感じます。特に「博奕打ち 総長賭博」「あゝ決戦航空隊」は読み応えがあります。
収録作品は以下のとおりです。
「股旅 三人やくざ 秋の章」「博奕打ち 総長賭博」「日本暗殺秘録」「博奕打ち いのち札」「仁義なき戦い 代理戦争」「あゝ決戦航空隊 」「県警対組織暴力」
荒井晴彦による編集後記によれば、「日本暗殺秘録」は、ビデオ化されないだろうから、ということで収録したとのことですが、本書刊行後7年ほど経ってからDVDが発売されて驚きました。
笠原和夫 人とシナリオ
シナリオ作家協会
2003-12

(リンク先はAmazon。古本のみ販売)


シナリオ集としてはほかに、代表作である「仁義なき戦い」シリーズをまとめた本も出ています。



さらに、「仁義なき戦い」執筆時の取材メモをまとめたものも没後に刊行されました。通読するものではありませんが、笠原和夫の偉大さを肌で感じ取れる一冊です。

「仁義なき戦い」調査・取材録集成
笠原 和夫
太田出版
2005-07-09


こちらも没後にまとめられた本ですが、シナリオ制作の極意を語ったもの。
収録されている「秘伝シナリオ骨法十箇条」では北野武映画をシナリオ作法の観点から痛烈に批判して、話題となりました。

映画はやくざなり
笠原 和夫
新潮社
2003-06-01

《エッセイ》

笠原和夫はエッセイもいくつか残しています。
こちらは、数多くのやくざ映画を執筆した氏が、取材を通して知り得たやくざの実像、またそこで出会った男たちについて綴ったもの。やくざ映画ファンには興味深い話題が満載です。

破滅の美学 (ちくま文庫)
笠原 和夫
筑摩書房
2004-02-11


次は自伝的なエッセイです。戦中戦後を通して体験したエリート街道とはほど遠い凄絶な生き方が、その後の笠原作品の根っこにしっかりと横たわっているということがよく理解できます。



次回は、笠原和夫のシナリオが収録された本をご紹介します。

関連記事:
笠原和夫 シナリオコレクション


関連コンテンツ