備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

ボーゲンヘルパーの威力

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さて、スキーが大好きな我が家としては、昨シーズンは記録的な雪不足のためほとんどスキーへ行けず、ストレスをためまくっていたのですが、今年は大雪!
災害レベルの降り方だっため、単純に喜んでいるのもいかがなものかと思わなくもないのですが、それでもやはりスキー好きにはありがたいシーズンとなりました。

そんなわけで、週末ごとにスキーへでかけていたところ、初めて板を履いた幼稚園児の三男がめきめき上達。初心者コースであれば全く問題なく滑ることができるレベルになりました。
長男は中級コースでも平気で滑れるようになっていますし、三男がこれだけ上達すれば、いよいよ初心者向けのスキー場を脱して、もっと楽しいゲレンデへ行けるようになるかもしれない!

そう期待したのですが、ところが、問題は次男。
小学2年生ですが、もともと運動は苦手で、なかなか根気強く練習するということをしません。
弟がすいすい滑っている隣で、立っているのもおぼつかない状態。練習しようにもすぐに飽きてしまって、ほんの僅かな距離すら滑ることができません。
せっかく今後の家族スキーに期待が膨らんだところで、これは由々しき事態です。

そこで、妻の提案で「ボーゲンヘルパー」を購入しました。
クリップで板の先端を固定して、自然と「ハ」の字になるようにする補助器具です。
近所のスポーツデポ(アルペン)で売っていました。

しかし当初、私としてはこれに懐疑的でした。
こんなもんで本当に滑れるのか?
とはいえ、これが最後の頼みの綱と握りしめ、次男1人を特訓のため六甲山スノーパークへ連れてきました。

なんとかうまく滑ってくれ。
祈りながら、次男の板へボーゲンヘルパーをはめ、一発目の滑りがこちら。


ええええ~っ!
なんと、いきなり普通に滑れているではありませんか。
滑り始める前に次男には「足を開いたら止まって、閉じたら滑るよ」とだけ、口頭で指導したのですが、それ以外、何も練習していません。要するに、その前週、立っていることすらまともにできなかった状態から、突然コレです。
自転車の補助輪のようなもので、かなり強力な武器だったということがよくわかりました。

そんなわけで、翌週、改めて大きなスキー場へ連れていったところ、こんな感じ。
姿勢は悪いものの、すいすい滑っていて、本人もしっかり楽しんでいます。
はじめはうまくできなかったターンもバッチリできるようになって、初心者コースであればなんの不安もない状態になりました。


楽しく滑っているうちにコツも掴めたようで、撮影はしていませんが、この日の最後は、器具を外してもなんとか滑れるようになりました。
感涙……

そんなわけで、お子さんがなかなか上達しない、というとき、これはおすすめです!
我が家が買ったのは、スポーツデポ(アルペン)で売っている「ボーゲンヘルパー」ですが、これはAmazonでは扱っていないようです。
Amasonの類似商品としては以下のものがあります。
機能的には全く違いは無いようです。



ドラマ「高校教師」(1993)はギリシア悲劇?

12年前に買ったテレビの調子が悪くなってきて、頻繁に画面が乱れるようになってきました。
買い替え時だろうということで、BRAVIA「KJ-43X8500H」を購入しました。
すると、ちょうどキャンペーン中ということでU-NEXTとHuluが3ヶ月間無料という特典がついてきたのです。

一度U-NEXTを覗いてみたいと思っていたので、願ったり叶ったり。さっそく加入したわけですが、しかし結局のところ「見放題」できるコンテンツは非常に限られていますね。
それなりに配信数は多いものの新作や人気のコンテンツは軒並み追加料金がかかります。
とはいえ、旧作の邦画はなかなか充実しています。これまでの人生で見逃してきた邦画をせっせと消化することにしました。

そこで見かけたのが、1993年のドラマ「高校教師」。
もう27年も前のドラマになるのか。放映時は筆者は高校2年生。そう、ヒロインと同じ学年です。周囲の友人はほぼ全員が見ていると言っていいくらい、かなり話題になっていました。
ところが、筆者は当時は何回かチラッと見た程度で、まともに見ていませんでした。
そのまま改めて見る機会はなく、どんなストーリーなんだか全然知らないまま、これまでの人生を過ごしてきました。

放映時に見ようという気にならなったのはいろいろ理由があって、まずヒロインの桜井幸子がオバチャンにしか見えなかった。「え?こんなオバチャンが俺と同い年?」と、その時点でリアリティゼロ。桜井幸子の実年齢が自分より2つ上という情報は持っていなかったのですが、この頃は1つ2つでも年の差を敏感に察知していたわけです。
また、真田広之は更に輪をかけたオッサン。大河ドラマ「太平記」で高氏を演じたあとなので、もうこっちとしてはオッサンにしか見えないのです。
岡村靖幸が「35の中年」と歌うのを何の違和感もなく聞いていた年頃ということもあり、「女子高生のふりをしたオバチャンがオッサンとよろしくやっている」という程度の認識で、世間の評判を聞いてもなんの興味も持たなかったわけです。

この認識は、まあヒドイといえばヒドイものですが、当時の筆者には正しいものだったと思います。
要するにそもそもこのドラマ自体が「お子様お断り」だったということかもしれません。
40代も半ばになった今頃になってから、とりあえず第一話だけ見てみようと再生をはじめたところ、「あれ?桜井幸子ってこんなに可愛かったの?」「うわ、真田広之、若い!」と、むかし違和感を持っていたポイントは全て解消されていることが確認されました。

さて、過激な設定で評判になったドラマですが、実際に見てみるとこれはドラマとして恐ろしくよくできていますね。
その後の野島伸司の「家なき子」とか「ひとつ屋根の下」あたりは「高校教師」よりはまともに見ていたのですが、単なる不幸の釣瓶打ちで、あざとさしか感じませんでした。
野島伸司はそういう脚本家だと思っていたのですが、しかし「高校教師」を見て認識が大いに変わりました。
人物設定や事件一つ一つが、扇情的なものであっても主人公2人を悲劇に向かわせるため、歯車としてがっちりと機能しています。

Wikipedia の記事を見ると、野島伸司は企画のコンセプトとして「ギリシャ神話のような作品」ということをあげていたそうです。
この発言の出典があげられていないため、正確にはどのような文脈で語られたものかわかりませんが、筆者としてはこれは「ギリシア悲劇のような作品」ということだったのでは?と推測します。

ギリシア悲劇は古代アテネで上演されていた、神話に材をとった演劇です。
戯曲がいくつか残されており、現代でも古典文学として親しまれていますが、おそらく野島伸司が意識したのは神話よりもこちらの方でしょう。
人智が及ばぬ圧倒的な運命と、人間が本来的に持つ愛情、嫉妬など正負の感情とが絡み合う展開が特徴です。
その観点で「高校教師」を見ると、繭と羽村それぞれが人間的に複雑な事情を抱えたこのタイミングで出会うこと自体が運命的ですが、その性格や行動はもちろん、主人公たちの力ではどうしようもない周囲の思惑や偶然に翻弄され、悲劇的な結末へ向けて一直線に進んでいきます。
この「一直線」というところが若干の不満点で、もう少し2人の関係に潤いを与えてあげてもよかったのでは?と思うくらい、連続ドラマでありながら急展開ですが、逆に言えば一つ一つのエピソードやセリフにほとんど無駄がなく、役者の演技にも緊張が漲っているように感じました。
この頃からシェイクスピア役者としても活動を始める真田広之の代表作の一つとされているのもむべなるかな。

とまあ、27年も昔の大ヒットドラマを今さら絶賛するのもいかがなものかと思いますが、結局、全11話を2日で完走したうえ、印象に残るシーンをちょこちょこと見返すという生活をここ数日続けております。
シナリオが出ていたら読みたいくらいですが、出ていないようですね。

ギリシア悲劇〈1〉アイスキュロス (ちくま文庫)
アイスキュロス
筑摩書房
1985-12-01


高校教師 Blu-ray BOX(1993年版) [Blu-ray]
桜井幸子
ポニーキャニオン
2019-03-20


関連記事:
ギリシア神話を知るには、おすすめの本はどれ? 大人から子どもまで各種紹介

「A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る」(立東舎)は映画秘宝の忘れ形見?

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書店の映画本コーナーへ行って、のけぞりました。
こんな本が出ていたの、全然気づいていなかった……
10月末に刊行された「A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る」(立東舎)です。
750ページもある大著。
全監督作について、詳細なインタビューに答えています。

この手の、映画人に対する全作品インタビューという企画が私は大好きで、これまでにも笠原和夫、深作欣二、中島貞夫、小林正樹、佐藤純彌、野村芳太郎(インタビューじゃないけど)、といろいろ読んできましたが、それらと比較しても1作品に対するページ数や掘り下げなど、群を抜いている仕上がりと感じました。
私が最も好きな大林映画は高校一年生のとき、なんとなく一人で見に行ってとんでもない衝撃をくらって帰ってきた「ふたり」ですが、石田ひかりのエピソードはもちろん、製作のきっかけや技術面など詳細に語っていて、堪能しました。
さらに素敵なのが、大林宣彦映画と縁の深かった人やファンを公言している著名人から「一番好きな作品」についてアンケートを取り、その中で寄せられた大林監督への質問一つ一つ、丁寧に回答しているコーナー。監督の真摯な人柄を感じます。
「ふたり」の脚本は、大林監督の盟友・桂千穂ですが、桂氏は最も好きな大林映画として「ふたり」を挙げていて、それもとてもうれしく感じました。

真摯な、といえば本書を開いて真っ先に注目したのは問題作「漂流教室」について。
予想外の内容に驚きました。
ドタバタしていた舞台裏を打ち明け、真摯な反省を口にしています。
以前、「映画秘宝」に楳図かずおのインタビューが載ったとき、「漂流教室」から20年近く経っていたにも関わらず、未だに仕上がりに激怒していたので、監督の方はどんな風に思っているのかな、と気になっていたのですが、本書のインタビューを読んでなんだかホッとするような気持ちになりました。大森一樹による「漂流教室」評も、大林監督に対する愛を感じました。

ところで本書ですが、立東舎からこんなに分厚い映画本が出るとは意外な、と思ったのですが、インタビュアーを務めた馬飼野元宏氏による序文を読むと「出版を予定した版元の消失」とあり、なるほど、これは洋泉社から映画秘宝コレクションか何かの形で刊行される予定だったようです。
映画秘宝バージョンの装丁だったらどんな本になっていたのか、それも見てみたかった気がしますが、実際に刊行された本書の装丁はとてもいい感じで、永久保存版として書棚を飾るのにふさわしい一冊です。


「仁義の墓場」裏話もたっぷり収録された「文藝別冊 渡哲也」

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河出書房新社のムックシリーズ「文藝別冊」から渡哲也特集号が刊行されました。

渡哲也といえば、「西部警察」大門軍団のイメージが強いのですが、個人的にはあまりそこには思い入れがありません。中学生のころ(平成元年ごろ)は、夕方に帰ってくるとほぼ毎日「西部警察」が再放送されていて、当然熱心に見ていたわけですが、当時はこの世で一番カッコいい男は舘ひろしだと思い込んでいて、ポッポこと鳩村刑事目当てで見ていたわけです。
同じ時間帯に裏で「あぶない刑事」の再放送をやっていると、そっちを見ていたりして、特に渡哲也には注目をしておりませんでした。
では、渡哲也といえば何が真っ先にあがるかといえば、深作欣二監督の名作「仁義の墓場」です。
渡哲也が亡くなったことで大門軍団にフォーカスした書籍や雑誌特集などが色々出ているものの、それらはすべてスルーしていました。
文藝別冊もそれほど期待はしていなかったのですが、書店でパラパラと眺めると前半を春日太一氏が責任編集ということで「仁義の墓場」についてもかなりページが割かれていました(なんと多岐川裕美のインタビューまで!)。
一気にテンションが上って買ってきたわけです。

「仁義の墓場」は私が生まれた年に公開された映画なので、見たのは大人になってDVDが発売されてから。実録シリーズの一つとして、特に予備知識もなく見たのですが、これは強烈でした。
以降、何度も見直しています。
鴨井達比古によるシナリオが深作欣二のお気に召さず、松田寛夫、神波史男によって改稿(というレベルではなくイチから作り直した)シナリオを元に撮影されています。
それを含めた製作過程については、これまでに
・深作欣二へのインタビュー(ワイズ出版「映画監督 深作欣二」に収録)
・鴨井達比古による第四稿とエッセイ(月刊「シナリオ」1975年5月号に収録)
・神波史男による鴨井達比古への反論エッセイ(「映画芸術」2012年12月増刊「ぼうふら脚本家神波史男の光芒」に収録)
などで読んでいました。
それぞれ比較すると話に若干の食い違いがあるように感じるものの、総じて「大変だった」ということになるのですが、今回の「文藝別冊 渡哲也」に収録された助監督・梶間俊一氏へのインタビューはこれまで読んだ中で最も面白い内容でした。
シナリオを巡るトラブルはサラッとしか触れていませんが、タイトルバックのエピソードからして抱腹絶倒。深作欣二がどんな風にすごい監督だったかということが、非常によくわかります。
余談ですが、私が「仁義の墓場」で一番好きなのはこのタイトルバックで、自分の結婚式のとき、恒例の「生い立ちビデオ」はこのタイトルバックのパロディにしようと思っていたくらいなのですが、音源が手に入らず、うまくまとめるセンスもないため諦めました。

渡哲也や田中邦衛の怪演についても壮絶な話ばかりで、いやこれはほんと、シナリオ云々を超越して「深作欣二と渡哲也の映画」だったんだなあ、と思いました。
梶間俊一、多岐川裕美のインタビューを合わせて、「仁義の墓場」については20ページも語られています。ファンはお見逃しなく。

渡哲也 (文藝別冊)
河出書房新社
2020-11-25


中村義洋監督「残穢」(2016年)主人公の本棚に並んでいたのは?

前回の記事にも書いたとおりNetflix初体験中なわけですが、当初の目的である「呪怨」と「アイリッシュマン」を片づけたあとは、これまでなんとなく見逃していた映画をボチボチと観ています。

そんな一つが2016年の「残穢」。言わずとしれた小野不由美原作のホラーです。
原作は刊行されてすぐに読んでいて、映画もそのうち観よう、とは思っていたのですが、そのままになってしまっていました。
せっかくなのでこの機会に鑑賞したのですが、まあ今更すぎるので詳細な感想は省略するとして(ひとことだけ言っておくと、予想していたよりはかなり怖くて、楽しめました!)、本筋と関係ない部分で一点、気になったことが。

このシーンです。
(ちなみ違法にスクリーンショット撮ったわけではなく Android のアプリだと普通の手順で撮れます)

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橋本愛演じる女子大生が、隣室の物音に気づいてふすまを開けるシーン。奥に本棚が見えます。
スクリーンショットだとやや画像が荒くなってわかりづらいのですが、実はHD画質でテレビの画面で見ると書名がわかります。

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といっても全部わかるわけではありませんが、読み取れたものを並べると、下記の通り。







終着駅殺人事件 (カッパ・ノベルス)
西村 京太郎
光文社
1980-07


悪魔の人質 (カッパ・ノベルス)
笹沢 左保
光文社
1982-11


なんだなんだこの並びは。
一応、時代設定は映画公開とほぼリアルタイムということになっているようですが、これはちょっと、今どきの女子大生の本棚じゃないですね。(笹沢左保と西村京太郎は完全にオジサン向け!)
小野不由美の旦那さんである綾辻行人の作品があるのはわかりますが、ほかの作家は全く女子向けでないうえ、発売時期も古すぎる。
さらに、このカッパ・ノベルス推しは誰の趣味なんでしょう?
といっても、折原一、島田荘司、綾辻行人のこの辺の作品は、私もカッパ・ノベルスでリアルタイムで読んでいたため、妙に懐かしい気分になりました。(背表紙をチラッと見ただけでピンときたのは自分も持っていた本だからです)

という風にノベルスは謎のラインナップですが、一方、単行本は女子大生の蔵書として比較的まともです。

Another
綾辻 行人
角川書店(角川グループパブリッシング)
2009-10-30








第十の予言
ジェームズ レッドフィールド
角川書店
1996-06


いや、訂正。佐々木譲「ワシントン封印工作」は変だ。この並びでなぜ佐々木譲が入ってくる??

まあ、性別や年齢で読む本を規定する必要はなく、女子大生らしくない、というのは全くの私の主観というか、言いがかりに近いものではあるのですが、とはいえやはり不思議なラインナップです。
現場に本好きのスタッフがいたら、「これはちょっとおかしいのでは?」と監督へ進言することになるのでは、と思われますが、一方で妙に筋は通っていて、全く本のことを知らない人がデタラメに並べた本棚とは思えない。
セットではなく、誰かの家で撮影して、そこにもともとあった本棚へ女子大生っぽい本をちょこちょこ追加してみたという感じなんでしょうか?

実を言えば前述のとおり、私はここに並んでいる折原一、島田荘司、綾辻行人のノベルス作品はリアルタイムで読んでおり、単行本の方も「ワシントン封印工作」だけは文庫で読みましたが、あとは単行本で読んでいます。妙に自分の趣味ともかぶっている。(いや一つだけ、「第十の予言」は読もうと思ったことすらありません)

いろいろと思い巡らせてしまいますが、Netflixではメイキング映像は配信していないうえ、もしメイキングを見たとしても本棚の選書については触れていないだろうと思いますので、これは全く本編中の怪奇現象以上に謎です。

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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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