備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

横溝正史はなぜ岡山へ疎開したのか

20170526探偵小説五十年079

横溝正史の代表作といえば「本陣殺人事件」「獄門島」「八つ墓村」「悪魔の手毬唄」と、岡山を舞台にした作品が目立ちます。
太平洋戦争末期に横溝正史は岡山へ疎開し、そこで終戦を迎え、「本陣殺人事件」「獄門島」を執筆したことはよく知られています。
疎開先で知った習俗や怪談をネタにして本格探偵小説の傑作を次々と発表したことから、ミステリファンのなかには「横溝正史がたまたま・・・・岡山のような土地へ疎開したのは、日本ミステリのためにはすごくラッキーだった……」と考えている方がいるかも知れません。
筆者もずっとそう思っていたわけなのですが、実は、横溝正史が岡山へ疎開してその地を舞台にした本格ミステリを執筆したのは、偶然ではないのです。

 昭和二十三年三月九日、本所深川方面が大空襲でやられたとき、わたしは吉祥寺に住んでいた。当時わたしの住んでいた吉祥寺の家の周辺には、たくさんの空地があったから、ああいうショウイ弾攻撃をうけたとしても、本所深川方面ほどの、深刻な被害をうけようとは思えなかった。したがって、わたしは疎開する気は毛頭なかったのである。
 ところでその直後に新聞でこの報道をよんだ岡山の親戚から、家があるからぜひ疎開してくるようにとの親切な勧誘をうけた。このときそれが岡山でなく、もっとほかの地方だったら、わたしはこの勧誘を断ったにちがいない。それが岡山だったゆえに、わたしはこの勧誘にとびついたのである。なぜならば、岡山-瀬戸内海-孤島ととっさに脳裡でむすびついてきたからなのである。
戦争中、時局に遠慮した出版界が探偵小説の掲載を見合わせるようになり、横溝正史は本格ミステリへの激しい飢餓を感じるようになります。
そこへ降って湧いた岡山への疎開の話。
横溝正史は岡山を「安全な疎開地」ではなく「本格ミステリのうってつけの舞台」と直感し、来るべき終戦の日に備えてネタを仕込むために岡山へ赴いたというわけなのです。
終戦の詔勅(=玉音放送)をラジオで聞きながら、「さあこれからだ」と快哉を叫んだエピソードは有名ですが、その前からずっと、もうヤル気満々だったわけです。

この話はいくつかのエッセイで回顧していますが、いずれも金田一耕助シリーズが成功したのちに書かれたもので、いくらかはサービス精神的なものを含んでいるようにも感じます。
しかし、それにしても筆者としては感動的なエピソードと思っています。

まずなにより、孤島あり、山村ありの岡山という土地を本格ミステリの舞台にちょうどよいと判断する作家としての嗅覚。
横溝正史の両親が岡山の出身で親戚がいたりなど多少の土地鑑があったという事情もあるでしょうけれど、やはり四六時中ミステリのことだけを考え続けている「鬼」ならではです。
さらに、時局への鋭い洞察。
戦争中は心底「神州不滅」を信じていた人もいるなかで、海外文芸を読み漁ることによって得た常識的な感覚は、来るべき時代を正確に予見していました。
やはり、信頼に足るべき人物の知見は、信頼に足るのです。
話がずれますが、ミステリに限らず、筆者が深く信頼している本の書き手をTwitterなどでフォローしていると、政権や世論がいくら右傾化しても常にブレることなく別方向の認識を示しています。何十年も信頼できる本を書いている人たちのことは、ずっと信頼し続けてよいということを、この横溝正史のエピソードからも判断できると思います。

いずれにしても、我々は横溝ミステリを生んだ岡山、というよりも、岡山をミステリの舞台に選んだ横溝をやはり尊敬すべき、ということになります。

2018年9月 文庫新刊おすすめ情報

来月の文庫新刊をご紹介します。要チェックのものはコメント付き。(書名からのリンク先はAmazon)

朝日文庫

ガンディーに訊け
 中島岳志 本体予価:713

院内カフェ
 中島たい子 本体予価:734

ダンシング・ウィズ・トムキャット(3)ドラゴンを墜とせ!
 夏見正隆 本体予価:864

D-死情都市吸血鬼ハンター(34)
 菊地秀行 本体予価:799

岩波文庫

三島由紀夫紀行文集
 佐藤秀明 本体予価:未定

魔法の庭・空を見上げる部族 他十四篇
 カルヴィーノ 和田忠彦 本体予価:未定

源氏物語(4) 玉鬘―真木柱
 柳井滋 室伏信助 本体予価:未定

岩波現代文庫

自由という牢獄 責任・公共性・資本主義
 大澤真幸 本体予価:未定

またの名をグレイス(上)
 マーガレット・アトウッド 佐藤アヤ子 本体予価:未定

またの名をグレイス(下)
 マーガレット・アトウッド 佐藤アヤ子 本体予価:未定

鹿児島戦争記 実録 西南戦争
 篠田仙果 松本常彦 本体予価:未定

角川文庫


 赤川次郎 本体予価:未定

自殺行き往復切符
 赤川次郎 本体予価:未定

今日の別れに
 赤川次郎 本体予価:未定

本日は悲劇なり
 赤川次郎 本体予価:未定

悪の華
 赤川次郎 本体予価:未定

恐怖の報酬
 赤川次郎 本体予価:未定

明日なき十代懐しの名画ミステリー(4)
 赤川次郎 本体予価:未定

暴れん坊将軍(2)獄中の花嫁
 井川香四郎 本体予価:未定

外資のオキテ
 泉ハナ 本体予価:未定

櫻子さんの足下には死体が埋まっているキムンカムイの花嫁
 太田紫織 鉄雄 本体予価:未定

未解決同心 大貫喜十郎(仮)
 沖田正午 本体予価:未定

真実は間取り図の中に半間建築社の欠陥ファイル
 皆藤黒助 本体予価:未定

メゾン・ド・ポリス(2)退職刑事とエリート警視
 加藤実秋 本体予価:未定

町中華とはなんだ昭和の味を食べに行こう
 北尾トロ 下関マグロほか 本体予価:未定

謀略軌道新幹線最終指令
 北上秋彦 本体予価:未定

豹変
 今野敏 本体予価:未定

ビストロ三軒亭の謎めく晩餐
 斎藤千輪 本体予価:未定

地球上の全人類と全アリンコの重さは同じらしい。
 椎名誠 本体予価:未定

青春は探花を志す金椛国春秋
 篠原悠希 本体予価:未定

入り婿侍商い帖大黒屋の行方(1)
 千野隆司 本体予価:未定

火の鳥(7)乱世編(上)
 手塚治虫 本体予価:未定

火の鳥(8)乱世編(下)
 手塚治虫 本体予価:未定

黒い紙
 堂場瞬一 本体予価:未定

警視庁監察室(2)報復のカルマ
 中谷航太郎 本体予価:未定

房総の列車が停まった日
 西村京太郎 本体予価:未定

日本敵討ち異相
 長谷川伸 本体予価:未定

ミネルヴァの報復
 深木章子 本体予価:未定

日本敵討ち集成
 伊藤昌輝 長谷川伸 本体予価:未定

茜屋清兵衛 商い日記(仮)
 誉田龍一 本体予価:未定

子連れ侍江戸草紙
 経塚丸雄 本体予価:未定

神さまのいる書店まほろばの夏
 三萩せんや 本体予価:未定

夕暮れ密室
 村崎友 本体予価:未定

ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい
 クリスティン・バーネット 永峯涼 本体予価:未定

河出文庫

マイ・フーリッシュ・ハート
 秦建日子 本体予価:734

呪文
 星野智幸 本体予価:691

志ん生一家 おしまいの噺(仮)
 美濃部美津子 本体予価:734

紅殻駱駝の秘密
 小栗虫太郎 本体予価:821

シャッフル航法
 円城塔 本体予価:799

秘文鞍馬経
 山本周五郎 本体予価:713

この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた
 ルイス・ダートネル 東郷えりか 本体予価:1058

ハルキ文庫

幻想古書店で珈琲を  あなたの物語
 蒼月海里 本体予価:518

冬に光は満ちれど ブラディ・ドール(13)
 北方謙三 本体予価:670

ランチ刑事の事件簿シリーズ(2)(仮)
 七尾与史 本体予価:未定

タイムメール
 鯨統一郎 本体予価:未定

フェルメールの街
 櫻部由美子 本体予価:未定

講談社学術文庫

日本永代蔵
 井原西鶴 矢野公和ほか 本体予価:未定

天皇の歴史(10)天皇と芸能
 渡部泰明 阿部泰郎ほか 本体予価:1328

カントの「悪」論
 中島義道 本体予価:1404

日本近代科学史
 村上陽一郎 本体予価:1026

中世都市 社会経済史的試論
 アンリ・ピレンヌ 佐々木克己 本体予価:1350

講談社文芸文庫

底ぬけビンボー暮らし
 松下竜一 本体予価:1836

隠れたる事実 明治裏面史
 伊藤痴遊 本体予価:2376

講談社文庫

昭和探偵
 風野真知雄 本体予価:648

増補改訂版 もう一つの「バルス」 ―宮崎駿と『天空の城ラピュタ』の時代―
 木原浩勝 本体予価:未定

夫のちんぽが入らない
 こだま 本体予価:未定

QJKJQ
 佐藤究 本体予価:未定

教会堂の殺人 ~Game Theory~
 周木律 本体予価:484

失踪者
 下村敦史 本体予価:842

新装版 蜜と毒
 瀬戸内寂聴 本体予価:未定

愛と人生
 滝口悠生 本体予価:未定

小説 透明なゆりかご(下)
 橘もも 沖田×華 本体予価:未定

江戸は浅草
 知野みさき 本体予価:756

時間を止めてみたんだが
 藤崎翔 本体予価:未定

君の隣に
 本多孝好 本体予価:未定

幻想短編集
 堀川アサコ 本体予価:未定

ハゲタカ4・5 スパイラル
 真山仁 本体予価:未定

呉越春秋 湖底の城(7)
 宮城谷昌光 本体予価:未定

そして二人だけになった Until Death Do Us Part
 森博嗣 本体予価:未定

光文社文庫

灰色のパラダイス杉原爽香〈45歳の冬〉
 赤川次郎 本体予価:未定

東京すみっこごはん(4)(仮)
 成田名璃子 本体予価:未定

黄色館の秘密 新装版
 折原一 本体予価:未定

猟犬魂
 南英男 本体予価:未定

通り魔 昭和ミステリールネサンス
 結城昌治 本体予価:未定

花氷
 松本清張 本体予価:未定

獅子の門 雲竜編
 夢枕獏 本体予価:未定

キッド・ピストルズの冒?
 山口雅也 本体予価:未定

荒川乱歩の初恋ハイスクール探偵
 阿野冠 本体予価:未定

バネジョのお嬢様が焼くパンケーキは謎の香り
 文月向日葵 本体予価:未定

社内保育士はじめます (株)トワ電機事業所内保育ルーム(仮)
 貴水玲 本体予価:未定

正雪の埋蔵金 日暮左近事件帖(1)
 藤井邦夫 本体予価:未定

忍者大戦 赤ノ巻
 光文社文庫編集部 二階堂黎人ほか 本体予価:未定

光文社古典新訳文庫

未来のイヴ
 ヴィリエ・ド・リラダン 高野優 本体予価:未定

方丈記
 鴨長明 蜂飼耳 本体予価:未定

白痴(4)
 ドストエフスキー 亀山郁夫 本体予価:未定

集英社文庫

La Vie en Rose ラヴィアンローズ
 村山由佳 本体予価:未定

九十九藤
 西條奈加 本体予価:未定

左目に映る星
 奥田亜希子 本体予価:未定

スーパー・ゼロ
 鳴海章 本体予価:未定

北風 小説早稲田大学ラグビー部
 藤島太 本体予価:未定

マダラ死を呼ぶ悪魔のアプリ
 喜多喜久 本体予価:未定

はぐれ馬借(2)(仮)
 武内涼 本体予価:未定

おいしい旅夏の終わりの佐渡の居酒屋
 太田和彦 本体予価:未定

スノーマン(仮)
 一雫ライオン 本体予価:未定

泥棒は銀のスプーンを数える
 ローレンス・ブロック 本体予価:未定

新潮文庫

長流の畔 流転の海 第八部
 宮本輝 本体予価:767

鬼神の如く黒田叛臣伝
 葉室麟 本体予価:680


 朝井まかて 本体予価:767

半席
 青山文平 本体予価:637

闇の峠
 諸田玲子 本体予価:853

内職大名(仮)
 藤原緋沙子 本体予価:497

杏奈は春待岬に
 梶尾真治 本体予価:680

祇園白川 小堀商店 レシピ買います
 柏井壽 本体予価:680

レプリカたちの夜
 一條次郎 本体予価:594

やぶれかぶれ青春記・万博奮闘記
 小松左京 本体予価:637

周五郎少年文庫 黄色毒矢事件少年探偵春田龍介
 山本周五郎 末國善己 本体予価:767

祥伝社文庫

陽気なギャングは三つ数えろ
 伊坂幸太郎 本体予価:未定

ハーフウェイ・ハウスの殺人
 浦賀和宏 本体予価:未定

絹の遺産と上信電鉄
 西村京太郎 本体予価:未定

ホケツ!
 小野寺史宜 本体予価:未定

ダークリバー
 樋口明雄 本体予価:未定

ちくま文庫

座右の古典今すぐ使える50冊
 鎌田浩毅 本体予価:907

ハモニカ文庫と詩の漫画
 山川直人 本体予価:799

アンソロジー カレーライス!!大盛り
 杉田淳子 本体予価:864

日々の整体 決定版
 片山洋次郎 本体予価:778

増補 頭脳勝負将棋の世界
 渡辺明 本体予価:842

遺言対談と往復書簡
 石牟礼道子 志村ふくみ 本体予価:1026

ちくま学芸文庫

日本人の死生観
 立川昭二 本体予価:1296

個人空間の誕生食卓・家屋・劇場・世界
 イー・フー・トゥアン 阿部一 本体予価:1404

確率微分方程式
 渡辺信三 本体予価:1296

独立自尊福沢諭吉と明治維新
 北岡伸一 本体予価:1404

中公文庫

ひぐまのキッチン
 石井睦美 本体予価:734

ブルーロータス巡査長 真行寺弘道
 榎本憲男 本体予価:842

味覚清美庵美食随筆集
 大河内正敏 本体予価:886

ドーダの人、西郷隆盛
 鹿島茂 本体予価:1015

目まいのする散歩
 武田泰淳 本体予価:886

最後の名裁き大岡越前ふたたび
 早見俊 本体予価:778

実歴阿房列車先生
 平山三郎 本体予価:1080

銀色のマーメイド
 古内一絵 本体予価:691

食道楽
 村井弦斎 村井米子 本体予価:972

自殺論
 デュルケーム 宮島喬 本体予価:1620

イエズス会の歴史(上)
 ウィリアム・V・バンガート 上智大学中世思想研究所 本体予価:1512

イエズス会の歴史(下)
 ウィリアム・V・バンガート 上智大学中世思想研究所 本体予価:1512

創元推理文庫

世界推理短編傑作集(2)【新版】
 江戸川乱歩 本体予価:1037

図書館の殺人
 青崎有吾 本体予価:950

ミスコン女王が殺された
 ジャナ・デリオン 島村浩子 本体予価:1080

放課後の名探偵
 市川哲也 本体予価:734

翼をください(仮)
 田南透 本体予価:886

ホテル・リッツの婚約者
 スーザン・イーリア・マクニール 圷香織 本体予価:1469

カササギ殺人事件(上)
 アンソニー・ホロヴィッツ 山田蘭 本体予価:1080

カササギ殺人事件(下)
 アンソニー・ホロヴィッツ 山田蘭 本体予価:1080

魔術師ペンリック(仮)
 ロイス・マクマスター・ビジョルド 鍛治靖子 本体予価:1620

創元SF文庫

動乱星系
 アン・レッキー 赤尾秀子 本体予価:1296

ハヤカワ・ミステリ文庫

プレイバック
 レイモンド・チャンドラー 村上春樹 本体予価:864

兄弟の血―熊と踊れ(2)(上)
 アンデシュ・ルースルンドほか ヘレンハルメ美穂 本体予価:907

兄弟の血―熊と踊れ(2)(下)
 アンデシュ・ルースルンドほか ヘレンハルメ美穂 本体予価:907

ハヤカワ文庫

賢者の怖れ(5)
 パトリック・ロスファス 山形浩生ほか 本体予価:1037

星界の戦旗(6)帝国の雷鳴
 森岡浩之 本体予価:691

大統領の陰謀〔新版〕
 ボブ・ウッドワードほか 常盤新平 本体予価:1274

帰郷戦線―爆走―
 ニコラス・ペトリ 田村義進 本体予価:1253

ウルトラマンF
 小林泰三 本体予価:1015

ウルトラマンデュアル(2)
 三島浩司 本体予価:1339

ハヤカワ文庫SF

接続戦闘分隊暗闇のパトロール
 リンダ・ナガタ 中原尚哉 本体予価:1231

宇宙英雄ローダン・シリーズ576 バベル・シンドローム
 H・G・エーヴェルスほか 星谷馨 本体予価:713

宇宙英雄ローダン・シリーズ577 グレイ回廊からの脱出
 H・G・エーヴェルスほか 嶋田洋一 本体予価:713

ローダンNEO フェロル攻防戦
 ミハエル・マルクス・ターナー 本体予価:756

文春文庫

天人唐草 自選作品集
 山岸凉子 本体予価:756

数字を一つ思い浮かべろ
 ジョン・ヴァードン 浜野アキオ 本体予価:1242

フェルメール最後の真実
 秦新二 成田睦子 本体予価:1080

世界史の10人
 出口治明 本体予価:886

山崎豊子先生の素顔
 野上孝子 本体予価:864

現場者 300の顔をもつ男
 大杉漣 本体予価:778

仕事。
 川村元気 本体予価:745

騙り屋 新・秋山久蔵御用控(2)
 藤井邦夫 本体予価:756

八丁堀「鬼彦組」激闘篇 奇怪な賊
 鳥羽亮 本体予価:734

火盗改しノ字組(2)武士の誇り
 坂岡真 本体予価:756

京洛の森のアリス(2)自分探しの羅針盤
 望月麻衣 本体予価:734

薫香のカナピウム
 上田早夕里 本体予価:886

赤い博物館
 大山誠一郎 本体予価:821

スクープのたまご
 大崎梢 本体予価:864

太陽は気を失う
 乙川優三郎 本体予価:810

中野のお父さん
 北村薫 本体予価:702

朝が来る
 辻村深月 本体予価:756

武士道ジェネレーション
 誉田哲也 本体予価:799

西一番街ブラックバイト 池袋ウエストゲートパーク(12)
 石田衣良 本体予価:702

コンビニ人間
 村田沙耶香 本体予価:626

島田荘司「北の夕鶴2/3の殺人」とスターハウス



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島田荘司の最高傑作の一つに数えられる「北の夕鶴2/3の殺人」。
リアルな世界を扱っているはずだった吉敷竹史シリーズで奇想天外な大トリックを仕掛け、さらには別れた妻とのハードボイルドな人間ドラマで泣かせるという、まあともかくどこから切り取っても超絶好調の一編で、細かく語り始めるとキリがありません。

ところで、今回は物語に深く分け入るわけではなく、この大トリックの舞台となったマンションの話です。
その名も「三ツ矢マンション」。
作中ではこのように紹介されています。
マンションは、東京で見かけるような四角く味気ないコンクリートの箱ではなく、言わば五階建ての塔とでも呼んだ方がよいような造りで、上から見ると、五月のこいのぼりの先につけた三枚羽根の風車のような形をしている。これは、マンションの所有者三矢氏が自分の名前をもじってこういう形にしたものらしい。
そして島田ミステリのお約束である、見取り図も載っています。(光文社文庫版より)

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さて、筆者は中学2年生のときにこの小説を読んだのですが、このような形の建物は見たことがなく、作中での説明を鵜呑みにして、これは「斜め屋敷」と同じく、トリック成立のための作者が考え出した特殊な建築物だと思いこんでいました。

それから約20年後。30を過ぎてからとある地方都市へ引っ越しました。その近所にこの形の団地を見かけたときは、本当に仰天しましたね。なんと実在したんだ!
この団地は昭和30年代後半から開発されたニュータウンで、なかでも最も古い建物がこの形でした。3棟並んでいましたが、筆者が見かけた時点ですでにボロボロの廃墟のようになっており、近くまでいってみたものの、人は住んでいませんでした。(今はすでに取り壊されてなくなっています)
その時点では、こんな建物が本当にあったとはねえ……と、単なる偶然の一致程度に考えていたのですが、その後、原武史「レッドアローとスターハウス」(新潮社)を読んで、実はこれは「スターハウス」というマンションのタイプで、全国的に展開されていたものだと知りました。



本書は東京のひばりが丘を中心にした文化・思想史を綴ったものですが、西武池袋線沿線で10年ほど暮らしたこともある筆者には、非常に興味深いものでした。
この中で、スターハウスについても詳しく語られています。
ひばりが丘では1棟だけ、モニュメント的にスターハウスが保存されているということです。(冒頭のGoogleストリートビュー)

また、ひばりが丘だけでなく、全国各地に今もまだ人が住んでいたり、あるいは単に取り壊されずに残っているだけ、といういった形で現存しているようです。



こちらは関西の仁川団地。スターハウスが何棟か立ち並んでおり、まさに三ツ矢マンションの様相です。

島田荘司ファンはぜひ一度、ご覧になることをおすすめします。

関連記事:
島田荘司「異邦の騎士」の舞台をGoogleストリートビューで巡る
島田荘司『占星術殺人事件』京都観光マップ

読書感想文について

前回の投稿は、読書感想文について書こうと思っていたところ、子どもの頃の思い出を語っているうちに話がそれてしまい、軌道修正をあきらめました。
改めて、読書感想文について。

前回も書いたとおり、筆者は子どもの頃から本は好きでした。
しかし、読書感想文に取り掛かる時期は遅かったですね。
ほかの宿題はさっさと済ませて、あとは読書感想文だけ、という状態になっても、なかなか書き始められない。8月20日を過ぎて、そろそろ書かないとヤバイんじゃない、という時期になっても、どの本で感想文を書くかすら決まっていない。

といっても、読書嫌いの子どもとは違うので、本はいくらでも読んでいました。ただ、感想文を書くとなると、果たしてどの本がまともな「読書感想文」になり得るのか?ということで悩んでいたわけです。

世の中の本好きの間では、夏休みの読書感想文も、子どもを読書嫌いにさせる一因では、と言われています。しかし、筆者は自身の子どもの頃を振り返ると「それは違う」と思います。
もっとも、もともと読書に関心のない子どもが感想文を書くことで本好きになるかといえば、そんなこともないでしょうけれど、要するに「本が好きか嫌いか」と「読書感想文」とは何の因果関係もないと考えています。

というのは、読書感想文というのはやはり「宿題」なんですよね。学校の課題です。趣味の読書とは違います。
どんな本であろうと立派な読書感想文を書ける能力があれば一番楽でしょうが、筆者の場合はそういう器用なことはできませんでした。
このため、自分が読んだ本のなかに感想文のネタに使えそうな本がないかと、ずっと考え続けていたわけです。

「感想文のネタ」と書きましたが、感想文は宿題である以上、自由研究と同じで「こういうことについて書きます」というハッキリしたテーマが必要だと思います。
テーマは、実際には本を読む前から決まっていても構いませんし、本を読みながら思いついたテーマであれば胸を張って「感想文」だと言えます。
読書感想文という宿題は、読んだ本の書評をダラダラと書くものではなく、読書を通して得た体験を交えながら、何かしら設定したテーマについて書くものなのです。

本能的にそのことを察知していた筆者は、「テーマ設定しやすいかどうか」という観点でネタにする本を決めようと、8月の後半はずっと考え込み続けていたわけですが、そのように戦略的に組み立てていたおかげで、小学1年生から中学3年生まで、ほぼ毎年のように校内のコンクールでは表彰されていました。校外でも表彰されるほど立派な文章を書く能力はなかったのですが、まあ「読書感想文は感想を書くものではない」ということに気づくかどうかというだけで、褒めてもらえるレベルの作文にはなるということです。

筆者の息子はこのような観点を持ち合わせていないようで、これまでは目を覆いたくなるような惨状を呈した作文を、それでもひーひー言いながら仕上げていますが、いつも書き上がってから読ませてもらうため、いまさらダメ出しするのも気の毒かな……と思ってそのままスルーしてしまっています。
今年こそ、ネタ作りの段階から付き合ってやろうかとも思いますが、去年もそんなことを思っていて結局失敗したな……
息子も下手に本好きであるだけに、なかなか介入するタイミングが難しいです。
そもそも感想文以前に、作文能力がちっとも向上していないように感じるので、まずは日記を書かせたりとか、そこからですかね。

関連記事:
子どもの頃の読書について

子どもの頃の読書について

筆者は子どもの頃は今以上に本好きだったように思います。
夏休みの楽しかった思い出といえば、海や川で泳いだり、虫を捕まえたりといったこと以上に、風通しのよい部屋で、畳に寝そべってずっと本を読み続けていたことがまず頭に浮かびます。

親や親戚のおじさんからは、しょっちゅう本を買ってもらっていましたが、5年生くらいになって一人で本屋へ通うようになるまでは、基本的に筆者に本は周りの大人が勝手に選んで買っていました。一緒に本屋へ行ったとしても、筆者が自分の好きな本を立ち読みしているあいだに、買う本は勝手に選ばれていました。両親だけでなく、おじさんに本を買ってもらうときも同じような展開だったので、当時の大人は本というのはそういうものだと考えていたのかもしれません。

当時もこの方式に特に不満は持っていなかったのですが、今ふりかえってみても、あれはあれで、非常に良かったと思います。
このような体験から、実は本好きの子どもを育てるには、ある時期までは大人の介入が必要なのではないか、ということを考えています。
息子が小学4年生になって読書のレベルが上ってくると、ますますそのように考えます。

子どもには興味の赴くままに好きに本を読ませておくのが一番だ、ということが世間の本好きのあいだではよく言われます。そして、課題図書を選定するなど何かというと「良書」へ子どもを導こうとする学校教育での読書指導に対する批判がなされたりします。
しかし、筆者は子どもへの「押し付け」は、ある程度はあった方がよいと考えます。
好きな本を好きなように読む、というのも本好きに育つためには必要なことですが、それと並行して、子どもがまだ知らない世界、背中を押してやらなければ手を伸ばさないであろう分野を、読書の先輩として大人が指し示すということも必要です。

筆者自身が子どもの頃を振り返ると、そもそも「西遊記」「十五少年漂流記」あたりも、タイトルすら聞いたことがないという段階で父が何の相談もなく突然買ってきたものでした。「漢字だらけの題名で難しそうだな」と思いつつも、読んでみるとめちゃくちゃ面白い。これで一気に「世界の名作」への扉が開いたわけです。
また、読書感想文用の課題図書は、毎年必ず母が買ってきました。母はかなりの読書家なのですが、一方で「ベストセラーを必ず買う」というミーハーな一面も持っており、今でも筆者が「うへー」と思うような本をいそいそと買ってきているのを見かけますが、課題図書を毎年買っていたのもその一環かな、という気がします。
しかし、この課題図書、やはり選ばれるだけあって読んでみると面白いんですよね。
自分では絶対に探し出せないであろう面白本を紹介してもらえるのが課題図書、というイメージを持っていました。課題図書は物語だけでなく、ノンフィクションも多いため、そういった方面の本の読み方もこの時期に身に着けたように思います。

そんなわけで、筆者は息子には「こいつが自分では見つけられないだろう本を、ポンと目の前に置いてやろう」ということをいつも気にしています。
とはいえ、毎回食いつくわけではありません。
満を持しておすすめしてみたものをあっさりスルーされるとかなりガッカリしますが(一年生のうちに「大きい1年生と小さな2年生」を読んでくれなかったのが未だに悲しい)、以前の記事に書いたように「十五少年漂流記」は苦心の末に読ませることに成功、その後、何度も読み返しているのでしてやったりです。乱歩の少年探偵団シリーズもまんまと読ませることができました。

とはいえ、大人が読書に介入できる時期はたぶんそろそろ終わりでしょう。5~6年生になったら、それこそ好きな本を好きなように選んで読むのが当たり前になってきます。
まあ、そのときには本好き同士でガチに趣味の話をするのもいいかな、と思います。

次回は、夏休みの難関、読書感想文について。

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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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